蛙亭イワクラ「マイ・スイート・コヤビン 」 | 連載【即断すぎて周りがとめる】vol.11

LEARN 2024.08.09

蛙亭イワクラさんは一見おっとりしているようだが、実は意志が強く、即断即決の人(早すぎて周りが「ちょっと待って、一回考えよう」と止めることもあるそう)。でも「イワクラを見ると周りが何かしてあげたくなる」ようなほっとけなさもある。「お笑いが人生を楽にしてくれた、自由にしてくれた」という彼女が見てきた景色、最近思うことについて少しずつ話してもらう連載です。
イラストはコンビの相方、中野周平さんが担当。

犬も食わない喧嘩を小籔さんが助けてくれました。

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イワクラ

  小籔千豊さんは目標とする先輩のひとりです。
  面白いし、話芸も鮮やかだし、芸人として尊敬する部分は山ほどあるんですが、いちばん憧れるのは、小籔さんの人となり。後輩に対して決して偉そうな態度を取らないところがすごく好きなんです。どんな後輩に対しても、必ずいいところを見つけてくれるし、「俺なんか、漫才はすぐやめてもうたから。みんなすごいわ」って、必ずリスペクトのスタンスで話をしてくれる。そこが、めちゃめちゃカッコいいなって。
  だから、後輩にはとにかく人気があるんです。小籔さん大好き芸人が集まって『マイ・スイート・コヤビン』っていうイベントが開かれたり。COWCOWの多田(健二)さん、ネルソンズの和田まんじゅうさん、天竺鼠の川原(克己)さんとかが集まって。
  小籔さんとの出会いは、『ドラフトコント』という番組でした(2022年放送、フジテレビ)。小籔さん、千原ジュニアさん、オードリーの春日俊彰さん、アンガールズの田中卓志さん、チョコレートプラネットの長田庄平さんの先輩芸人たちがキャプテンとなり、それぞれのチームのメンバーを「ドラフト」で指名し、チームごとにコントで競う、という番組でした。そのとき、小籔さんがわたしを指名してくれたんです。ほかには、和田まんじゅうさん、ビスケットブラザーズの原田泰雅さん、ハナコの秋山寛貴さんがチームメイトとなりました。
  小籔さんとガッツリ話をするのはそのときがほぼ初めてでした。メンバーが別室に召集され、番組スタッフが席を外し、わたしたち4人と小籔さんだけになったとき、小籔さんがこんなふうに言ったんです。「俺が経歴上いちばん上だからとか、新喜劇の座長だったからとか、そんなん全然関係ないから。みんなのやりたいことをやろうや」と。「コントとかも、若手の子たちはいまどんなんが面白いのか、教えてほしい」と。
  そして、小籔さんが率先してチーム用のLINEグループを作ってくれました。「最高のユニット」っていうグループ名だったんですが、それも小籔さんが決めてくれたんです。で、「ご飯でも食べながらしゃべろうや」と美味しいご飯に誘ってくれて。その後もしょっちゅうメンバーを誘ってくれたんです。「今日のお昼、どう?」「11時半、ランチいける人は集合」とか。で、おいしいランチをご馳走になって、カフェでお茶をして。チームが決まってから収録まで1週間ぐらいあったと思うんですが、基本、ずっとそんな感じでした。みんなすごく打ち解けて仲良くなって、いろんな案を出し合い、コントを考えて。結果、「子供が生まれた日」というコントをやって、優勝。ホントに楽しかった。ずっとこのまま続けばいいのにってくらい。
  小籔さんは、ただ優しいだけじゃなく、結構フラットにものごとを見てくれる人なんです。例えば、わたしがめっちゃムカつくことがあったとき、「これって、わたしが悪いと思いますか?」って憤慨しながら言ったら、「イワクラちゃんの気持ちはめっちゃわかる。俺もそういうことがあったらめっちゃ腹が立つと思う。でもな、そいつはアホなんやから、そこでイワクラちゃんがキレてしまったらアカンと思う」って、わたしには想像のつかない「返し」をアドバイスしてくれたりするんです。だから、何か困ったことが起こるとすぐに小籔さんに相談するようになりました。そして、普通だったら自分から先輩に対して、「ご飯、連れて行ってください」なんてお願いすることはほとんどないんですが、仲良くなってからは普通に(さや香の)新山を誘うぐらいの感じで、「小籔さん、今日、ご飯どうでしょうか」みたいに誘えるんです。自分でもびっくりしました。
  実はわたし、伊藤(俊介)くんと喧嘩して、1週間だけ別れてしまったことがあったんです。理由はこう。伊藤くんと一緒にとある居酒屋さんへ行ったとき、伊藤くんがお店の大将に強めに突っ込んだんです。わたしは「初対面の人に対してその態度は失礼だ」と怒った。すると伊藤くんは、「今まで飲みの場ではこうやって過ごしてきてるし、大将もそういう人だとわかって言ってるわけだから問題ない」って。価値観の違いというか、考え方の違いというか、それが転じて大喧嘩になっちゃったんです。
  そのときもすぐに小籔さんに相談をしました。すると、小籔さんはこんなふうに言ったんです。「イワクラちゃんがイヤだと思う気持ちもわかるけど、伊藤の気持ちもわかる。どっちの気持ちもわかるし、どっちが正解というのもない。だから、それがどうしても許せないなら別れればいい。でも、伊藤のことが好きなんだったら、もとにもどりたいと思うのなら、ちゃんと謝ったほうがいいよ」って。そして「芸人やめたらアカンで」って。「朝日を浴びて運動し」とか「お風呂にお湯溜めてちゃんと入り」とかLINEでめっちゃ送ってくれて。気分をリフレッシュできるおすすめのバスソルトを教えてくれたりもしたんです。
  そう、小籔さんってめちゃめちゃ女子力があるんですよ。小籔さんは子供の頃から魚以外のお肉を食べないのは有名ですが、結構な健康オタク。健康についてのYouTubeとかをしょっちゅう観てるそうで、「腸活した方がいい」ってアドバイスもよくしてくれるんです。そのときも「やっぱ腸活は大事やで。あと、にがりを白湯に入れたり、お味噌汁に入れたりして飲むといいよ」って。そして、「健康状態によってイライラすることがあるから喧嘩してしまうのかもしれへん。生活が不規則になってるところをまずは直しや」って。それで、小籔さんに言われたとおり、にがりとバスソルトを買いました。
  結局、わたしが頭を冷やし、伊藤くんに謝って、仲直りをすることができました。「小籔さん、すみませんでした。わたしがめっちゃキレてしまいました」って反省したら、「だから言ったやん、キレたらアカンで」って。
  小籔さんがあとで教えてくれたんですが、わたしが相談した後、小籔さんはすぐに伊藤くんともご飯に行って。裏でいろいろと動いてくださっていたんです。本当にもう、小籔さんには何から何までお世話になりっぱなし。今後も揉めるとは思うんですけど、そのときはまた“マイ・スイート・コヤビン”を頼りにしてしまいそうです。
蛙亭イワクラ
喧嘩を仲裁してくれた小籔さん。くれる言葉も振る舞いもめちゃくちゃカッコいい!
喧嘩を仲裁してくれた小籔さん。くれる言葉も振る舞いもめちゃくちゃカッコいい!
illustration_Shuhei Nakano(kaerutei) edit_Izumi Karashima photo_Koichi Tanoue

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