「人を蹴落としても上に行きたい」という気持ちが変化。歌人・上坂あゆ美さんキャリアチェンジのきっかけ

「人を蹴落としても上に行きたい」という気持ちが変化。歌人・上坂あゆ美さんキャリアチェンジのきっかけ
働き方、「私の場合」。
「人を蹴落としても上に行きたい」という気持ちが変化。歌人・上坂あゆ美さんキャリアチェンジのきっかけ
LEARN 2025.03.27
「今の働き方のままでいいの?」「自分らしさってなんだろう」「新しいことに挑戦したいけど、何から始めていいのかわからない」。迷えるHanako世代に向けて、一歩を踏み出した先人たちの生の声を集めました。しなやかな生き方は、私たちの背中を押してくれるケーススタディになるはず。PR会社での営業や広告代理店勤務から歌人へなった上坂あゆ美さんを紹介します。
photo_MEGUMI text_Kana Umehara
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上坂あゆ美
上坂あゆ美
歌人

うえさか・あゆみ/1991年、静岡県生まれ。2017年より短歌を作り始める。2022年歌集『老人ホームで死ぬほどモテたい』(書肆侃侃房)でデビュー。Podcast番組『私より先に丁寧に暮らすな』パーソナリティ。

「健やかだったことのない人生でした」

歌人・上坂あゆ美

歌人の上坂あゆ美さんは美術大学を卒業後、新卒でPR会社の営業として入社し、のちに広告代理店に転職、31歳で退職した。今は短歌のみならず、エッセイスト、ラジオやポッドキャストのパーソナリティとしても活躍する。

「生まれてこのかた健やかだったことのない人生でした。育った沼津という土地柄も学校にも家庭にもなじめずに、ここにいていいという実感が持てないまま社会に出た。何かで結果を残さないと私には生きる価値がないんじゃないかと新卒で入社したPR会社の営業をがむしゃらに頑張りました。仕事は好きというより得意だった。目的さえわかればルールをハックして最短距離でゴールを目指す。やることは端的で明確だし、達成するとお金と名誉が手に入る。当時の私にはそれが何より重要でした。広告代理店に転職したのももっと上を目指す野心から。そもそも新卒で入った1年目から虎視眈々とキャリアアップのタイミングを睨(にら)んでいました。業界の飲み会に顔を出したり、社外ゼミに通ったりと活動を続けていて。営業職3年目のとき、外資系広告代理店でマーケターのポストがあるよと声がかかり転職をしました」

新しい会社では人格者で尊敬できる上司と出会い、仕事環境もぐっとホワイトに。収入も安定し、心が満たされたことで仕事観も変化した。

「人を蹴落としても上に行きたい、認められたいと鎧で固めていた心が瓦解(がかい)かいされ、本当に必要なことは何かと考えられるようになって。そこで、今自分に足りないものは自己表現だとハタと気づいたんです。それで短歌を始めましたが、そのまま仕事になるとはまったく思ってなかったです。その後、尊敬する上司の転職やコロナ禍など事情が重なり、自分も辞めることに。その頃には仕事の意味が大きく変わっていたと思います。自分を守るためだけに働くのではなく、何かの役に立ちたい、貢献したいと。それこそが仕事なのだと気づいた。そのときに、あ、自分はやっと人間になったんだなと感じました」

上坂あゆ美さんエッセイ集『地球と書いて〈ほし〉って読むな』

上坂さんの仕事観を深掘りしたいならエッセイ集『地球と書いて〈ほし〉って読むな』は必読。海外に飛んだ父、豪快で腕っぷしの強い母、ヤンキーの姉…痛快な書きぶりに勇気をもらえる。1,980円(文藝春秋)。

スキルアップするためにどんなことをした?

「31文字を打ち込むだけの短歌はほかの創作と違いスマホひとつでできコスパがいい。はじめは新聞や雑誌の短歌コーナーに投稿を。掲載され、モチベーションが上がりました」

歌人・上坂あゆ美さんのヒストリー

2014年 PR会社の営業職に。過重労働、セクハラめいた行為への対応もこなし懸命に結果を残す日々。
2017年 PR会社を退社し外資系広告代理店に入社。夏頃、書店で岡野大嗣さんの歌集と出会う。疲れた心に沁みる言葉に感動し自己表現の手段として短歌に取り組み始める。
2020年 今を詠(うた)う若手歌人の歌集を作る『新鋭短歌シリーズ』に応募。5期メンバーに選出される。
2022年 はじめての歌集を上梓。広告代理店を退社。
2024年 初エッセイ集『地球と書いて〈ほし〉って読むな』が注目を集める。
2025年 歌人のみならず、エッセイやラジオ、演劇など多岐にわたって活動中。

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