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連載〈HOME SWEET HOME〉 食のプロのセンスをインテリアから学ぶ。 CASE29 橋本恭子
おいしいものを作る人、おいしい場所をプロデュースする人‥‥‥。
食に関わるプロフェッショナルのセンスを、プライベート空間のインテリアから学びます。
本連載「HOME SWEET HOME」の記事一覧はこちら。
小さなルールで、視覚的な情報量をコントロール。
「図面で一目ぼれ」した、日当たり抜群の部屋を、あるものを生かし、ルールを決めて自分のカラーに。疲れて帰ってきたときにくつろげて、人生のモチベーションもキープできる、愛しの我が家だ。

新宿区内にある自宅から西麻布の店まで、毎日約1時間かけて歩いて通勤している。独立前、レストランで働いていた頃は、昼夜のサービスだけで軽く1日1万歩以上歩いていたというが、10席の小さな“呑み屋”のカウンターの中では、ほとんど歩くことがないからだ。
「それに、長年ランチ営業もある店で働いていて一日中、店で過ごしていたので、昼間の町を歩く時間がすごく贅沢に感じられるんですよね」
毎日のルーティンから伝わるのは「仕事は大好き、でも生活も楽しみたい」と話す橋本恭子さんの生き方。それは、暮らしの空間作りにも表れている。
光と広さを生かして和洋をうまくミックス。

条件として設定していたエリアからは少し外れていたけれど、間取り図を見た段階で「ここに住むことになるだろうな」と思ったという。内見に来て、通りの反対側から建物を見た時点で思いは確信に変わった。
「古いけれど佇まいのよい建物だな、と。室内も想像通り。広さは十分、使いやすい間取りで、何より窓が大きく採光性が高いところが気に入りました」
考えていたより家賃は少し高め、でも立地と広さを考えれば、相場よりはかなり安い。「今は少し背伸びが必要でも、ふさわしい暮らしができるようになろう」と、契約を決めた。
空間作りは、広さと明るさをめいっぱい生かすことを第一に考えた。1LDKの間取りだが、リビングと寝室を仕切る引き戸を外して、一つの大きな空間に。窓際にはものを置かない。必要最低限の家具のほとんどは長く使い続けてきたもので、各国のテイストが交じり合う。
リビングで目を引くのが、岩手県の伝統工芸品、〈岩谷堂箪笥〉の箪笥だ。二段のユニット式だが、重ねず並べてテレビ台兼テーブルウェアなどの収納として使っている。アジアンテイストの両開きの戸棚は、実家の物置からの掘り出し物で、現在はブックシェルフとして活躍。イギリスのアンティークのダイニングテーブルの脇にも、食器棚使いする桐箪笥が並ぶ。
「収納家具は、中が見えないものが基本。器ひとつ取ってもいろんなテイストのものがあるから、表に見えると、空間がうるさくなってしまうので」
仕事を終えて帰宅したときに、視覚的な情報量が多いとくつろげない。だから、大きな家具は基本、木製かナチュラルカラーで統一し、カラフルなアイテムは点数を絞り、場所を決めてディスプレー。小さなルールが、居心地のよさの鍵になっている。
変遷を経て辿り着いた今のくつろぎの形。

「小学生の頃、すごく素敵な友達の家があって。お母さまの器使いや、ちゃぶ台を活用したテーブルのかっこよさなどを、今も覚えているんですよね」
早い時期にインテリアに興味を持ったのは、その友人宅に加え、雑貨店を営んでいた叔母さんの影響も大きいと話す。若い女性が憧れるような雑貨を中心に揃えた店は、実家の近くにあり、手作りの洋服もおしゃれで、遊びに行っては、ディスプレーされた商品を眺めて過ごしていたのだとか。10代はファンシー志向から外国かぶれへと移行し、大人になって結婚も離婚も経験して、住まいのロケーションもサイズもさまざまに変わった。でも確かなのは「今が、すごく充実している」ということ。軽い気持ちで始めた飲食の仕事がいつの間にか楽しくなり、責任のある立場を任され、ついに自分の店も構えた。家と同様に、好きな家具を配した、小さいけれど愛おしい“城”だ。「仕事は大好き、でも家が寂しくっちゃ人生が楽しくない」と、背伸びをして借りた部屋も8年の時を経て、橋本さんの今にぴったりとなじんでいる。


朝食にも、夜のおつまみにも!
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大の卵好きで、家の献立にも店のメニューにも卵は欠かせない。店ではソーセージエッグが大好評。家でもいろんな卵料理を楽しむけれど、定番はシンプルこの上ない、耳ナシの食パンで作る卵サンドイッチ。休みの日の遅めの朝食に、一人ワインを開ける午後のひとときに、これさえあればという好物だという。
ESSENTIAL OF -KYOKO HASHIMOTO-
見せるもの、仕舞うもの。収納、コーナー作りにワザあり。
( COLOR CORNER )
カラフルなアイテムを1カ所に。
色であふれた室内は落ち着かないけれど、モノトーンも寂しい。カラフルなアイテムは、ベッドサイドにまとめてディスプレーしてアクセントに。
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( GLASS )
グラス類限定の、見せる収納。
“見せない”収納が基本だけれど、唯一の例外が、視覚的に空間を圧迫しないグラスやガラス食器類。昼は自然光を、夜は照明の光を受けて美しい。
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( CUPBOARD )
真似したい、箪笥活用食器棚。
引き出し一段の高さが低めだから、重ね過ぎることなく、使いたい器をすぐに出せる。外からは見えないけれど、色や形で分類し、常に整理整頓。
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