連載〈HOME SWEET HOME〉 食のプロのセンスをインテリアから学ぶ。
CASE21 紺野真&紺野順子

LEARN 2024.06.28

おいしいものを作る人、おいしい場所をプロデュースする人。
食に関わるプロフェッショナルのセンスを、プライベート空間のインテリアから学びます。

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二人のセンスがバランスよく共存する“森の家”。

東京とは思えないほどの緑豊かなロケーション。明るく静かな室内に紺野真さん、順子さん二人のセンスが溶け合い、一緒でも、それぞれ一人でも心地よく過ごせる空間になっている。

窓一面を木々の緑が覆うリビング。家具はほとんどがアンティークで、器のディスプレー収納はギャラリーショップのような美しさ。大きなグリーンが部屋の内外をつなぐ。
窓一面を木々の緑が覆うリビング。家具はほとんどがアンティークで、器のディスプレー収納はギャラリーショップのような美しさ。大きなグリーンが部屋の内外をつなぐ。

紺野真さん、順子さんが暮らす家は、東京・世田谷の中でもとびきり豊かな自然が残る住宅街に立つ。「窓からの景色を見た瞬間、もう一目ぼれしてしまって」
 内見に来たときのことを、順子さんはそう振り返る。一面が木々の緑、建物はおろか、電線や街灯さえ一切見えない、東京都内では得難い景色だ。その分、最寄り駅までは徒歩20分ぐらいかかるから、買い物も大変だし、西荻窪の〈organ〉へは電動自転車で片道約1時間(!)もかかる。「でも、一人考えごとをするのにちょうどいい時間」と、順子さん。真さんが続ける。「本当に森の中で暮らしている感じです。夜はしっかりと暗く静かで、風や雨の音の聞こえ方も街中とは全然違う。雨の日の景色もすごくいい」

男の子の部屋的なラフさとアートやクラフトの美しさと。

白い壺は、順子さんが見つけた井本真紀さんのガラス作品。鏡は真さんが好きだった店から譲り受け〈organ〉を経由し自宅へ。廊下もギャラリーのよう。
白い壺は、順子さんが見つけた井本真紀さんのガラス作品。鏡は真さんが好きだった店から譲り受け〈organ〉を経由し自宅へ。廊下もギャラリーのよう。

 以前、真さんが「僕もインテリアや空間作りには一家言あって、店もまず自分が〝最高〟と思えるようにしているけれど、近頃〈organ〉がちょっと素敵になってて、悔しいんだよね」と、話すのを聞いたことがある。〈uguisu〉の厨房に戻り、順子さんに〈organ〉を任せるようになってしばらくした頃のことだ。「そんなこと言ってたの?」と笑いながら、順子さんは次のように話す。
「紺野(真さん)カラー全開の店が大好きで働き始めたのに、年月を重ねて自分のテイストを出すようになっちゃったのかな(笑)。ただ〈organ〉はゲストの層がやや落ち着いていて、女性やご年配のお客様も多く、その感じにうまくハマったのかもしれません」 
 男の子の秘密基地的な〈uguisu〉と、ややガーリーな雰囲気を持つ〈organ〉と。二軒の店に漂う二人のセンスは、自宅でも混じり合っている。リビングの隣は、真さんの「プレイルーム」。古い木のテーブルとワインの木箱を組み合わせた棚に、愛用のコーヒーツールとレコードをディスプレーし、テーブルの天板は、20年前にメキシコで買った年代ものだ。高価なものより「誰もが見過ごすようなものを、自分なりの使い方で生かす」のが真さんの身上。
 一方で、室内の至るところに配された繊細なアートピースや美しい照明器具などは順子さんが選んだものが多い。二人に共通するのは、古いもの、時間軸を感じさせるものへの愛着だ。アンティークはもちろん、現行品でも使い続けることで経年の美しさをまとうであろうものを選ぶ。実際、紺野家はものすごく物持ちがいい。10年以上前に「店で使っていた」家具がいくつもあるし、敬愛する、今はなき店から譲り受けたものもある。ジャンクもアートもあり、時代も地域もバラバラだから「〇〇風」だとか「〇〇調」と言えないパーソナルな場ができる。店も家も、考え方は同じだ。

それぞれの時間も大切に昼と夜、森のリビングで。

〈ミナ ペルホネン〉の青い生地で張り替えをした椅子は〈uguisu〉で10年活躍した。
〈ミナ ペルホネン〉の青い生地で張り替えをした椅子は〈uguisu〉で10年活躍した。
プレイルーム。スピーカーは〈listude〉社製。
プレイルーム。スピーカーは〈listude〉社製。

 ものは多いのに、常に整然として微塵の埃っぽさもない。「部屋は心を映す鏡」と話す順子さんは、掃除に余念がない。
「旅は大好きですが、帰ってきたとき〝やっぱり家が一番〟と思いたいから、旅の前の掃除は特に力が入って、初日はいつもくたびれているほど(笑)」

書斎。書棚も整理整頓されている。
書斎。書棚も整理整頓されている。

 価値観や美意識の大筋を共有する二人だけれど、好みの違いはもちろんある。例えば、朝食。揃ってトースト派だが、真さんはチーズトーストにコーヒー、順子さんはハムチーズトーストに紅茶が定番だ。立つ店は違えど、同じ仕事をする同志でもあるから、それぞれの時間も大切にしている。「森のリビング」は、朝早く真さんが出かけた後、出勤までのひとときを過ごす順子さんが、たっぷりの光と緑に寛ぐ。夜は帰宅後の真さんが、窓際のソファでチルアウト。自然の音を浴びながら「もっと深い森へ」とキャンプの旅を妄想する。それぞれに忙しい公私のパートナーの、穏やかな日常のルーティンだ。

築45年の低層マンションの最上階にある、80 m<sup/>2 の3LDK。二面採光で、どの部屋にもたっぷりと自然光が入る。夫婦二人+愛猫二匹のファミリーの、ゆとりある住空間。
築45年の低層マンションの最上階にある、80 m2 の3LDK。二面採光で、どの部屋にもたっぷりと自然光が入る。夫婦二人+愛猫二匹のファミリーの、ゆとりある住空間。

研究の末に辿り着いた今のお気に入り。

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真さんがアメリカの食文化にまつわる仕事の依頼を受けた際、試作を繰り返して完成させたクヴァーノ(「キューバ風」の意味)。プルドポークやチーズを挟んだプレスサンドで、フロリダ州のソウルフードだ。プルドポークから自家製で、手間と時間がかかるので、自宅では休日のブランチに。

ESSENTIAL OF
MAKOTO & JUNKO KONNO

ツール好き、DIY好き。
真さんカラーがあふれるコーナー。


( COFFEE TOOL )
コーヒーアディクトの道具考。
サイフォンを含め相当数の道具を所有するコーヒー愛好家。今は機能面から〈バルミューダ〉のコーヒーメーカーと〈フェロー〉のグラインダーを使用。

コーヒーアディクトの道具


( DIY SHELF )
唯一のDIY、キッチンシェルフ。
「空間作りはDIYありき」という真さんだが、修繕が完璧なマンションでは出番はここだけ。古い引き出しの上に、好きな質感の木材を重ねて器の棚に。

器、棚


( LANTERN )
ランタンの炎は、男のロマン。
アナログな道具を好む真さんが、数年来集め続けるランタン。1950~70年代のヨーロッパ産、加圧式のタイプが中心で「佇まいも、炎のゆらめきも格別」。

ランタン

photo_Norio Kidera, Tetsuya Ito illustration_Yo Ueda text & edit_Kei Sasaki

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