連載〈HOME SWEET HOME〉 食のプロのセンスをインテリアから学ぶ。 CASE25 福田春美

LEARN 2024.10.28

おいしいものを作る人、おいしい場所をプロデュースする人。
食に関わるプロフェッショナルのセンスを、プライベート空間のインテリアから学びます。

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モノとの出会いも空間づくりも「必然」を第一に。

福田春美さんが海外を含めいろいろな土地・家に暮らしてきた中で「一番、長く住んでいる」と話すお気に入りの住まい。気張らず「あるもので」つくる空間の心地よさ、真似したいポイントが満載!

道具や器が「見せる収納」で連なるキッチン。膨大な物量だが、「毎日の台所仕事になくてはならないもの」と、「あると楽しくなるもの」だけが厳選されている。
道具や器が「見せる収納」で連なるキッチン。膨大な物量だが、「毎日の台所仕事になくてはならないもの」と、「あると楽しくなるもの」だけが厳選されている。

玄関からキッチン、ダイニング、リビングまで、とにかく家中、モノが多い。「そう? 最近、すっごい断捨離したばかりなの」と、笑いながら話すが、器や調理道具、照明、民芸品やアートピース、書籍、茶道具などなどが、コーナーごとにぎゅうぎゅうと、あふれんばかりに飾られている。にもかかわらず、乱雑な印象や埃っぽさはない。混沌の美学か、あるいはモノ一つひとつが持つ美しさゆえか……。
「そんな大それた話じゃないんです。もちろん、大事にしている家具や器もあるけれど、〈IKEA〉や百均で買ったものもある。住む場所も、生活の形も色々経験した今、“あるもので暮らす”のが心地いいんです」

持っているものに合わせて収納を組み立てる。

玄関は、故郷・北海道にまつわる民芸品や玩具を展示した「北方民族資料館」。木工作家・高野夕輝さんや、サハリンの少数民族、ダーヒンニェニ・ゲンダーヌさんの作品も。
玄関は、故郷・北海道にまつわる民芸品や玩具を展示した「北方民族資料館」。木工作家・高野夕輝さんや、サハリンの少数民族、ダーヒンニェニ・ゲンダーヌさんの作品も。

東京・目黒区の静かな住宅街に立つ今のマンションに暮らし始めて、10年近くになる。98 m2 もの広さがある、10年前の福田さんにとっては、やや“無理め”の物件だったが、たまたま大家さんと知り合いで、借り手を紹介するなどしていたところ「福田さんが住んだら。今の家賃はいくらなの?」と訊かれ、家賃や諸費用を、少しだけまけてくれたのだという。広いキッチン、リビング・ダイニングは理想だったが、建物は古く、イメージと違うところは自分で手を入れた。キッチンの壁をタイル張りにして、シンク下の収納扉もラワン材に張り替える。店舗プロデュースを手掛けた際に使用した水道管などを駆使し、吊り下げ収納も作った。
「若い頃は名作家具に憧れて、集めたりした時期もあったけれど、今はもう“こういう家具を揃えて、こんな空間にしよう”というのはないんです。必要なものが、きちんと収まればいい」
食器棚は、持っている食器の量、サイズを測って、仕事の現場で使った資材の端材を組み合わせて作った。ザルなどは天井から吊り下げた籠に収納する。「洗ったそばからしまえて、自然に乾いて、高い場所は埃も立ちにくい。合理的なんです」
「〈ハンズ〉の名品!」と絶賛する、角材と木箱を組み合わせた書架も、長年の愛用品だ。
「本棚は部屋が替わると使えなくなることが多いけれど、どんな部屋でも好きな幅と高さに組み替えられる。展示会などの現場に棚が必要なとき、本を出して持って行って使ったことも」

大勢の仲間が集い食卓を囲む時間が日常に。

DIYのキッチン収納。一見、カオスだが「収納マップ」は常に頭の中に。
DIYのキッチン収納。一見、カオスだが「収納マップ」は常に頭の中に。

キャリアやライフステージの変化に合わせ、数々の引っ越しを経験した福田さんの結論が「収納は機能第一」。愛着を持って集めた器や道具、装飾品が並べば、部屋の“いい顔”が出来上がるのは見ての通りだ。
近頃は「なるべく買わない」をルールにしている福田さん宅に、最近、新たな“大物”が仲間入りした。タブ材の一枚板のテーブル……を2台組み合わせた、10人以上が座れるダイニングテーブルだ。広い室内でも、どーんと、存在感がある。
「このテーブルにしてから、カセットコンロを置いてお客さんと話をしながら料理ができたりと、すごく楽しいんです」
料理上手、もてなし好きは有名で、「hamiru亭」と呼ばれる食卓に多くの仲間が集まる。
「実家がザ・昭和な銭湯を営んでいて、いつも家族以外の人も一緒にごはんを食べていたんです。だから気取った雰囲気、行って緊張するような家は苦手で」
公私にわたり、人と人を繋ぎ、人の輪の中で忙しく動き回る生活の中で、寛いだり、心を静めたりするのに一役買っているのが、数年前からハマっている台湾茶だ。リビングの一角に、茶道具を揃えた茶房を設けたほど。
「食事の後、場所を移してお茶を共にすると、また気分が変わって、みんな落ち着けるでしょう」と、やはり、人のことばかり考えているのだけれど。

リビング。イサム・ノグチのテーブルにヤオ民族の古座椅子などの組み合わせにセンスが光る。
リビング。イサム・ノグチのテーブルにヤオ民族の古座椅子などの組み合わせにセンスが光る。
1970年代に建てられた低層マンションの一室、98 m<sup/>2 の2LDK。長らくストックルームとして使っていた玄関脇の部屋は、最近ゲスト用のベッドルームに模様替えした。
1970年代に建てられた低層マンションの一室、98 m2 の2LDK。長らくストックルームとして使っていた玄関脇の部屋は、最近ゲスト用のベッドルームに模様替えした。

ゲストと季節を考えたおもてなしの一品。

カモミールの花寒天のなつめ糖水
カモミールの花寒天のなつめ糖水

来客のために食事やデザート(おやつ)を作ることは日常で、ゲストの嗜好に合わせたり、季節感を添えたりと、おもてなしにも余念がない。写真は、女性の集まりのために作ったカモミールの花寒天のなつめ糖水。カモミールを使った寒天に、いちじくや白きくらげ、クコの実を添えて。ビジュアルも味もおしゃれ。

ESSENTIAL OF -FUKUDA HARUMI -

好きなものを揃えて、コーナーごとの表情を作る。

( TEA THINGS )
リビングのお茶コーナー。
お湯を沸かせば、さっとお茶が楽しめる道具を揃えた「福春庵」。韓国の古い片口が道具箱で、木の皿を蓋代わりに。器の入れ替えも気分転換になる。


( WALL )
捨てられない紙類は一カ所に。
好きな菓子店の包装紙から自著のポスター、ポストカードやショップカード、手描きの仕事のプランメモまで紙類は粘着テープでずらり壁貼りに。


( WOOD CARVING )
貴重な作品から“雑熊”まで!
民藝ブームで脚光を浴びた熊の木彫り色々。入手困難な作家の作品から、土産物店に並ぶ“雑熊”まで、値段の高さや希少さだけでは測れない愛着がある。


photo_Norio Kidera illustration_Yo Ueda text & edit_Kei Sasaki

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