花井悠希の朝パン日誌 ご近所さんの言う通り!…〈Tournage〉と〈丸栄ベーカリー〉
知らない街をぶらぶらうろうろ。思いがけず素敵なパン屋さんに出会えたら最高ですが、そう甘くはないのが現実。ましてや今は、思い立ったらすぐ検索してあれやこれやを調べられる時代。「今日はこの街に行くからちょっくら調べてみよう」が、目的地まで向かう道中のお決まりみたいになっています。それでも、画面に同じような表情でつらつらと並ぶ情報達を見れば見るほど、それぞれのお店の特色やキャラクターが分からなくなってくることもしばしば。となると、やっぱり口コミ(リアルの)が1番じゃないの?と、振り返ってみたわけです。パン好きを公言する私にオススメを紹介してくれた友人達の、近所のお気に入りパン屋アドレス。そこには、そこはかとない落ち着きと間違いのない美味しさが静かに佇んでいました。
いつ食べてもしっくりくるパン…〈Tournage〉
アパレル関係の会社やお店も多い原宿、表参道エリアに程近い千駄ヶ谷で、20年余り天然酵母のパンを焼き続けているお店です。移り変わりの早いエリアの印象がありますが、その中でこんなにも長い時間続いているということから、いかに愛されているお店かが伝わってきます。付近で働くパン好きの友達や、パンを食べなさそうな(ルックスのイメージ的に)仕事関係の知人など、これまで多数のリコメンドをもらっていて、私も昔から度々訪れている好きなお店です。
私の中のベーグル観をすべて満たしてくれる食感にまずにんまりしてしまいました。もっちりでありつつ適度にねっちりとくっつくような引きのあるベーグル生地は、歯切れのよさも兼ね揃えて、ホップステップジャンプと3段階で高まります。密とは無縁で隙をちゃんと与えてくれる感じが生きた心地がしていいんですよね(なんだそれ)。お餅みたいに喉にグッと溜まる感覚がある密度の高いベーグルもあるけど、この子は空気の粒が満遍なく閉じ込められているので抜けがあるのです。高密度の本場らしいベーグルも素敵だけど、寝ぼけ眼の朝にはこれくらい隙がある方がしっくりくる気がします。そんな生地からはココアの香りがそよそよと。
そしていよいよ、内側に閉じ込められたバナナクリームチーズの出番です。ガツンと届くのはまず酸味。バナナのフルーティさかなと思いきやクリームチーズの奥行きも否定できなくて、これはどちらの酸味なのか捕まえられません。振り子のようにバナナとクリームチーズをいったりきたりします。そこにチョコが加われば、舞台は幼少期の記憶へ。屋台のバナナチョコを思い出したり、絵本に出てくる可愛いお猿さんの絵が見えてきたり…あれ?なんだか自分がお猿さんになった気分(え?)。バナナってなぜだかメルヘンな記憶を思い出させますよね。ええ。(←強引な断言)リベイクしてみると、生地や内側のクリーム&チョコにもたっとしたとろみが加わって、また一変化みせてくれます。ココアの香ばしさも際立ちますよ。
表面のチーズはジリリと焼かれてパリパリ。ベーグル全体に覆いかぶさるようにかかっているから、ベーグル生地とパリパリチーズ部分がまるで二層のようです。ひき肉にひよこ豆、スパイスもしっかり届く本格的なキーマカレーに、和ませ役のチーズがたんまり。ひき肉の旨みは濃縮されひよこ豆は食感に面白みをプラスしています。表面のチーズはパリパリ食感だけじゃなく香ばしさを最大限に発揮し、塩気を光らせることで全体を締めるという1人何役もこなす俳優さん。
生地は上に述べたように引きが強く、口内をモッチモッチとバウンド。それがカレーと出会うことで、まるでナンを食べているかのような錯覚に陥るだなんて!カレーパンよりさっぱりしていて、カレーパンというよりナンとカレーの取り合わせ。これはナンとカレー、ライスとカレーに次ぐ相性の良さかもしれません。これは世紀の大発見かも(大袈裟)!?
