花井悠希の朝パン日誌 三姉妹が営む居心地のいいお店。京都〈Nitta Bakery〉のパンをテイクアウト
秋晴れが気持ちのいい季節になりましたね。芸術の秋、食欲の秋、そして行楽の秋。秋の行楽といったら紅葉。紅葉といったら京都…と、連想ゲームのように導かれご紹介したくなったのは〈Nitta Bakery〉さん。〈清水寺〉や〈高台寺〉など紅葉の名所に程近く、地元の方に愛される小さなパン屋さんです。
チャバタらしいザラリとした舌触りと、もちっとした食感の先にある抜け感。その抜け感を作っている気泡全てを一つたりとも見落とさず(怖いわ)入り込んでくるミルククリームが甘さと滑らかなコクで余白を埋めていきます。ぐるりと見渡して全員にクリームは行き渡ったかな?と気泡チェックが済んだ頃に、ラム酒漬けレーズンがハイタッチをしながら駆け抜ける。クリームとパン生地がちょうど良く収まり訪れた平穏にラム酒の風味で波風を立てていきます。なんだったんだあいつは(※レーズンです)!
パン生地に甘さが少ないので、ミルククリームと一緒になってもさっぱりとした印象。私がおばあちゃんになってもきっと美味しく一本ぺろりと食べられちゃうんだろうなって安心しました(気が早い)。
秋ですねぇ。贅沢に大きな栗が3個もごろりんとのっています。栗と来て、カスタードと来て、サクサクと押し寄せるバターの圧に頬が緩んだ隙に、カシスの襲来!スキッと抜ける甘酸っぱさにカロリーがチャラになる感覚を覚えます(そんなわけない)。
栗は甘さをこぼしながらホクっとほどけ、ゆっくりと風味が花開いていきます。最後に待っていたデニッシュの端、折りが重なっている部分のサクサク感は多幸感をぐいっと引き上げてくれますね。この食感はもう霜柱です(食べてたの?)。それか、30センチくらい積もった新雪にえいっと足を沈める感じ。雪の例えしかでてこないくらい、無抵抗にシャクシャクシャクと崩れ、サラサラサラと揺れる心地はピュアそのもの。ちなみにその間もずっとバターの柔らかなコクが漂うのでどこまでも一緒に漂う覚悟でよろしく!(←誰?)
カリカリとエッジのたったモチモチ生地のうま味と渡り合う本格的なバジルソースと角切りのベーコン。美味しくないはずがない!よほどお腹が空いていたのか、美味しくて一瞬にして完食したのか、食べたメモが「美味しくないはずがない!」で終わっていて、1人で笑いました(困った)。こちら現場からは以上です(すみません)。
角食パンの生地を使ってバターを包んでいるこの子。もちっとひきのある質感の生地が、内にくるむバターとその周りにぽっかりあいた空気の洞窟へとエスコートしてくれます。表面にさりげなく振られた塩がミネラルの旨味ときらめきで輪郭を際立たせると、あら不思議。バターでまったりとしている味わいに軽やかな風を呼びこみます。いくらでも食べられる軽さと歯切れの良さで、108円。ワンコイン(消費税がなかったら)って驚きです。
インスタで「#ニッタベーカリー 」を見ていると、“先代のときによく行っていて、いまは遠くへ引っ越したけど、久しぶりに食べられてうれしかった!”とか“バイトしていました”とか、みなさんの思い出がたくさん出てくるんです。あぁ、涙腺が…!長く続けるってとても尊いことだと思います。きっと想像以上に大変なことだし見えない努力の積み重ね。
観光で訪れる私たちがこれからもこのお店に集う穏やかで温かな気持ちを持ち帰られるように、そしてこの街に暮らす皆様のためにも、これからも末長く続いていってほしいと願うパン屋さんです。