花井悠希の朝パン日誌 連載100回記念!鎌倉〈BREAD IT BE〉の森田シェフにインタビュー【後編】
101回目の「朝パン日誌」へようこそ!「100回を強調しすぎ」とツッコミされそうですが、今回までは余韻に浸らせてください!というのも、今回は「100回記念!〈BREAD IT BE〉の森田シェフへのインタビュー」の後編をお届けします。朝におすすめのパンや個人的に好きなパンなどはもちろん、グッズの話も深掘りさせていただきましたよ。
朝パンにおすすめのパンと個人的に好きなパン
前編の最後に、子供の頃の朝ご飯はお父様の影響で必ずパンだったとお聞きしたところで、聞きたかったやつ、いきまーーす(アムロいきまーす!のテンションでどうぞ)。
ーー朝パン日誌という連載なので、朝におすすめの〈BREAD IT BE〉のパンを教えてください!
「全粒粉の食パンです。シンプルに作っているので粉の風味を味わってほしいですね。石臼で挽いた自家製粉の全粒粉を30%使っているのですが、『ハルヨコイ』という麦を北海道の前田農産という有名な小麦の農家さんから農家指定で仕入れています。残りの70%も同じく北海道産の『ハルユタカ』という小麦。なので、これは本当に粉を味わってほしいパンです」。
ーーそうなると、合わせるドリンクやフードはどのようなものがおすすめでしょうか?
「飲み物は、僕自身がコーヒー好きなのもあり、ブラックコーヒーがいいですね。紅茶も飲み方はストレートがいいです。甘いドリンク系じゃない方が合うと思います。フードはそうだなぁ…食パンなので合わないものはないですが、〈ベーカリー&レストラン 沢村〉や〈THE CITY BAKERY〉だとモーニングをやっていて、3cmくらい分厚くスライスしたものをトーストして、ソーセージ、卵、サラダなどとワンプレートにしたセットが定番であります。この全粒粉の食パンも厚切りがおすすめ。とはいえ、ぜいたくな食べ方なので、普段なら5、6枚切りくらいで、特別なときには厚切りがいいと思います」。
ーーやはり分厚くカットするのが、おすすめなのですね。確かにカットの厚みで、普段の朝ご飯とブランチなどのご褒美朝ご飯でメリハリがつけられそう。朝ご飯はパン派の森田さんレコメンドなら間違いないですね!
「あ、ちなみにいまはご飯派です」。
ーーえ、ええええ!?どこで変わってしまったんですか!?
「パンは自分自身で作っているので味の予想ができちゃうからかもしれません。料理は塩や砂糖など感覚で入れるから味見しますが、パン屋はレシピの段階でとても細かく作っており、何%と割合で決まっているので、そこさえ間違えなければ失敗しないから味見することもないんです。もしレシピ通りに作っているつもりで何か忘れていたりしたとしても、発酵などのタイミングがいつもと違うとか、途中で見た目や状態から感覚で気づきます。逆に、工程も焼き上がりもきれいに上がっていれば問題なくちゃんと出来上がっています」。
料理のように直感的ではなく、レシピというシナリオに沿いながらも、一つ一つの工程は言葉じゃなく感覚的なのが面白い。お話を聞けば聞くほど、職人さんってアーティストだなぁと感じます。
ーーパン屋さんは朝が早いイメージですが、1日の流れってどんな感じでしょうか?お話を聞いていると、やらなければいけないことが無限にあるように感じます。
「早番の人は3時出勤ですね。そこから生地を分割したり、食パンなどは本捏ねをしたり。うちは発酵時間を長くとっているので、前日仕込みなんです。こだわればこだわるほど、2回、3回と仕込みは分かれますし、発酵時間も長くなります。レシピを簡単にしちゃえば、仕込みをしてその日のうちに焼くところまでいけるのですが。毎日お昼過ぎくらいからは翌日分の仕込みを始めますね」。
ーー発酵時間を長くすると具体的に味わいはどのように変わってくるのでしょうか?
