ハナコラボSDGsレポート 佐賀県で美食と器を楽しむ、期間限定のレストラン〈USEUM SAGA〉
ハナコラボ パートナーの中から、SDGsについて知りたい、学びたいと意欲をもった4人が「ハナコラボSDGsレポーターズ」を発足!毎週さまざまなコンテンツをレポートします。今回は、ライターとして活躍する五月女菜穂さんが、佐賀県で開催された期間限定のレストラン〈USEUM SAGA〉の方々に話を伺いました。
美術館(MUSEUM)に飾るような人間国宝などの器を使い(USE)、佐賀県の食材を一流の料理人たちが仕立てる、期間限定のプレミアムレストラン〈USEUM SAGA〉。その第4弾が2023年2月4日から12日までの5日間、佐賀県武雄市にあるレストラン〈Kaji synergy restaurant〉で開かれました。
佐賀県で「美食」と「器」を味わい尽くす
美食と器文化を誇る佐賀県で、2021年7月、22年4月、同年10月と行われてきた〈USEUM SAGA〉。
第4弾の舞台となった武雄市は、日本三大美肌の湯として知られる嬉野温泉と並び1,200年以上の歴史があり、湯治場として歴史上の人物も数多く訪れたとされる温泉の街。神話に由来する「御船山」や樹齢3,000年以上の御神木「武雄の大楠」、霊山「黒髪山」など神聖な場所が点在しているほか、400年以上受け継がれている「武雄焼」も有名です。
今回は、会場になった〈Kaji synergy restaurant〉のオーナーフェフである梶原大輔さんと、岩手県遠野市にある古民家オーベルジュ〈とおの屋 要〉のシェフである佐々木要太郎さんがコラボレーションしたフルコースをいただきます。さらに、ワインテイスター/ソムリエである大越基裕さんがペアリングしたドリンクも合わせて楽しみました。
梶原さんは、バリスタの勉強のためイタリアを中心にヨーロッパ各地を巡り、帰国後は地元佐賀のイタリア料理店に15年勤務した経験があります。自ら山に入り、海に行き、畑を訪ね、そこで出会った食材のありのままを受け入れ、一皿に表現するシェフ。
一方、佐々木さんは、農薬や肥料を使わない自然栽培にて米を育て、それによりできた米をどぶろくにしたり、糠や酒粕を自身の料理に使用したりして、土地の風土にそった素材の使い方を実践しているシェフ。そんなお2人がどんな饗宴(きょうえん)を生み出のすのか、とてもワクワクしますよね。
まずは、当日振る舞われたお料理の一部をご紹介しましょう。
一品目は「ニシユタカ/武雄イノシシのジャーキーとコンソメ」というお料理。有田焼の窯元である李荘窯の器でいただきます。
佐々木さんのレストランの“名物”だという「芋さら」は、ニシユタカというジャガイモを使ったポテトサラダ。見た目はジャガイモそのものですが、中には自家製クリームチーズと、ゴボウやニンジンの漬物が入っています。そして、梶原さんがいつもお世話になっている猟師さんから提供されたイノシシのもも肉をジャーキーにし、そのイノシシの出汁を使ったコンソメスープもあわせて提供されました。一つひとつの食材に愛を感じる一品でした。
個人的に印象的だったのは7品目「くちぞこ」。くちぞことはシタビラメのこと。蒸したくちぞこと、粕汁のようなソースが絶妙な相性でした。その逸品を、人間国宝である井上萬二さんの器でいただくという贅沢たるや…。ちなみに、梶原さんも佐々木さんもこのコースの中で特に気に入ったお料理として、この「くちぞこ」を挙げていました。
「本当に刺激的でありがたい経験」(梶原さん)
フルコースを堪能した後、梶原さん、佐々木さん、大越さんにお話を伺いました。
ーー大変おいしくお料理をいただきましたし、掛け合わせ次第でこんなにも食は豊かになるのだと気づかされました。作り手としても、そうしたマリアージュを感じられましたか?
