連載〈HOME SWEET HOME〉 食のプロのセンスをインテリアから学ぶ。 CASE23 オサキカオル

LEARN 2024.07.31

おいしいものを作る人、おいしい場所をプロデュースする人。
食に関わるプロフェッショナルのセンスを、プライベート空間のインテリアから学びます。

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家も自分も、気持ちよく年月を重ねられるように。

「店の近くに暮らしたい」と、建てて間もない家を手放し、マンションをフルリノベ。「おばあちゃんになっても暮らせる」家は、また次のステージへのステップでも……!?

ガラスケースには〈ロイヤルドルトン〉をはじめアンティークの器がずらり。ソファも希少な〈アーコール〉社製、クッションのファブリックは中国で買ったお気に入り。
ガラスケースには〈ロイヤルドルトン〉をはじめアンティークの器がずらり。ソファも希少な〈アーコール〉社製、クッションのファブリックは中国で買ったお気に入り。

今に執着しない。手放すことを躊躇しない。手放さなければ、新たな何かは生まれないから。自己啓発本の一節? ではなく、住まいと暮らしについて語るオサキカオルさんの言葉だ。東京・世田谷区で、建築家とゼロから建てた夢の一軒家に暮らし始めた頃、同時進行で進んでいた人生のプロジェクト―経験ほぼゼロから開業する初めての飲食店―が北参道で幕を開けた。で、すぐに「満員電車での終電帰宅が無理」となる。わずか3年で手放したのは、一軒家のほうだ。なんという潔さ、決断力!

理想の空間に仕上げた店のエッセンスを自宅にも。

リビングで一番日当たりがいい場所にキャットタワーがある。写真の三毛猫はテンちゃん。
リビングで一番日当たりがいい場所にキャットタワーがある。写真の三毛猫はテンちゃん。

店から徒歩圏内の場所に立つ現在のマンションには、暮らし始めて7年になる。内見したときは、不動産会社がリノベーションのために内装をスケルトンにしたタイミングで、オサキさんにとっては好都合だった。
そもそもなぜ飲食店を開こうと思ったのか。食べることと飲むことが大好きで、気になる店があれば出かける、通う、を繰り返すうちに「私ならああしたいな」「あの部分はこんな風にするのにな」と考えていることに気付いた。

「ならば自分で店をやっちゃう? その考えが頭に浮かんだ瞬間、自然に笑い出していました。もうワクワクしちゃって」

〈コンカ〉というビストロは、自身にとっての居心地のよさを妥協せず形にした店だ。だから、マンションのリノベーションも同じ建築事務所〈DENPLUSEGG〉に依頼した。アンティークの建材を使った、経年で味の出る空間づくりに定評がある。以前の一軒家は、シンプルなモダンスタイルで、傷や汚れを常に気にしていたから、アンティークの、年月を重ねる楽しみにすっかり魅了されたのだ。

収納や床材を工夫し、広さを贅沢に感じる室内に。

無垢のフローリングや木の家具と、業務用キッチンの好対照。冷蔵庫は〈ASKO〉社製。
無垢のフローリングや木の家具と、業務用キッチンの好対照。冷蔵庫は〈ASKO〉社製。
クローゼットは生き様。収納ケースがぴたりと収まり、模様替え不要、全シーズンの服が一覧できる。
クローゼットは生き様。収納ケースがぴたりと収まり、模様替え不要、全シーズンの服が一覧できる。

 リビングにも寝室にも大きな窓があり、まっすぐの廊下を通して風と光が行き交う。スケルトン状態を見て、ここだと決められたのは、この「気のよさ」と、窓の外のヌケ感だったと話す。リノベーションの第一条件は、開放感を損なわないよう、空間をなるべく広く使うこと。要となるのが、大容量の収納だ。自慢は、寝室の壁一面に作り付けたクローゼット。「収まる分だけが自分に必要な量と心得て、一着買うなら、一着捨てる」と、また潔い。リビングの一角もウォークインの物入れにし、小物や書類などを整理整頓して収納している。高さのある収納家具がない分、すっきりと感じられる。廊下から寝室、リビングまで同じ床材にしたのも、広さを感じさせるひと工夫だ。

寝室は一面が高さのある窓で贅沢。
寝室は一面が高さのある窓で贅沢。

 開放感の確保に加え「おばあちゃんになっても違和感なく飽きのこない、ナチュラルだけれど甘くないテイスト」を、空間づくりの柱にした。ダイニングセットやデスク、ソファなどをすべてアンティークで統一する一方で、キッチンはレストラン仕様にし、ステンレスでタフに仕上げている。ガスコンロや冷蔵庫は、機能性に優れ、グッドデザインの海外ブランドだ。近い将来、このキッチンで料理教室を開催するのだとか。飲食業はハードな仕事だけれど「毎日店に立つのが本当に楽しい」と話す。変わるか、変わらないか。二つの選択肢があったら、迷わず変わる方を選ぶのがオサキさんという人なのだ。
 多くの人が人生で一度経験するか、しないかという家造りを、二度も経験した。が、「あと一回、やってみたい。よく家は三回建てないとわからないというじゃないですか」と、驚きの発言が飛び出す。次は、「室内と外の境界が曖昧な家を建て、庭の手入れをしながら暮らしたい」のだそうだ。機が訪れれば、きっと決断するだろうし、決断がなされたときはまったく別のプランになっているかもしれない。

築45年のヴィンテージマンションの低層階。オサキさんと愛猫、1人+2匹の家族が暮らす。約70 m<sup/>2 の3分の2近くを、ダイニングキッチンとリビング、バルコニーが占める。
築45年のヴィンテージマンションの低層階。オサキさんと愛猫、1人+2匹の家族が暮らす。約70 m2 の3分の2近くを、ダイニングキッチンとリビング、バルコニーが占める。

ささっと小腹を満たす“バランス栄養食”。

オサキカオル

起きて身支度をしたらすぐ店に行く毎日。出かける前は、コーヒーとアーモンドチョコレートがお決まりで、日によってピーナッツや茹で卵をプラスする。チョコレートは、カカオの風味が豊かでビターなものをネットでリピート買い。主な食事は店で、和食からパスタまでシェフの料理が楽しみなのだとか。

ESSENTIAL OF - KAORU OSAKI -

建具から小さなもの、身に着けるものまでアンティーク。

( FABRIC )
小さな布を空間のアクセントに。
布好き。「中国の少数民族の村で、行商のおばちゃんから買った」奮発価格の織物や、お気に入りの服の端切れで作ったコースターなど、いろいろ。


( ANTIQUE WATCH )
10年来の腕時計コレクション。
〈ロレックス〉をはじめ海外ブランドのアンティークウォッチが好きで集めている。「年齢を重ねたら上品なゴールドもいいな」と、まだ買う気満々。


( DOORS )
扉は大事。すべてアンティークで。
建具も住宅メーカーの既製品は不使用。部屋のドアはもちろん、下駄箱の扉や玄関の猫用の柵まで、アンティークでそれぞれの表情が味に。


photo_Norio Kidera illustration_Yo Ueda text & edit_Kei Sasaki

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