「発酵時間を長くするというのは、入れる酵母が少ないということなんです。酵母というのは小麦の糖分を食べて増殖するのですが、酵母が少ないと小麦の糖分が余計に食べられ過ぎず残った状態で焼き上げることができるので、小麦の甘みが残ります。さらに、ゆっくり時間をかけて発酵することにより、ガスが生まれ気泡ができますが、それが香りの成分になるので奥行きのある味わいになります。うちでは18時間寝かせます」。
ーー18時間もですか!手間と味は切っても切れないですね。
「長い時間をかけて発酵させていると聞くと、難しいとか手間とか思われるかもしれないですが、別に発酵している間に自分も寝ておけばいいので(笑)」。
とはいえご飯の時間もずれるだろうし、3時出勤なら何時に寝るのだろうといらぬ心配をしてソワソワしだした私に「慣れです、慣れ!」と冗談っぽく話してくださった森田さん。ふと、そんな森田さんが、お店として、職人としてではなく、個人的に好きなパンっていうのも聞いてみたくなりました。
ーー森田さんが個人的に好きな〈BREAD IT BE〉のパンも教えてもらえますか?
「いまだと『たとえばこんなカレーパン』ですね。季節限定商品ですが、これは忌野清志郎さんの『たとえばこんなラヴ・ソング』から名前をつけているんです」。
紹介してくださったのがこちら。カレーパンと名前がついていますが、カレールーは入っていません。その代わり、生地自体に10種類以上のスパイスが練り込まれ、カレーの芳香はムンムン。そこにカレーの代表具材であるじゃがいもやにんじんなどが、パンの代表具材のレーズンやナッツと対等に肩を並べてたっぷりと練り込まれ、立派なカレーパンとなっているのです。
ベリーの果実味とじゃがいもってどうなの?と及び腰になっているあなた。心配御無用!洋食屋さんでアラジンのランプみたいな容器に入ったカレーとセットで来る白い平皿によそわれた白米。その上にパラリと飾りのようにレーズンやアーモンドがのっていることがありますね。カレー風味が橋渡し役になってまさにソレと同じ役目を果たすのです。もちもちでトロトロの生地は、ライスよろしくいとも簡単に喉を滑りぬけていき、時折放つクミンのパンチやナッツのコリコリはさらに複雑な味わいを広げます。目からの情報と舌で感じる情報がそろわずスパークしてしまうような驚きのカレーパン。甘い系、しょっぱい系って括るのはナンセンスです!
色番までこだわったオリジナルグッズ
ーー最後に、これは聞いておかなければと思っているのですが、お店のオープンが決まったときからグッズを作りたいというのがあったというほどなので、グッズの製作にも並並ならぬこだわりが詰め込まれている感じでしょうか?
「グッズの方がこだわってます(笑)!」
ーー自家製粉や発酵時間など、こだわりを詰め込んだパンより!?
「ロゴはビートルズの書体をそのまま使っていて、バッグのデザインとかは自分で考えて。色違いやデザイン違いなど配色まで考えたデザインは15種類にまでなり、もう全部欲しいから作っちゃえと(笑)。赤と青の色は、ユニオンジャックと同じ色番にしています」。
ーー以前お邪魔した際に一目惚れして、〈1966カルテット〉のメンバーにも思わずプレゼントした“鶴岡八幡宮の鳥居の前をビートルズが横断している”シールがあるのですが、それも?
「僕のアイデアです。アビーロードの有名なアレの影絵の後ろに鳥居があったらおもしろいんじゃないかなと思って」。
見事にその面白さに惹かれて、そのステッカーをヴァイオリンケースに貼っている私。エコバッグは縫製工場で廃材となった素材を再利用し、包装をできるだけ減らすエコの視点からも製作されています。
パン職人さんはアーティスト!!
森田シェフに直接お話を伺ったことで、これまで感覚的に楽しんでいたパンのおいしさも、“じっくりとパンの声を聞きながら味わう”という新たな1ページが開いた予感です!それって、楽譜から作曲家の意図を汲み取るクラシック音楽と捉え方が似ているのかもしれません。よーし、音楽とのつながりも感じたところで(←無理やり?)これからも永遠にパンへの愛を叫ばせていただきますよ。これぞ101回目のプロポーズ(←だまらっしゃい)。森田シェフ、素晴らしいお話を聞かせてくださりありがとうございました!
〈BREAD IT BE〉
■神奈川県鎌倉市小町2-16-35
■0467-33-4680
■9:00〜18:00(売り切れ次第、閉店)
■水、第2木曜休