冬野梅子「選択肢が減ったおかげで、自由になった」 | 連載【Age,35】 #2
35歳。まだまだ先は長いけど、けっこう生きてきた気もする。今を生きる35歳の人々は、なにをどんなふうに考えているのか? 今年創刊35年を迎えたHanakoが迫ります。仕事、人間関係、恋愛、親、家族、金銭感覚や人生観の変化......トピックは数限りなし。「35歳」は長い人生の中で一つの区切りや、ステージが変わったり、あるいは踊り場の一つなのかも。今回話を聞いたのは『真面目な会社員』『スルーロマンス』などで30代女性の日々を描く漫画家の冬野梅子さん。現在30代後半だという自身のこれまでとは?
「“終わった人”になって、漫画を描くことを選んでもいいんだって思えるようになりました」
初めて漫画を描いたのは小学生の頃でした。でも漫画一筋というわけではなく、その後は大学を卒業するまで描くこともなくなって。また手をつけるようになったのは、新卒で入社した会社に勤めて数年経った頃。なにかやりたいと思うようになって、たまに描くようになりました。このときも漫画家になりたい!と思っていたわけでもありませんでした。コミティアに出すことを目標に進めていて、細々と続けてお小遣い程度のお金が得られるようになったら会社を辞めて、事務やデータ入力などのバイトと両立しながら月25万円くらい欲しいなと。それが夢でした。
続けるうちに「清野とおるエッセイ漫画大賞」を知って、応募してみることに。清野さんの、ぶつぶつ文句を言う自分を一番低いものとして描く作風が好きで、私の作品を出してもいいんじゃないかと思って。その作品『マッチングアプリで会った人だろ!』が受賞候補に残ったという連絡をもらったのが30歳前後の頃。転職先で正社員として働いていた時期でした。その会社も辛くて辞めたいと思いつつ、でも漫画家として独立してみようということもない状態で。正直、会社員としての仕事が行き詰まってくれればいいと思ってました。そうすれば私は漫画を描くしかなくなるし、と。楽なほうに流れてきたんだと思います。
というのも、20代の頃はいろんな選択肢がありますよね。公務員試験には年齢制限があるし、それに出産、子育てとなると前々から考えておく必要がある。これは、自分が思っているよりも意識“させられている”ことかもしれません。
こういった選択肢がたくさんあるうちは、なにかを選べば何かを選ばなかったことになりますよね。捨てる候補が多いほど、選択に重さを感じる。でも年を重ねるごとに、選択肢もその重みも減っていく。
また30歳を過ぎた頃から、周りになにも言われなくなりました。結婚もいくつになってしてもいいと思うけど、少なくとも周りの反応は変わってくる。“終わったな”みたいな感じがあって、いい意味で人に諦められる。というのも、自分が楽になったんです。“終わった人”だからなにをやっても口を出してくる人もいないし、自由に動けるようになった感覚がありました。
こういった流れと並行して、賞をもらったり、次のネームを描くことになったり、連載をスタートすることになったりと状況が変わってきて、数年前に仕事を辞めました。
30代後半の今考えることは、漫画家を辞めた後の仕事?!
二十代の頃、選択肢があったときはそういう人生を経験したほうがいいんじゃないか?と思うこともありました。それまでの友人関係を続けるなら同じステージにいたほうがいいなとか、ママ友トークとか楽しめないなとか。だから寂しさはあります。今はこうやって漫画を描く仕事をしているからということもあって、同じ世代くらいの未婚の知り合いも増えました。でも社交的なタイプではないので、変わらず会社員だったら人付き合いはもっと難しかっただろうと思います。
私は今30代後半ですが、人生70年としてもこれからもう1度35年を生きると思うとしんどいですね。インプットもアウトプットもできないし、そもそもそんな体力はない。
今の仕事の仕方が40歳まで続けられるかどうかも危ういなと思っていて、日々健康面の心配ばかりしてます。自分のメンテナンス費はいくらかかるんだろう?と。長時間座るのが辛いとか、目に疲れが出るとか、今までに聞いていたことがすごくわかりますね。旅行から帰ってきて明日から仕事!と思ってても翌日は寝ちゃう。スケジュールの立て方が実年齢よりも若い組み方になっているなと反省しています。
それもあってある程度年を重ねると厚かましくなる、といった気持ちがすごくわかるようになりました。わがままに健康保持していかないと明日を元気に生きていけないんですね......。
そういうわけで漫画家を辞めた後の仕事も模索しています。営業のように人と話す仕事が自分に合っていないことはこれまでの会社員生活でよくわかっているので、データ入力や文章入力の仕事をしたい。今後の夢は、漫画家としての遺産を使いつつバイトして生きていくこと。コミティアに出してた頃とほぼ変わらないけど、月収は5万アップで、30万円は欲しいですね(笑)。
『スルーロマンス』冬野梅子/著
高校時代に同じ部活で活動していた待宵マリと菅野翠は、32歳のある夜にたまたま再会。同棲を解消したマリが失恋したばかりの翠の家に転がり込んだことではじまった、2人暮らしの日々を描く。コミックDAYSで連載中。