連載〈HOME SWEET HOME〉 食のプロのセンスをインテリアから学ぶ。 CASE28 按田優子

LEARN 2024.12.02

おいしいものを作る人、おいしい場所をプロデュースする人‥‥‥。
食に関わるプロフェッショナルのセンスを、プライベート空間のインテリアから学びます。

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快適さや便利さより「おもしろい」が最優先。

家探しも住まいづくりも、とにかくユニーク! ブランドもトレンドも追わずに自分の「好き」を大切に。どことも似ていない部屋に、クリエイティビティと少しの不便を吹き飛ばす楽しさがあふれる。

元からあったシステムキッチンを生かし、ほかは店で使っていた作業台や「スタッフのお下がり」の電子レンジなどなど。推定、料理家界一リーズナブルなキッチン。
元からあったシステムキッチンを生かし、ほかは店で使っていた作業台や「スタッフのお下がり」の電子レンジなどなど。推定、料理家界一リーズナブルなキッチン。

バスが走る幹線道路からわずかの場所ながら、辺りは「トトロの森か?」という、鬱蒼とした木々に囲まれたロケーションだ。「場所はどこでもよく、不動産の検索サイトで、〝関東、70 m2 以上、7万円以下〟みたいな条件を入れてヒットしたうちの一軒で」と、按田優子さんはおかしそうに話す。都心から離れた住まいや二拠点生活を選ぶ人に絶大な人気を誇る神奈川県三浦半島の一角。ステレオタイプな「スローライフ」とは一線を画す清々しいほど独創的な家に、パートナーと暮らしている。

掘り出し物天国!安く買って、楽しく使う。

床板を使い自作した食器収納。「バラせば棚板や天板としても使える」と按田さん。
床板を使い自作した食器収納。「バラせば棚板や天板としても使える」と按田さん。

日本家屋とは違う白い箱のような簡素な建物は、土地柄、退役米軍人向けの住居を思わせる。詳細な歴史はわからないが、とにかく広くて明るく「二人が別々に過ごすこともできる」間取りが気に入ったという。ざっくりとした検索条件にヒットした候補はほかにもあったが、三浦には子供の頃から遊びに来ていたから、土地勘があった。

「最寄り駅までバスに乗れば10分で、バス停もすぐ。近所にコンビニやホームセンターもあって、ここなら覚悟を決めなくても暮らせると思ったんです」

生まれも育ちも東京・世田谷区、田舎暮らしのノウハウもない按田さんにとって、「移住」の大げさ感がない、心理的近しさが決め手になった。

かつての住人が置いて行ったシンプルなシステムキッチン以外に何もない空間は、自分たちで整えた。以前から使っていた食器棚を2台並べ、天板をのせた作業台をキッチンの真ん中に。

「この天板だけは家具職人に頼んで作ってもらったのですが、ほかはだいたい人からもらったものや、店で使わなくなったもの。あとは〈爆安屋〉です!」

引っ越してすぐ、ホームセンターを探していたときに見つけた〈爆安屋〉は、神奈川県で不用品回収業者が営むリサイクルショップで、大型家具から家電、食器まで何でも揃う。

「ちょっと足りない収納家具なんかを買いに行くつもりで出かけたら、おもしろくてすっかりハマってしまって。この冷蔵庫は2500円、この椅子は10
0円。本当に爆安でしょう。器は大きな袋に詰め放題で200円なんですが、ときどきブランドものやすごい上等な漆器なんかが紛れてたりするんです」

ブランドもノーブランドも関係なし。かわいいもの、おもしろいものが大好きで「それが安ければ最高!」という按田さんと〈爆安屋〉との相性はバツグンだ。今やすっかり行きつけになった。ほかにも「これは海辺に不法投棄されていたのを拾ってきた椅子で、これは友人からもらった、実は高級な家具」と、按田コレクションも〈爆安屋〉に負けぬカオス。出所も市場価値もバラバラのものたちの総体が、ラフでカラフル、にぎやかでとびきり楽しそうな生活空間を生み出している。

自分で好きに手をかけて生き生きとした空間に

エントランス脇に棚を並べて置き、玄関とキッチンの間仕切りに。棚は玄関側を下駄箱として、キッチン側を食器棚として使用。機能的!
エントランス脇に棚を並べて置き、玄関とキッチンの間仕切りに。棚は玄関側を下駄箱として、キッチン側を食器棚として使用。機能的!

「住まい選びの優先条件」は若い頃から明確だった。最初に一人暮らしをしたのは風呂なしのボロアパートだったし、40歳を過ぎて仕事が軌道に乗るまで「こぎれいなワンルームより、古くてちょっと不便でも広く、気持ちがいい家」を選んできた。

「店を開いた頃、世界中を旅した女性が営むゲストハウスに住んだことがあり。築100年超えの木造の平屋でボロボロなのだけれど、きれいにして、好きなものを並べると、空間が生き生きしてくる。以来、DIYできる物件でないとイヤになって」

家こそクリエイティビティの源泉? 餃子を今までにない形で刷新したり、レシピもどこか「生きる」力を鍛えるかのようなものだったり。味から浮かびあがる按田さん〝らしさ〟の片鱗が、部屋中にあふれている。

「真っ白の壁は病院みたいで」と下部を大好きなピンク色に塗装。カーテンも、気に入った布を選んで手づくり。
「真っ白の壁は病院みたいで」と下部を大好きなピンク色に塗装。カーテンも、気に入った布を選んで手づくり。
斜面に立つ築50年超えの鉄筋コンクリートのアパートは「昔はゲストハウス的に使われていたよう」(按田さん)。二子新地に借りている部屋との二拠点生活だが、今は8割が三浦暮らし。
斜面に立つ築50年超えの鉄筋コンクリートのアパートは「昔はゲストハウス的に使われていたよう」(按田さん)。二子新地に借りている部屋との二拠点生活だが、今は8割が三浦暮らし。

畑や海からの恵みを上質な調味料で!

連載〈HOME SWEET HOME〉食のプロのセンスをインテリアから学ぶ。 CASE28 按田優子

近所の農家さんにもらったり、借りた畑で自分たちで育てる野菜が、日々の食卓に。写真は海辺で穫ったあらめ(海藻)と大根の間引き菜、サツマイモのツルをオリーブオイルとケッパーで和えたもの。「調味料が一番高い」と、うれしそう。三浦半島で暮らし始めてから、南イタリアのさっぱりとした白ワインを飲む頻度が増えたとも。

ESSENTIAL OF -YUKO ANDA-

手づくりのものも、ユニークなコレクションも部屋の景色に。

( COLLECTION )
つい買ってしまう飯台コーナー。
海辺で拾う石から壺や花器類まで、按田さんのコレクションの幅は広いが、その一つに飯台がある。1カ所にまとめ、壁も使ってディスプレー。


( HANDMADE )
SDGs的発想?の手づくり石鹸。
〈按田餃子〉で豚肉をゆでる際に出る大量の脂は、料理に使い切れない分を石鹸に。卵や納豆のパックを型に、紫蘇やハーブで香り付けすることも。


( TABLEWARE )
逸品、珍品、器コレクション。
食器棚として使うガラスケースには、古い漆器からウェッジウッド、ファイヤーキングまでがずらり。ほとんど〈爆安屋〉で爆安価格で購入。


photo_Norio Kidera illustration_Yo Ueda text & edit_Kei Sasaki

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