10代特有のきらめきを 真空パックした一本。/第9回 ヒコロヒーのナイトキャップエンタメ

CULTURE 2023.01.23

疲れた心と体に染み込む、ナイトキャップ(寝酒)代わりのエンタメをヒコロヒーが紹介。第9回は、アレクサンダー・ロックウェル監督25年ぶりの日本公開作『スウィート・シング』をお届け。

アレクサンダー・ロックウェル監督作品『スウィート・シング』

第9回ヒコロヒー

本作を観たのは2022年2月。好きな『イン・ザ・スープ』の監督の作品なので、ふらっと映画館に入ったのだ。それからしばらくたち、なぜか最近になってこの映画のことを思い出していた。きっとそれだけ作品としての強度があったからだろう。本作は、頼れる大人がいない15歳の姉ビリーと11歳の弟ニコの、幸福感あふれるロードムービーだ。主演の2人は監督の実の子どもたちが演じ、温かみのあるスーパー16ミリフィルムでモノクロ(一部カラー)撮影されている。子どもたちの冒険といえば『スタンド・バイ・ミー』を思い出すが、あの映画は子どもたちが能動的に旅に出るのに対し、こちらは「そうせざるを得なかった」現実があるという対比も色濃く出ている。子どもたちは純真な世界を生きているが、その背後には大人たちがつくる残酷な世界がある。そんな大人の加害性のみならず、悲しみや弱さまでも描かれていたことに、私は監督の誠実さを感じた。
今の私が15歳の自分を振り返ることはできるが、すでに大人になって染み付いた経験や知恵がちらついてしまい、当時の15歳なりに精一杯生きてきた喜びや悲しみの感情や感覚には戻れないだろう。そんな大切で特別な時間ゆえのきらめきが本作には詰まっていた。もし今の私が当時の自分に一言だけ伝えられるなら……「ちゃんと学校には行けよ」かな。

text : Daisuke Watanuki

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