連載〈HOME SWEET HOME〉 食のプロのセンスをインテリアから学ぶ。 CASE24 冷水希三子

LEARN 2024.08.09

おいしいものを作る人、おいしい場所をプロデュースする人。
食に関わるプロフェッショナルのセンスを、プライベート空間のインテリアから学びます。

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おいしいもの好きが集まる「予約の取れないレストラン」。

外国人オーナーがフルリノベーションした物件を、自分のカラーに整えて。毎日、キッチンがフル稼働する家は、食いしん坊な仲間たちがこぞって訪れるサロン的な場所でもある。

ステンレスの作業台とレンジフードが、木材を生かしたインテリアのシャープなアクセントになっている。亜鉛の天板は185×85㎝で、作業台と高さを揃えてある。
ステンレスの作業台とレンジフードが、木材を生かしたインテリアのシャープなアクセントになっている。亜鉛の天板は185×85㎝で、作業台と高さを揃えてある。

初めて訪れた人の第一声は、決まって「わぁ、レストランみたい」。8人で囲める大テーブルが2つ、加えて「2、3人ならここで食事をすることも」と話すアイランド型の作業台は、シェフズテーブルの趣だ。〝満席〟なら20人? 確かに、小さなレストランのキャパシティである。膨大な器のコレクションが美しくディスプレー収納された室内は、ギャラリーショップのようでも。常に整理整頓されていて、生活感を感じさせるものが目につかないところも、誰もが「店のよう」と口を揃える理由だろう。

大充実のキッチンからバスルームまで理想の物件。

壁一面のクローゼットの中も、半分を器が占めている。キッチンとの間が壁ではなくスライド式の戸で、開け放てばより広く開放的に。
壁一面のクローゼットの中も、半分を器が占めている。キッチンとの間が壁ではなくスライド式の戸で、開け放てばより広く開放的に。
全面タイル張り、ホテルライクなバスルームもお気に入り。
全面タイル張り、ホテルライクなバスルームもお気に入り。

東京・目黒区の現在のマンションに暮らして8年になる。当時、自分にとって使い勝手のいいキッチンを備えた部屋を探していた冷水希三子さんにとって、今の物件は理想的だった。
「シンクは壁側で、上下にたっぷり収納がある。3口のガスコンロがある作業台は、オールステンレスのアイランド型。オーブン用のガス栓があるのも、譲れない条件でした」
 料理好きのオーナーがフルリノベーションした物件は、キッチンの造りや機能に加え、無垢材のフローリングからタイル張りのバスルーム、造り付けのデスクなど、どのパーツも文句ナシだった。「私は、そのまま暮らしているだけ」と、話すけれど、家具選びはもちろん、機能と美しさを考え抜いた収納の技から装飾品のあしらいまで、独自のセンスが貫かれている。アイコンともいえるのが、亜鉛の天板の作業台兼ダイニングテーブルだ。熱い鍋もそのまま置けるタフさと、ワインや料理の染みも〝味〟に変えてくれる寛容さがある。無機質だったり、温かみがあったりと、並べるもので表情も変わるから、撮影にも大活躍なのだとか。リビングに置かれたダイニングテーブルは、栃木県益子の木工作家・高山英樹さんの作品だ。木の表情が豊かで重厚感があり、やはり冷水さんの作る料理と、選ぶ器がよく映える。
 ソファを置かない部屋の、いったいどこで寛ぐのか。ときどき友人に尋ねられる。答えは窓際のデスクのローチェアだったり、ベランダにスツールを出してコーヒータイムを楽しんだり。高層階の部屋は窓の外が抜けていて、日当たりがよいのも気に入っているという。
 しかし概ね、キッチンに立っている。キッチンで暮らしていると言っていい。毎日、試作や仕込みをし、撮影をし、ときどき友人たちを食事に招く。料理教室も開いている。だから食事は、ほぼ試食で事足りてしまう。いや、試食が追い付かないほどだ。キッチンから離れるのは、外で食事をするときくらいだろう。東京はもちろん地方へもフットワークよく出かけるが、話題の店を巡るより、尊敬する料理人の店に通うのがスタイルだ。

食材から器の素材まで自然の彩り、質感が基調に。

デスクの両脇の造り付けの棚も、器がずらり。
デスクの両脇の造り付けの棚も、器がずらり。
ベッドルーム(初公開!)。リネンは国産の生地で作る〈YARN HOME〉を愛用。
ベッドルーム(初公開!)。リネンは国産の生地で作る〈YARN HOME〉を愛用。

 整理が行き届いたディスプレー収納も、冷水流インテリア術を語る上で欠かせない要素である。調味料などはすべて吊り戸棚に。スパイスなどはガラス容器に移して中身まで〝見える化〟し、サイズで分類し隙間なくきっちりと並べている。器は、ガラスのもの、陶磁器、木工作品と素材別に収納。美しく、コーナーごとの表情が生まれる。
 壁には韓国で建材に用いられる漆塗りの紙や、友人の作家が編んだ大麻のテーブルランナーなどが、絵画のように飾られ、卓上の彩りは農家さんからふんだんに届く旬の果物や野菜で、花の代わりに季節を伝える。窓際に置いたざるで野菜を干す様子までが、室内の景色だ。食材やクラフトの美しさを捉える視点と生かし方に真似のできないセンスが光り、それは料理と器で作る冷水希三子の世界ともつながっている。

築五十余年の高層マンションの一室、約70 m<sup/>2 の2LDK。奥行きがある間取りで、玄関から廊下を通じ、ダイニングの窓まで一直線に見通せる構造も気に入っている。
築五十余年の高層マンションの一室、約70 m2 の2LDK。奥行きがある間取りで、玄関から廊下を通じ、ダイニングの窓まで一直線に見通せる構造も気に入っている。

試作の品がそのまま日々の食卓に。

長ねぎのマリネ

ほぼ毎日のように試作や仕込みがあるから、食べるものには事欠かないという。写真は、数年来アップデートしながら作り続ける定番・長ねぎのマリネ。この日の客人が手土産に持ってきたパッションフルーツを、さっとソース代わりに加えてアレンジ。毎日食べることで、「食べ疲れない」味の軸も定まる。

ESSENTIAL OF - KIMIKO HIYAMIZU -

自然の造形や香り、色彩を日々の暮らしの中に。

( BY THE WINDOW )
日当たり抜群、窓際の楽しみ方。
干し野菜作りなどにも大活躍する、日当たり抜群の窓際の一角。素焼きの陶器や木の器、箸などを洗った後、しまう前にしっかりと乾燥する場でも。


( INCENSE )
好きな香りで、一日を始める。
たとえおいしいものの残り香でも、朝はリセットしたい。好みのお香や、浄化作用があるホワイトセージを焚いて、新しい一日をすっきりスタート。


( TABLEWARE )
見えるように飾り、日々使う。
器のコレクション歴は長く、今や入手困難な作家の作品も多い。「見せる収納」が基本で、しまい込まず日々使い、都度手入れをしながら長く付き合う。


photo_Norio Kidera illustration_Yo Ueda text & edit_Kei Sasaki

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