夏子の大冒険 〜美術館をめぐる旅〜 美しい生活を提案する資生堂アートハウスへ。「K が映す鮮やかな世界」編
今回の大冒険の舞台は、静岡県掛川市にある〈資生堂アートハウス〉。ここには、かつて銀座の資生堂ギャラリーに出品された絵画や彫刻、工芸品などが展示されています。文化によって生活を彩り、美しさによって暮らしを豊かにしたいと願った資生堂さんの精神が垣間見える空間です。
ミラーガラスを覗き込んでいると…。
建築家の谷口吉生(たにぐち・よしお)氏と高宮眞介(たかみや・しんすけ)氏によって設計された建築は、それ自体がアートそのもの。銀色のタイルとミラーガラスの建物に緑の芝生がよく合います。ガラスに写り込むモニュメントや青空を眺めていると、なんだか別世界へと迷い込んだような気持ちになりました。
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「K が映す鮮やかな世界」
「別世界」と書いて今思い浮かぶのは、幼なじみ K のことである。先月も登場した幼なじみ K 。彼女にとって「活字は睡眠薬」とのことなので、バレてないことを信じて今回も登場してもらおうと思う。 K は今、パリにいる。
今まではお互い忙しかったりして平気で2ヶ月会わないこともあった。それなのに、彼女がパリに行った途端、私たちは毎日欠かさずテレビ電話をしている。本当にくだらない話から、ほとんど何も話していないような時間まで。まるで付き合いたてのカップルさながらに、互いの生活を何時間も中継し合っている。
K は変わった。少し日焼けした肌に、白のタンクトップ姿。麦わら帽子とサングラス、パールのネックレスを合わせ、口元には真っ赤なルージュ。携帯の画面に映る彼女は、すっかり “パリジェンヌ” になっていた。
オレンジのフレッシュジュースを飲みながら、「アパルトマンの向かいにあるパン屋さんの店員が、ほぼティモシー・シャラメだ」と話すK の姿。うん、完全なパリジェンヌ。
K はよく私をパリの街へと連れ出してくれる。エッフェル塔のふもとの芝生で横になっているカップル。カフェのテラスで昼からビールを嗜むおじさん。街中を駆け回る、天使の生まれ変わりみたいな子どもたち。乾燥した日差しがこっちまで届いて、汗をかきそうだ。
ふと、画面の下半分に映る自分の姿が目に入って唖然とした。薄暗い部屋でかろうじて見える私の顔には血色はなく、ほぼミイラみたいな姿が映っている。かと言って、到底ミイラにもなれなさそうな湿度90%の部屋の中で、異国の地とはなんたるかを思い知らされた。
毎日所々で見つけた “ほぼシャラメ” を報告してくれる K からは、実はたくさんの勇気をもらっている。言葉の通じない異国で挑戦し、踏ん張っている K 。 彼女が映し出す鮮やかな世界は、私を日々鼓舞してくれる(もちろん、直接伝えたことはないんだけど)。
さて、そろそろ電話の時間。
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今回訪れたのは…〈資生堂アートハウス〉
現在、開催中の企画展『第二次 工藝を我らに 第三回展』。これが非常にワクワクしました。名だたる工芸作家の作品と、新旧が入り混じった工芸品。それらを「実生活の中で使ったら?」と想定した資生堂さんらしい展示です。思えば、化粧品こそ日常に根付く美術品。私たちの生活に寄り添った商品を生み出し続けるって改めて凄いことだなと実感しました。今回は、日常と伝統と美術の垣根を超えた心ときめく瞬間を堪能することができました。