梶原さん:僕は要太郎さんの酒粕やどぶろくを口にして、今までの概念が覆されました。ああ、こんな味がするんだと。例えば、酒粕を使ったジェラート。機械ですりつぶすのはもったいないと思って、ある程度ジェラートを仕上げた後に、酒粕を軽く混ぜました。今までやってきたことを1回リセットして、酒粕を生かす道を探って作り直したんです。
くちぞこの料理では、僕がソースを担当したのですが、要太郎さんの味を崩したくないと思って。当初はブイヤベースを想定していたのですが、酒粕を入れた方がもしかしたらいいかもしれないと思って、最終的には粕汁風になりました。まさに実際にコラボレーションして生まれた一品でしたね。
佐々木さん:食材があまりにも違うんですよね。佐賀県に来て特に柑橘系には感動しました。僕たちの土地で酸味を作ろう、使おうとすると、ビネガー系か梅干しか。でも佐賀の柑橘系は甘みの強いものから渋みが強いものまで幅広く、豊かなんです。今回のコラボレーションでは、柑橘系に特化することが僕の中の一つのテーマでした。本当に驚きの連続でしたし、冒険をしているような時間でした。
大越さん:出会いによって、新しい風味や新しい味が生まれ、それを体験できたこと。それが一番大きかったですね。酸味の話がお二方からも出ましたが、実は僕も酸味を意識したペアリングをしました。お二人それぞれの味はもちろん、そして今回生まれた味のハーモニーが新しい世界へ誘ってくれました。おもしろかったです。
佐々木さん:共通のテーマが「酸」だという話も特にしていないんですが、結果的にそうなりましたね。僕は基本的に「おいしい」というのは、酸味や苦味といった人が苦手とするものが入ってこそ、おいしいと思っています。だからこそ、今回、酸の豊かさには驚かされました。
ーー器という観点ではどうでしょうか。
梶原さん:正直な話をすると、割らないようにしないといけないので、とても緊張しました(笑)。
僕は今、器の町を拠点にしてはいるんですけど、器についてまだまだ全然知らないことばかりだなと思いました。今回の〈USEUM SAGA〉にあたって、要太郎さんといろいろと器を巡る経験をさせてもらって、歴史背景を含めもっと知らないといけないなと反省しています。
ーーお二人とも東京ではないところでお仕事をされています。ローカルで料理をすることについての思いを教えてください。
梶原さん:僕は普段、自分で釣った魚をお店で使います。また狩猟免許を持っているので、イノシシやカモも捕っています。特にカモはレンコンや麦のほか、海苔の新芽を食べてしまうので、地元では困りものなんですね。そういった困りごとの解決にお手伝いできるのであればという気持ちもあって、自分で狩猟したものを提供しています。
佐賀には海もあるし、山もある。自分が体験して感動したことをそのままお皿に乗せられるのはやりがいですし、それをみなさんと共有して楽しんでいただけることもうれしいんです。
佐々木さん:僕はその土地の声をどう届けるかということにこだわり続けてきました。その土地に根を張って頑張っている生産者の味を伝えたいし、それが僕の役割かなと思います。
ーー〈USEUM SAGA〉という取り組みについての思いを教えてください。
佐々木さん:今回お声がけをいただいて、僕が参加を決めた理由は1つだけ。地方と地方のコラボレーションだったからです。東京のシェフと地方のシェフという対比ではなく、地方と地方を繋げるというコンセプトがすごくいいなと思って。
それから制約を設けられなかったことも大きかった。「発酵だけに特化してほしい」などとよく言われるのですが、そういうテーマを事前に指定されなかったことも、自由に楽しむことができた理由かなと。
大越さん:私は〈USEUM SAGA〉への参加は2度目ですが、こうしたローカル×ローカルの組み合わせは全国的にも珍しい取り組みなのではと思います。しかも、それぞれがそれぞれのルールを出すのではなく、2人による共作が生み出されることが魅力的ですよね。
私は要太郎さんのどぶろくが好きなのですが、その魅力をペアリングを通してさらに多くの人にお伝えできるのは喜びでしたし、器を目で楽しむお客様の姿を見られるのもUSEUM SAGAらしさだと思いました。
梶原さん:要太郎さんに「九州は冬でも死の香りがしない」と言われてハッとしました。僕は今まで東北のことを全然知らなかったんですが、要太郎さんの暮らす遠野に行かせてもらって、僕らは「冬だから食材がない」という経験はしていないな、恵まれているんだなと思ったんですよね。
器に関してもそうですが、まだまだ学ぶべきことがいっぱいあるなと思いました。〈USEUM SAGA〉は本当に刺激的でありがたい経験でした。
「少しずつですが、確かな手応え」
そもそもなぜ〈USEUM SAGA〉が行われているのでしょうか。USEUM SAGAの運営に関わっている佐賀県職員の安冨喬博さんはこう言います。
「旅の目的になるレストランを佐賀県内につくるためです。特にこのコロナ禍で、美食家(フーディー)の方々が海外ではなく日本各地にあるローカル・ガストロノミーを巡る機会がぐっと増えました。レストラン、ひいては地域にも注目が集まることを期待しています」
佐賀県では、2015年にプレミアムな野外レストラン〈DINING OUT〉が開催されたことなどをきっかけに、県内外のシェフとの結びつきができ、「食と器」という強みに磨きをかけてきたそう。〈USEUM SAGA〉もその流れで始まった取り組みといいます。
「これまでの〈USEUM SAGA〉では東京在住のシェフに出演していただいてきましたが、今回は念願だったローカル×ローカルのコラボレーションを実現することができました。
東京のシェフたちのレベルの高さは周知の事実であり、そういったシェフたちと関わることで学ぶことはたくさんありますが、世界に誇れる日本の食の源流は、地域から生まれることが多いと感じています。佐賀の独自性、特異性を磨いていくためには、他の地域に目を向け、その土地の風土や文化に触れることも重要だと考えています。
地域との関わりは、互いに刺激し合える関係を築いていきやすく、今回の〈とおの屋 要〉のみなさんたちのように、人と人の繋がりをより強く意識していくことができるのも魅力です。
佐賀には、他の地域にはない、器の歴史・文化の厚みがあると思っています。器に触れる機会も多く、料理人にとっても食べ手にとっても、クリエイティブな体験ができる、その可能性を秘めている地域だと思うんです。佐賀のレストラン、料理人、器の文化などを知ってもらうきっかけづくりとして、少しずつですが確かな手応えを感じています」と安冨さん。
〈USEUM SAGA〉はこれからも継続していく予定だそう。次はどんなマリアージュが佐賀県で生まれるのか、心待ちにしていたいと思います。