連載〈HOME SWEET HOME〉 食のプロのセンスをインテリアから学ぶ。
CASE17 斉藤礼奈
おいしいものを作る人、おいしい場所をプロデュースする人。
食に関わるプロフェッショナルのセンスを、プライベート空間のインテリアから学びます。
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受け継ぐセンス、母とシェアするキッチンから。
もの選びの基準や審美眼について、母から多大な影響を受けてきたと話す斉藤礼奈さん。
両親と暮らす家は、仕事場を兼ねることを前提に設計されたキッチンが贅沢だ。
「家を建て替えるから、帰っておいでよ」
両親からの申し出は、とても魅力的だった。当時、空き家になっていた東京・三軒茶屋の父の実家は、斉藤礼奈さんにとってもなじみのある、かつての祖父母の家だ。当時二子玉川で一人暮らしをしていて、仕事で都心まで行き来するのに少しだけ不便を感じていたところでもあった。両親とも、斉藤さんの仕事について理解がある。「キッチンは礼奈の仕事にも使えるようにしよう」と、言ってくれたのもありがたかった。
「とはいえ、ここは母の台所。父が母のためにつくった小さな〝お城〟なんです」
母のモダンなキッチンがセンスのベースに。
オールステンレス、L字型のシステムキッチン。美しいデザインの調理器具から、ほぼ外国製の調理家電まで、一つひとつが妥協なく選ばれたものであることが伝わってくる。イタリア製の名作ランプや円形のダイニングテーブルが印象的な、シャープかつクールなダイニングキッチンだ。
「"ナチュラル"とか"温もりがある"とは違う、モダンなものが好きなのは昔からで」
母親について、そう話す。独身時代は法律関係の仕事をしていたが、結婚を機に退職した後は専業主婦一筋。「家事が大好きな人で。これだけ何でも揃うキッチンなのに、"自分で洗いたいから"と食洗器がないんですよ」と、笑う。
以前、両親が暮らしていたマンションも、キッチンは母のDIYでリノベーションされていて、駆け出しの頃は、よく撮影場所として借りていたそうだ。
「私なんかよりずっとアーティスティックな人です。今の仕事をするうえで必要なセンスのようなものが私にあるとしたら、間違いなく母から受け継いだもの。あと、この身長も」
高さ90センチのキッチンは、揃って170センチある母娘に合わせた仕様だ。ふんだんにあるキッチン下の収納に、調理器具や膨大な器類が、整然と収まっている。
家族の次のステージを豊かに彩る住まい。
一緒に暮らす家だからと、建てる前に両親と色々と話をする中で、斉藤さんが伝えた希望が2つある。天井が高いこと、大きな窓がたくさんあること。
「一人でもいろんな家に暮らしましたが、物件選びは常に窓重視。特にキッチン、浴室に窓があると、間取りはさておき第一候補になってしまうくらい」
リクエスト通り、キッチンはほぼガラス張りというほど大きな窓が全面に。窓の外のグリーンを見たい、というのは母娘共通の希望で、周りにオリーブやユーカリの木を植えた。
キッチンやバスルームは共有し、1階と2階にそれぞれの部屋とゲストルームがある。1階の斉藤さんの仕事部屋兼寝室は、入ると上質で新鮮なアロマの香りがふわりと香る。「撮影の残りですが」と飾られた花もみずみずしく、どこか透明感のある人柄そのままの印象だ。仕事で生活時間が不規則だから、食事は一人、自分の分は自分で支度する。野菜を中心に「あるもので」さっと作ったものを少しずつ、ワインと楽しむ日常だ。
「当初は、キッチンを仕事場として使わせてもらえたらというくらいで、がっつり同居するつもりはなかったのですが」
実家を出て20年、また家族と一緒に住むなんて気づまりじゃないかと心配したけれど、暮らし始めてみたら安心で快適。介護などの事情ではなく、まだ元気な両親と一緒に過ごせる時間は、想像以上にいいものだと話す。斉藤さんがいることで、兄も家族を連れて帰ってくる機会が増えて、家族全員がとてもハッピーなのだとか。
自身にとっては、スタイリストとしてキャリアを重ねた今の時期だからこその楽しさ、発見もある。自分の美意識の土台を育んだ価値観や環境が、日常にあるのだから。
あるものでぱぱっと作る簡単つまみ。
ある日のワインのつまみ。ビーツのサラダ、きゅうりと赤玉ねぎのナンプラー風味、サラミと焼いたマッシュルーム、パセリとライムを添えたオイルサーディンなど。作りおきはあまりせず、都度さっと作るのが好き。お腹が空いていれば、焼いた肉をサラダとがっつりいくことも。いずれの場合もワインはマスト。
ESSENTIAL OF RENA SAITO
目に美しく、手触りよし、香りよしの愛用品。
( TEA THINGS )
“一軍の器”が並ぶディスプレー。
クールな空間に浮かび上がるギャラリーのようなディスプレー棚。お茶の道具を中心に、母娘のお気に入りを季節ごとに並べ替え、楽しんでいる。
( AROMA )
指名買いアロマは、常に新鮮に。
陶芸家・池田優子さんのアロマポットを買う際にすすめられたエッセンシャルオイルを愛用する。酸化しないよう、使い切る頃に買い足すのも流儀。
( PANTRY )
仕事道具を詰め込んだパントリー。
器から布類まで、仕事道具を収納するパントリーには、ジャンクなものまで、バラエティ豊かに揃う。アイロン台も出しっぱなしにできる広さ。