連載〈HOME SWEET HOME〉 食のプロのセンスをインテリアから学ぶ。 CASE37 村上未知

LEARN 2025.08.29

おいしいものを作る人、おいしい場所をプロデュースする人。食に関わるプロフェッショナルのセンスを、プライベート空間のインテリアから学びます。

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DIYでクリーンに、古い家具や花で表情を作る。

バルコニーの広さに惹かれて引っ越しを決めた築五十余年のマンション。手軽なDIYで取り戻した清潔感と、古い家具の表情をうまく調和させ、花や緑も欠かさずに。日常を愛でる目で、整えた家。

天井高があまりないので、ペンダントライトではなく、天井照明を主に活用。大きな窓は魅力で、故郷・山口県宇部市のときわ公園で撮影した姪の写真も3枚目の窓のよう。
天井高があまりないので、ペンダントライトではなく、天井照明を主に活用。大きな窓は魅力で、故郷・山口県宇部市のときわ公園で撮影した姪の写真も3枚目の窓のよう。

住まいで譲れない条件を村上未知さんに尋ねると「二面採光で、水回りに窓があること。だからおのずと一軒家か角部屋になるんです」という答えが返ってきた。プラス、駐車場。雨の日も風の日も、重いカメラ機材の運搬は仕事の一部だから、玄関から駐車場の距離は冗談抜きでクオリティ・オブ・ライフに関わる。シンプルなようで、最低限必要な広さや家賃の予算も考慮すると、なかなかに難しい条件をすべてクリアしたのが、東京都杉並区にある今のマンションだ。暮らし始めて4年近くになる。

傷みや汚れはマスキング、木の家具の表情を基調に。

想定していた場所よりやや都心から離れたけれど、「そこは妥協してもいい!」と、決断を後押しされたのは、広々としたバルコニーがあったから。

「5月ぐらいから寒くなる前まで、夕方と夜をほぼバルコニーで過ごしています。高台に立つマンションだから眺めがよく、風が抜けて気持ちがいい。屋外用のラグを敷いて、裸足のまま出ています」

大小の鉢植えと、アウトドア用の家具や照明で心地よく整えた広いバルコニーは、プラス一部屋以上の価値がある。

築年数は50年以上と古く、傷んだところや、趣味にそぐわない箇所には自分で手を入れた。

「ホームセンターなどで手に入るカッティングシートやタイルシールを使えば簡単。汚れたり気分を変えたりしたくなったら、また張り替えればいいので」

キッチンの壁やシステムキッチンの外装、玄関や和室の床などなど広範囲ゆえ、ともするとチープな雰囲気に陥りがちだが、室内に配された古い家具の風合いがそれを阻んでいる。

大きなダイニングテーブルは、以前の住まいの近くにあった目黒通り沿いの家具店から格安で譲り受けたもの。店先に天板だけが置かれていたのを見つけ、木の表情にほれ込んで店主に声をかけ、室内に搬入してから脚を付けてもらった。だから引っ越しのとき無事に運べるか心配だったけれど、搬出、搬入ともに問題なしで、食卓と作業デスクを兼ねる暮らしの要として、今も活躍している。

和室の入口の木枠のガラス戸は、20年以上前に古道具店で求めたもので、二度の引っ越しを共にしている。

「今の家の枠には微妙に高さが合わないのだけれど、滑車などを付けて微調整しています」と、ここもひと工夫。

和室には、ぎっしりと蔵書が並ぶ本棚が置かれている。「本はなるべく増やさないようにしているのですが、山登りに使う地図と、相撲の力士名鑑だけは紙の本がよくて」と、本の話から、幅広い趣味が露わに。本棚自体は、通販で求めた量産品だけれど、古い引き戸越しに並ぶ佇まいは、今の家で好きな眺めの一つだという。

季節の花や花器、日常を彩るものを大切に。

大好きな引き戸と本棚の眺め。左端の壺は、終活に励む伯母から譲り受けたもの。円座は月桃編みの自作(制作中)。
大好きな引き戸と本棚の眺め。左端の壺は、終活に励む伯母から譲り受けたもの。円座は月桃編みの自作(制作中)。

もう一つ、室内を見渡して印象に残るのは、美しく活けられた季節の花々だ。取材を機に出会ったフラワースタイリストの平井かずみさんの花活けのレッスンには、もう20年近く通っているという。近年、以前にも増して増えた工芸の取材先でも、求めるのは花器ばかりで、それらも古い木の棚に美しく並び、部屋の景色を作っている。

ヴィンテージマンションのような超高級物件では決してないし、リノベーションに奮発したわけでもないけれど、工夫とセンスで素敵な住空間を作る好例。それは、一見ごく普通に見えたり、素朴だったり、ときに生活感さえ感じるようなものでさえ、美しく切り取ってしまう村上さんの写真にも通じる。そこにあるもののディテールや情報を確かめる前に、移ろう光や風の動きが心に触れる感じもまた、彼女の写真と部屋の共通点だ。

築54年、バルコニーを除いて46 m<sup/>2 の1LDK。中層マンションの6階の角部屋。トイレ、浴室にも窓があり「湯船に浸かると見えないけれど、浴室の窓からの見晴らしもよい」とのこと。
築54年、バルコニーを除いて46 m2 の1LDK。中層マンションの6階の角部屋。トイレ、浴室にも窓があり「湯船に浸かると見えないけれど、浴室の窓からの見晴らしもよい」とのこと。

【TODAY'S SPECIAL】旅先で覚えた味を日々の食卓に。

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元々、料理好きだったけれど、最近は国内外の旅先で料理教室に通うのが趣味で、定番のアレンジやレパートリーが充実している。ゴーヤ入りの豚しゃぶは、広島県福山市のおばんざいの店で食べて気に入ったものを参考に。大きなダイニングテーブルからバルコニーまで、食す心地よさが揃う家に友人たちが集まる。

ESSENTIAL OF -MICHI MURAKAMI-

遠く広い空から、缶に詰めた小さな世界まで。

( VASE )
作家の作品から、骨董まで。
花器のコレクション。唐津焼〈殿山窯〉矢野直人さんの作品(下段左から2番目)や、表参道〈PART OF NATURE〉で求めたガラス作品(中段左)など。


( BALCONY )
とっておきの“特別室”。
約10畳もの広さがあるバルコニーの、一番のビューシート。柵に取り付けられるテーブルは〈IKEA〉で、椅子は《MIURA Stool》をネットで購入。


( SOUVENIR )
小さな宝物を詰めたブリキ缶。
古伊万里の豆皿、沖縄県八重山諸島の黒島土産のフジツボといった旅土産から、愛車ジムニーのチョロQまで。ブリキの缶もベトナムの旅の名残。


photo_Michi Murakami illustration_Yo Ueda text & edit_Kei Sasaki

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