一生モノの趣味を見つけよう! 小谷実由の『趣味がなかなか見つからなくて。』 /日本伝統の香りの世界に遊んでみたい。
ファッションモデルから執筆活動まで、分野を超えて軽やかに行き来する小谷実由さん(通称:おみゆ)。意外にも、趣味らしい趣味がないのだとか。夢中になれる、一生モノの趣味と出会うべくしてはじまったのがこちらの連載。1年間、さまざまな体験を通じて自分にぴったりの趣味を探し続けてきました。12回目となる最終回は、日本三大芸道の一つ「香道」を体験します。
まず、「香道」の歴史と香木について学ぶ。
香水もアロマオイルも日常的に愛用しているという「香り」好きなおみゆさんは、以前から日本独自の香りの文化にも興味があったのだそう。三大芸道の中でもなかなか触れる機会の少ない「香道」を、ぜひ体験してみたい! と、今回は、東京・麻布の香木・香道具専門店〈香雅堂〉を訪ねました。
山田悠介さん(以下、山田)「今日、小谷さんには香の道と書いて『香道』を体験していただきます。日本の香りの歴史はいつから始まったかというと、1500年前の飛鳥時代。香木や香料が仏教とともに伝来し、仏教儀礼などに使用されました。平安時代には、貴族たちが文・髪・装束などに香をたきしめるなど、香りは自己表現のために使われるように。「香道」の形が確立したのは500年前の室町時代の終わりです。江戸時代には、教養や楽しみとして庶民にも香文化が広まりました。おみゆさん、今、目の前にあるものがなんだかわかりますか?」
小谷実由さん(以下、おみゆ)「香木ですよね!初めて見ました…」
山田「正解です! 1500年前の飛鳥時代にこの香木や香料が仏教とともに伝来し、仏教儀礼などに使われるようになりました。平安時代になると、貴族たちが文・髪・装束などに香をたきしめて、自己表現に使うようになります。」
おみゆ「日本の香りの歴史ってそんなに昔からあったんですね!」
山田「『香道』は、香木の香りを鑑賞したり聞き分けたりする芸道で、その形が確立したのは500年前の室町時代の終わりです。江戸時代には庶民にも香文化が広まりました。さて、こちらの沈香の香木と原木。どんな香りがしますか?」
おみゆ「うーん、原木はなんのにおいもしません…。香木の方は、奥からほのかに…。ところで香木ってどうやってできるんですか?」
山田「それが謎に包まれていまして。原木に傷がついてその傷口を守ろうとしたり、癒そうとしたりして樹脂分が集まって、それが沈香に変身するんじゃないかと考えられています」
おみゆ「不思議だなぁ、香木…」
山田「さて、今日はおみゆさんにこの不思議な香木の香りを聞き分ける遊び、『組香』を体験していてだきます」
おみゆ「さっきから気になっていたんですけど、香りを“聞く”んですか?」
山田「香道では、そう表現します。これは僕の考えですが、香木からないしょ話を聞かせてもらうからじゃないかな。たまに爆弾発言があって、そんなの全然知らなかった!なんてことも起こるかもしれません(笑)」
おみゆ「えー!おもしろい。今日は感覚を研ぎ澄ませて、そのないしょ話聞かせてもらいます!」
Step 1. 代表的な組香「源氏香」について体験。
ここからは、「香雅堂」のショップマネージャー・酒井さんにバトンタッチし、今度は香りを聞き分ける遊び「組香」について教わります。
酒井「組香には、一つ一つ季節や和歌を用いたメインテーマがありまして、たとえば、七夕には七夕伝説をテーマにした『星合香』、中秋の名月には『月見香』などがあります。今日は、中でも代表的な源氏物語をテーマにした『源氏香』を体験していただきます」
おみゆ「源氏物語は『香りの文学』とも言われてるって聞いて、なんだかロマンティックだなぁと思っていました」
酒井「源氏香は、5種の香りを聞き分けていただく遊びです。まず、5つの香木から5つずつ香を取り分けます。全部で25の包みから5包を無作為に選び、それを順番に炷(た)いていきます」
おみゆ「ということは、その5種の中には同じ香りが入っていることもあるんですね?」
酒井「あります。源氏香の香りの組み合わせは全部で52通りありまして、それを図で表したものが『源氏香の図』。ここから答えを探し出していただきます」
おみゆ「ひゃー難しそう…」
酒井「おみゆさん、一番大切なことはとにかく香りを楽しむことです!リラックスしてくださいね」
Step 2. 香りを聞き分ける。
座学の後は、和室に移動して「香席」を体験します。「香席」とは、茶道でいう茶会のようなもので、数人が集まり、作法にのっとって組香を楽しみます。正座をして緊張するおみゆさん、果たして香りを聞き分けられるのでしょうか…?
