シングルガール必読の人気漫画から、感動の長編小説まで。 本読みのプロおすすめ!読書の秋に読みたい、心を揺さぶる本6選vol.1
読書の秋に読みたい、心を揺さぶる本とは?シングルガール必読の人気漫画から感動の長編小説まで、青野賢一さん、トミヤマユキコさん、瀧井朝世さんをナビゲーターにお迎えしてお届け!
1.武田百合子『日日雑記』
作家・武田泰淳の妻として生活し、夫の死後に随筆家としてデビューした著者。飾らず作りこまず、淡々と綴られる日々の記録が、眩しいほどに鮮やかな感性をふわりと浮かび上がらせる。(中公文庫/590円)
類稀な観察眼でもって身の回りや世の中を眺め、それをストイックなまでの純度で文章化した武田百合子の最後の作品。何気ない出来事、食事、映画、デパートのにぎわいといった、まさに日々のあれこれを記したその言葉に何度も鼻の奥がつーんとなり、時折表出する死の気配に名状しがたい空虚感を覚え、でも軽やかな笑いも確かにあって、こんな文をほかには知らない。(青野賢一)
2.岡崎京子『pink』
都内のマンションでワニと暮らすユミちゃんは22歳。好きな色はピンク。昼はOL、夜はホテトルをしてワニの餌代を稼ぐ日常に、小説家志望のハルヲが現れて、日常が動き出す。(マガジンハウス/1,143円)
1989年の『NEWパンチザウルス』連載中から愛読していた『pink』。消費されることで消費することが可能となるという資本主義のループのただ中において、“消えてゆかない”なにかを求め、翻弄される主人公・ユミちゃんの姿は、強くて弱くてかっこよくて愛おしく悲しい。ラストのユミちゃんと異母妹・ケイコが空港でハルヲくんを待つシーンの晴れやかで残酷なことよ!(青野賢一)
3.ヴィルヘルム・イェンゼン、ジークムント・フロイト『グラディーヴァ/妄想と夢』
古い浮彫に描かれた一人の女と、その佇まいに心を奪われた考古学者の恋物語。併録の「妄想と夢」は「グラディーヴァ」に触発されたフロイトが著した初の文学論。(種村季弘・訳/ 凡社ライブラリー/1,500円)
ローマの太古美術館で出合ったレリーフの中の女性像に惹かれ、その複製を密かにグラディーヴァと名付けて愛でていたドイツの考古学者。グラディーヴァの手がかりを追ってやってきたポンペイでの幻想的な出来事を描いた小説だが、とてつもなく美しい描写による結末から、ある種の恋愛小説としても読むことができる。同作を精神分析的に解題したフロイトの論文も所収。(青野賢一)
4.池辺 葵『プリンセスメゾン』
主人公は運命の物件を探す20代の独身女性。家を買うって大きすぎる夢?いいえ、《自分次第で手の届く目標です》。等身大の暮らしについて考えるときのお供にしたい名作漫画。(小学館/既刊3 巻 各552円)
年収250万円ちょっとの居酒屋店員・沼ちゃんが、マンションの購入に向けてがんばる物語。そのほかにも、都会で自分の居場所を探すシングルガールがたくさん出てきます。《努力すればできるかもしれないこと、できないって想像だけで決めつけて、やってみもせずに勝手に卑屈になっちゃだめだよ》という言葉には、夢見ることの大切さが詰まっています。(トミヤマユキコ)
5.キルメン・ウリベ『ムシェ 小さな英雄の物語』
スペイン内戦下、バスクから20,000人の子供たちが他国へ疎開した。少女を養子に迎えたムシェ、その娘や友人など実在の人物の声をちりばめた美しい小説。(金子奈美・訳/白水社エクス・リブリス/2,300円)
バスク文学の書き手である著者が、なぜバスクの疎開児童ではなく、彼らの疎開先であるベルギーの青年の話を書いたのか? と思いながら読み進めるうちに、青年が辿る運命に圧倒される。そして最後の一段落で涙腺決壊。《英雄はそこかしこにいる、昔も今も、ここにだって、世界中どこにでも》という言葉に深くうなずくことになる、まさに《小さな英雄》の物語。(瀧井朝世)
6.中脇初枝『世界の果てのこどもたち』
日本人の珠子と茉莉、日本教育を受けた朝鮮人の美子。戦時中の満州で出会った三人の少女は、時代に翻弄されながらも懸命に生きていく。満州、中国、日本を舞台に描かれる運命の物語。(講談社/1,600円)
映画化された『きみはいい子』で注目を浴びた著者の渾身の力作長篇。戦後、過酷な運命にさらされて生きていく三人の少女の友情、恋を含め人生まるごとを描き切る。そのそれぞれの波瀾万丈っぷりに、読者も翻弄され、心揺さぶられっぱなし。本を閉じた後には、人々がこんな辛い思いをしなくてはならない《世界の果て》がなくなるようにと祈らずにはいられない。(瀧井朝世)
青野賢一(あおの・けんいち)/〈ビームス創造研究所〉クリエイティブディレクターとして、主に社外のクライアントワークを行う。『ミセス』『CREA』などの女性誌でも連載を持つ。
トミヤマユキコ(とみやま・ゆきこ)/ライター、研究者。少女漫画、文芸、サブカルにまつわる執筆や連載を抱える。著書に『パンケーキ・ノート─ おいしいパンケーキ案内100』がある。
瀧井朝世(たきい・あさよ)/ライター。TBS系『王様のブランチ』本コーナーのブレーンを務める。WEB本の雑誌「作家の読書道」など連載のほか、作家インタビューや書評の寄稿も多い。
(Hanako1127号掲載/text:Hikari Torisawa)