じんわり甘い。生地はしとっと水分量多めでクリームと一体になって溶けます。クリームは特段に甘いわけではなく、黄身のコクがゆるりと届くような穏やか仕上げ。そして一番印象的なのは、柔らかなコクと甘みが残る余韻にあります。「温もり」を味にしたらきっとこんな感じなんだろうなという、優しさがほんわりといつまでも残り続けるのです。そこで、ん?なんだこの一瞬のコリっとは!?と、おまけみたいにナッツが小さく吠えるのもお見逃しなく。
焼き色が控えめの真っ白なこの子をトーストするのは忍びない気もするけど、トーストが好きなんです。許しておくれ。こんなに白っぽい焼き色なのに耳がカリッサクッと高らかに響いてクセになります。レーズンが大粒だから、一粒一粒レーズンに出会う度に濃縮な旨みが弾けて、すっきりとクリアな味わいに深みをプラスしています。薄くスライスされた状態で販売されていたのですがこの薄さ、なんとも絶妙な塩梅なのではあるまいか。もちっと水分が保たれているのにさっぱりとした心地。カリッとを楽しめる余白。甘さ控えめな生地とその薄さのおかげで後味に残るのはレーズンのフルーティーさなのです。レーズンの果実味でフィニッシュ出来るなんていい1日を過ごせそうだなぁ(単純)。
バター浸しパンもナンも甘食も…〈丸栄ベーカリー〉
パンの神様がついていました!(何回目?)学芸大学付近に住む友達にかねてからオススメされていた〈丸栄ベーカリー〉の「バターフィセル」。バター好きなら絶対好きだよ!とオススメされ、聞けば聞くほど気になるそのディティールはとにかくバターがたんまりのパンということ。たまごパンが有名でそれも美味しいけど、「バターフィセル」はそれ以上に驚くと聞いていたから、お店に入った時に「バターフィセル」がぽつんと一つだけ残っているのを見て、心から「ありがとう神様!」と叫んでしまいましたよね。声に出てなかったら良いのですが(自信はない)。
一口かじるとジュワー。気付いていたよ、トーストしたら表面に浮き上がってきたバターのあぶくのことはさ。昔ながらのフランスパン、バゲットと呼ぶのには少々かっこよすぎる懐かしいテイストのそれに、罰ゲームかの如く浴びせたバター。甘さは控えめで外の皮はちょっと硬め、でも内側はふわふわなやつ。そこにバターのジュースがじゅんじゅわー(ホ◯ケン語録)。塩気も十分で、ガツンと塩バターの味がやってきます。製造工程を見ていないから断言は出来ませんが、これは相当浴びせていますね。花井の勘がそう言っています(あてにはならない)。
生地の気泡は大らかで、目の詰まっているところや抜けているところも大小さまざま。そこがまたいい。お年を召されたおじいさまが奥から出てきておばさまと一緒に接客し、手渡しして下さいました。いらっしゃるお客様もお年を召された方が多く、お店の雰囲気やお客様とのやり取りを見ていると、長らく愛されているお店なんだなぁと感じます。創業60年を超えているとかいないとか?ちなみに午後4時くらいに行くと、残りはこの「バターフィセル」と食パン、甘食、ナンしか残っていませんでした。しつこいようですがもう一度言います。ラス1よ?(ドヤ顏)パンの神様ありがとう。大きいし見た目は普通のフランスパンだし、きっと一本を一度には食べられないだろうと、半分に切って片方をラップかけたのに、2分後にはそのラップを外した私がいました。止められなかった。口の中に残るバターのコクが呼ぶのですよ、仲間を。あの染み込んだフランスパンを。そんな声に抗うことなんて到底無理で、一本ペロリと平らげてしまいました。カロリーなんてさ、計算するものじゃないのよ。感じるものよ(名言風)。相当なカロリーでしょうが、気にせず平らげた今言えることは、「私、幸せです。」以上。
やはりリアルな口コミは偉大でした。郷に入れば郷に従えではありませんが、その街のことはその街に暮らす人に聞くのがやっぱり一番。そんな当たり前のことを改めて気づかされた今回の朝パン日誌。ということで、皆さんの馴染みの街のパン屋さん、どしどしこれからも教えてください。待ってまーす!