酒井「まず、用意した5種の香木をシャッフルします。『ご安座』と言われましたら、足を崩して結構です。正座で足が痛いのを我慢していると香りが楽しめなくなってしまいますから」
おみゆ「よかった〜!(泣)」
酒井「では、香木を炷(た)き出します。『出香』とお声がけしましたら、ここから本番。香炉を持ってみましょう」
おみゆ「わぁ、あったかいです」
酒井「香炉を左手の上にのせたら、 縁に親指をしっかりかけて持ちましょう。次に右手をドーム状にかぶせます。顔を近づけ、ゆっくり香りを吸い込み、吐くときは香炉を離して下に向かって。この動作をゆっくり3回繰り返します」
おみゆ「スー、ハー…」
酒井「この3回で、香りを楽しむと同時にしっかり覚えていただきます。香りで思い出されることからそのイメージをつかむといいですよ」
おみゆ「香りで記憶がよみがえることって、たくさんありますよね…!うーん、これはなんのイメージだろう…」
Step 3. 香りの答えあわせ。
5種すべての香りを聞き終えたおみゆさん。紙に答えを書いたら、さぁ、いよいよ答えあわせです!
おみゆ「ドキドキです…!私は2番目と4番目が同じだと思いました」
酒井「それぞれどんな香りがしましたか?」
おみゆ「1番目は、すごく甘い香りがして、私の憧れている女性のことを思い出したんです!2番目は、一番印象的な香りでした。私、シンガポールがすごく好きで、そういう暖かくて明るい国をイメージしました」
酒井「なるほど、いろいろ記憶が引き出されましたね。素敵です!」
おみゆ「3番目は、紅茶のようないい香り。でも、やっぱり2番目の香りのことをずっと考えてしまっていて。4番目でだんだんよくわからなくなってきちゃって(笑)」
酒井「ふふふ…。実は、3番目と4番目が一緒だったんですよ。答えは『明石』です!」
おみゆ「あーー!!そうなんだぁ。最後の香りは、全然いままでと違うイメージで、ちょっと香ばしいような、お魚焼いてるみたいな…お腹がすく香りでした(笑)」
酒井「とにかく気持ちよく楽しめれば当たり外れや結果は全く問題になりません。当たればさらに楽しいですけどね!(笑)」
「香道」体験を終えて。
おみゆ「こんなふうに五感を使って香りに集中したのは初めてで、すごく楽しかったです。自分の記憶がどんどん引き出される感覚に、なんだかドキドキしました…!」
山田「おみゆさんは香りをちゃんと自分の言葉で表現されていて、感受性が豊かな方だなぁと感心しました!僕、こんな家に生まれといて、初めは全部一緒にしか感じなかったから(笑)」
酒井「続けていくと、聞き分けのコツがわかってきます。ただ、何十年やっても百発百中ということはありません。香りって、本当に一期一会なんです。同じ香木であってもそのときの環境や自分のコンディションでも変わるものなので」
おみゆ「二度と同じ香りには出会えないんですね…!だからこそ、続けていく楽しさがあるんだろうなぁ」
今回教えてくれたのは?
今回、指導してくれたのは、京都より続く200年の系譜を持つ〈香雅堂〉の2代目・山田悠介さんと、ショップマネーシャーの酒井さんです。酒井さんは、もともと20年近く学んでいたお茶の世界から香の道へ導かれ、香道歴は8年。凛とした着物姿がとても素敵です。
「オープン・フェア・スロー」をキーワードに、和の香りの世界にさまざまな形で関わる〈香雅堂〉の店内には、香道具や香木、オリジナルのスティック香やかおり袋が並びます。〈香雅堂〉が主催する体験企画では、月ごとに違った組香を楽しめます。開催日時などの詳細や申し込みは下記のWEBサイトをご覧ください。
〈香雅堂〉
◼️東京都港区麻布十番3-3-5
◼️03-3452-0351
◼️http://www.kogado.co.jp/
おみゆさんからのメッセージ。 〜1年間の趣味探しを通して〜
初めての体験尽くしで終始緊張していた全12回。毎回とっても楽しくて刺激的でした。今、これまでに学んできたことが生活の細部に少しずつ活きてきているような気がします。はじめは新しいことに挑戦するって勇気が必要だし、尻込みする気持ちもあったけれど、この連載のおかげで「興味を持ったものはひとまずやってみよう!」と思えるようになりました。これからもいろんなことに挑戦してみたいなぁ。そんなわけで私の趣味の探求はまだまだ続きそうです…!