米どころが手がけるナチュールがアツい理由。
新潟ワインコーストの〈ドメーヌ・ショオ〉

LEARN 2023.11.15

新潟県新潟市の市街地から車で約30分。日本海の海岸地帯にワイナリーが連なり、それぞれの造りを貫きながら産地の個性を形成している。日本産プレミアムワインの産地「新潟ワインコースト」にある〈ドメーヌ・ショオ〉を、ワインバー&ビストロ〈uguisu〉と〈organ〉でオーナーシェフを務める紺野真さんと、紺野さんの一番弟子的存在で〈サプライ〉のオーナーソムリエールである小林希美さんが訪ねた。

のびやかで、するすると飲める、新潟産ナチュラルワイン

小林英雄さんの〈ドメーヌ・ショオ〉は、同じく新潟ワインコースト内にあるワイナリー&レストラン〈フェルミエ〉から歩いて5分の場所にある。〈フェルミエ〉の本多孝さん同様、小林さんもこの地でのワイン造りを見据えて〈カーブドッチ〉でワインについて学んだ醸造家だ。
 
ワイナリーの目の前の畑には、カベルネ・ソーヴィニヨン、メルロー、プティヴェルドなどの黒ぶどうが混植されている。原産地ボルドーに混植の文化はないし、日本国内でも稀だ。「なぜ?」と尋ねると「面白いから」と、即、答えが返ってきた。

カベルネ・ソーヴィニヨン、メルロー、カベルネ・フラン、プティヴェルドなどの混植畑。混醸、無濾過で瓶詰めし、「箱庭( hakoniwa)」としてリリース。
カベルネ・ソーヴィニヨン、メルロー、カベルネ・フラン、プティヴェルドなどの混植畑。混醸、無濾過で瓶詰めし、「箱庭( hakoniwa)」としてリリース。

2棟の醸造施設の新しい方は、壁がボルダリングウォールに。

「うちはスタッフを全員、ボルダリングジムでハントするんです。体力、筋力、運動能力は保証付き(笑)。あとはコミュニケーション能力を見るんです」
 
あれ、ワインの話は?
 
しかし話は続く。

「個々にコミュニケーション能力があれば、チームに〝エース〞を中心とした指示系統ができる。すると、目的だけを伝えれば、チームが動く。手段を事細かに伝えずに済むんです」
 
ボルダリングの話が、いつしかビジネスマネジメントの話に。いや、小林さんのワイン造りの核もここにある。つまり「手段を目的化しない」こと。

「手除梗? マセラシオン期間? 酸化防止剤? 全部、求めるワインを造るための手段に過ぎない。もちろんああだこうだと考えてやっている。でも手段であり過程なんです」
 
怒涛のトークに圧倒されている小林希美さんを見て笑いながら、紺野さんが「では目的は?
 目指すワインは?」と尋ねる。訊きながら「答えは、よく知っている」という表情で。

「一人一本飲めるワインです。ラブルスカで醸すワインは、ビールと同じ立ち位置。これから旨いもん食うぞ、的な。あるいは二次会、三次会でだらだら飲まれるような。話の主役にはならないけれど、懐の深さがある」
 
ヴィニュロンらしからぬ型破りなキャラクターだが「確かに、飲み心地よく、いつまででも飲んでいたい」と、試飲する小林希美さんはもう、楽しそうだ。

2023 年は好調というデラウェアをテイスティング。小林さんが目指すのは「ヤクルトジョアのような甘酸っぱく、いつまでも飲めるワイン」だと話す。
2023 年は好調というデラウェアをテイスティング。小林さんが目指すのは「ヤクルトジョアのような甘酸っぱく、いつまでも飲めるワイン」だと話す。

小林さんは大学で生物資源学(農学)を学び、ワイナリーで働くためにオーストラリアへ留学。大学院では微生物学で博士号も取得した。実は筋金入りの理論派。土壌の生物科学から発酵の過程で生成される物質と食味の因果まで、ボルダリングや飲み会の話と同じテンションでするする飛び出す。でも、小林さんにとっては知識もまた手段。「楽しく飲んでほしい」と、常に飲み手の目線だ。

「だって、ワインは決して安いものじゃないし、コストは人生の時間とイコールだから」

使用するぶどう品種や、キュヴェに応じて発酵容器を使い分ける。ピノ・ノワールやシラーは、ゆっくり酸素が透過する樹脂製の桶を主に使用する。
使用するぶどう品種や、キュヴェに応じて発酵容器を使い分ける。ピノ・ノワールやシラーは、ゆっくり酸素が透過する樹脂製の桶を主に使用する。

ドメーヌ名の〈ショオ〉は、名前の「小」の字とフランス語で「熱い」を意味する。熱い男の、楽しく、優しいワイン。化学農薬は使わず、動力を電力に切り替え、「畑からゴミを出さない」栽培に努めるなど、人にも土地にも負荷をかけない〝手段〞も大切にしている。

「味わいはナチュラルそのもので、ほかとは替えがきかない個性がある」と、紺野さん。
 
小林さんが今、取り組んでいるのは新樽での熟成だ。ナチュラルなワインの醸造ではレアな選択。瓶熟中のワインを試飲した紺野さん、「これは新境地ですね。ますます目が離せない」と、リリース時期を確認。弾丸だが大収穫の訪問となった。

Domaine Chaud (ドメーヌ・ショオ)

住所:新潟県新潟市西蒲区角田浜1700-1
TEL:なし
営業時間:11:00~16:00
定休日:火水木休ほか不定休あり
HP:http://www.domainechaud.net/

「土から醸す」をコンセプトに年間約2万本、約40アイテムのワインを造る。直販所あり。農繁期など不定休も多く、訪問時はSNS等で確認を。

ドメーヌ・ショオを訪問したのはこちらのお二人

photo_Satoshi Nagare text_Kei Sasaki

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