連載〈HOME SWEET HOME〉 食のプロのセンスをインテリアから学ぶ。CASE9 料理家・麻生要一郎
おいしいものを作る人、おいしい場所をプロデュースする人。
食に関わるプロフェッショナルのセンスを、プライベート空間のインテリアから学びます。
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“大勢でも大丈夫”が基準、自分の家はみんなの家。
不思議な“お告げ”に導かれて、今のマンションに暮らし始めた麻生要一郎さん。広いキッチンの作業台と大きなテーブルの周りに、たくさんの人が集まる暮らしを楽しんでいる。
丸いのには、理由がある。中央に置かれたダイニングテーブルのことだ。
「丸いと、多少人数が増えても座れるじゃないですか」
言葉通り、毎日入れ代わり立ち代わり、いろんな人がごはんを食べに来る。同居人は書店を営むパートナー一人なのに、食事の風景はいつも家族のそれだ。
麻生要一郎さんは、自分と〝同い年〟のマンションに暮らし始めて8年になる。元々一人暮らしだったのが二人になり、友人たちが食事に来るようになり、料理の仕事も忙しくなってきたから、同じマンション内にもう一部屋を借り、仕事場兼リビングダイニングを独立させた。
内装工事は、ほぼなし、好きな人と物で作る部屋。
かつて事務所だった物件で、コンクリート壁が基調のスケルトン状態が好都合だった。あえて造作をせず、必要な家具を並べ、好きな本やレコード、絵や写真を詰め込んで、〝インテリア〟を完成させている。
「買ったものがほとんどなく。周りから集まってきたものばかりなんですけれどね」
件のダイニングテーブルもリビングのソファやテーブルも、本がうずたかく積まれ「その機能を果たしていない」机も、友人たちから譲り受けた。写真に絵画、謎のオブジェまで「麻生さん家に置いて(飾って)くれない?」と、〝集まって〟くる。
唯一、オーダーメイドで作ったのがアイランドキッチンだ。
「みんなでごはんを作れる長い作業台を、とお願いしたんです。餃子とか、大勢で包んだら楽しいよなって」
全長3・7m、レストラン並みの作業台が完成したが、現実は、いつだって想定通りにならない。仕舞っておくにはもったいない大皿や、好きで買ったはいいけれど使い道が思いつかない鍋などが、ふだん使いの調理器具や調味料と並び、必要と遊びの境界を曖昧に埋めている。設計した大門佑輔さんも「きっと5mにしても、たとえ10mにしても、麻生さんならこうなっちゃうよね」と、笑うのだそうだ。結局、こぢんまりとなった作業スペースで、麻生さんはうれしそうに唐揚げを揚げる。子供も大人も大好きで、味付けのアレンジも自在な鶏の唐揚げは、麻生家の定番おかず。大勢で餃子を包むことになっても、人数が増えたって平気なダイニングテーブルがあるから安心だ。
周りに集まってきたものと自然に心地よく暮らす。
「母は生活にスタイルがある人でした。部屋はいつもすっきり、食卓には花があり、絵も季節ごとに掛け替えて。少しでも似れば良かったのですが」と、笑いながら亡き母の思い出を語る。唯一受け継いだ点かも、と話すのが、本に囲まれた暮らしだ。
「壁一面本棚という家でしたから。本棚は数少ない、自分で買った家具の一つです」
本そのものは、パートナーが頃合いを見て「棚替え」するものだから、自分の本が探せなくなることもしばしば。でも、本の並びで微妙に変化する景色を楽しんでいるし、本当に必要な本のありかは聞けばいい。個人司書のようなプロが家にいるだなんて、それはそれで贅沢だ。
「そのときにあるもの、集まってきたものと暮らすのが、自分らしいな、と最近思うんです」
今の住まいも、自分で探し求めたのではなく、ある〝お告げ〟に導かれて出会ったのだという。
「別にスピリチュアルな人間ではないのですが、言われた通りの出会いがあり、今こうして楽しく暮らしているんですよね」
人の言葉も存在も受け入れて、来る「物」も拒まず。流されるのではなく、心地よい場所をしなやかに流れるような生き方が部屋にも映されていて、その自由なおおらかさがまた人を呼び寄せるのだろう。自分の家を「みんなの家」と呼ぶとき、麻生さんはとても幸せそうだ。
食べる人の数だけ味があるみんなの好物。
味について「作り手の数だけ」とはよくいうが、「食べる人に合わせて」変えるのが麻生さんのスタイル。鶏の唐揚げなら、胸肉かもも肉か、大ぶりか小ぶりか、生姜をどのくらい使うか、などなど。子供がいる日は、お酒飲みが多い日は、と工夫が楽しいのだとか。自身の好みは、梅酢を効かせたさっぱり味。
ESSENTIAL OF YOICHIRO ASO
自分で選んだもの、自然に集まってきたものが一つの景色に。
( FOLK ART )
統一感のなさが生む心地よさ。
木の鳥はロシアのマトリョーシカで、イベントに参加した際、根室の〈VOSTOK labo〉のブースで購入。時代不詳の壺は、親族から譲り受けた。
( LIGHT )
迷ったときは、あれもこれも。
キッチンの照明は、作業台の設計者・大門さんのすすめで〈飛松灯器〉のものを。色々な形から一つを選べず複数を吊るしたが、それがまた味に。
( BOOKS )
本を“呼ぶ”、壁一面の本棚。
千駄木のリサイクルショップ〈FUNagain〉で買ったスチールの棚に、本がぎっしり。「ここに置いておいて」という仲間からの預かり本も多数。