今のあなたにピッタリの一冊は…? 光永(ひなた)さんのために選んだ一冊とは?/木村綾子の『あなたに効く本、処方します。』

LEARN 2019.11.24

〈本屋B&B〉のスタッフ、木村綾子さんがさまざまな業界で活躍する「働く女性」に、今のその人に寄り添う本を処方していくこちらの連載。第7回目のゲストは、お笑い芸人の光永(ひなた)さん。お笑い芸人を志したきっかけから、今後の思い描くプランニングに至るまで。等身大の彼女が垣間見える対談となりました。

今回のゲストは、お笑い芸人の光永さん。

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女性ピン芸人としてお笑いライブやバラエティ番組に出演するほか、最近では「吉本坂46」のメンバーとして歌やダンスにも挑戦中。今年夏からは新たにハナコラボメンバーの一員に。

初めましてのおふたり。光永さんのキャリアに木村さんも興味津々!

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木村綾子さん(以下、木村)「光永さんはいつからお笑い芸人をされているんですか?」
光永さん(以下、光永)「16歳の時に大阪の「よしもとNSC」に入りました。今年で28歳になるので、芸歴は12年になります」
木村「ってことは、NSCには高校に通いながら通われていたわけですね。子どもの頃からずっと芸人さんを目指されていたんですか?」
光永「実は父が大阪で漫才師をしているんですよ。だから物心ついた頃から漠然と、お笑いをやりたいっていう思いはありました」
木村「そうだったんですね。じゃあ光永さんはお笑い芸人のサラブレットだ!」
光永「小さい頃に番組で、父と一緒に親子ロケに連れて行ってもらっていたんですけど、それがめちゃくちゃ楽しくて。これがお仕事になったら最高だなっていうのはずっと思っていましたね」

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木村「光永さんの〈instagram〉を拝見したんですけど、めちゃくちゃオシャレですよね!」
光永「ありがとうございます。洋服は大学生の時に好きになって、その頃から毎日コーディネートを変えるようになりました。ブランドものというよりは、とにかくいろんな種類の洋服を着たいと思って。たぶん6~7年は同じコーディネートはしていないと思います」
木村「すごい!ブランドも細かく載せてくれてるから、結構見入っちゃったんです。参考にさせていただこうと思って(笑)」
光永「それはめちゃくちゃ嬉しいです。少しずつですが最近、私の服好きが芸人界隈でも知ってもらえるようになってきて。早く何かお仕事にまで繋がったらいいなって思っているんです」

エピソードその1「私、ネタを書くのが遅くて…」

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木村「光永さんはどんなネタをされてるんですか?」
光永「私はピン芸人なので、漫談や、一人コントをよくやっています。内容は、“あるある”からもってくるネタが多いですね」
木村「“あるある”ネタ、好きです!例えばどんなネタ?…なんて聞いちゃっていいのかな」
光永「例えば、サドルを盗られてしまった自転車ってたまに見かけるじゃないですか。その逆を全力で演じているコントがあります。サドルを手に持って「サドル以外、全部盗られてしまったー!」みたいなやつです(笑)」
木村「“あるある”の発想をそうやって転換していくんですね。でも、”あるある”ネタを集めるとなると、普段から注意深く物事を観察する必要がありそうですね」
光永「そうなんですよ。だから常日頃、ノートを持ち歩いていて、面白いと思ったことは書き留める習慣はつけていますね」
木村「日常で見つけたヒントを温めておいて、ネタ作りの時に整理して使うんですね」
光永「そうですね。考えるときはノートのメモをきっかけに、いろんな連想を重ねていきます。小学校の頃の記憶にまで遡ることもありますね」
木村「ネタはどれくらいのペースで作られているんですか?」
光永「私はネタを書くのが遅いので、月に一本と決めて作っていますね。たくさん時間をかけたからと言って、いいネタができ上がるわけでもありませんので、いつもネタ作りの時間は楽しくも苦しい時間です」

木村さんが処方した本は…『観察の練習(菅俊一)』

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木村「この本は、まさにタイトルどおり「観察」という行為を「練習」する目的で書かれた本です。まず写真があって、ページをめくると見開きで文章が綴られている構成なんですが、大喜利でいうと「写真でひとこと」みたいな感じかな。どこにでもある風景を切り取った一枚の写真に、どんなドラマを想像するか。どんな違和感を見つけて、それをどう解釈するか。ものの見方が鍛えられる一冊です」
光永「面白そうですね。写真を眺めながら物語を考える感じが、ネタを作る感じと似ています」
木村「社会学者でもある著者の菅俊一さんの考察も面白く、勉強になるんですよ。ひとりで思考を鍛える練習本としても、芸人仲間とゲーム感覚で楽しむアイテムとしても、楽しめる一冊だと思います」
光永「目の付け所が鍛えられそうですね。パッと見ただけでも、「こういうところから見つけたりするよな」っていう写真が結構目にとまりました」

エピソードその2「昔からよく、茶番はありました」

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木村「お父様が芸人さんとおっしゃっていましたが、やっぱり誰かがボケたら、誰かが突っ込んで、みたいな賑やかな家庭だったんですか?」
光永「そうですね。父はツッコミだったんですけど、今思うと、子どもが喜ぶようなボケもよくしてくれていましたね。私が「今度の発表会でやるダンス見てよ」って言ったら、父は「じゃあ、椅子を持ってくるね」と言って隣の部屋まで取りに行くんですけど、戻ってきたら逆方向に椅子を向けて座って、みんなで「お父さん、逆!逆!こっち!こっち!」みたいな(笑)そんな茶番はよくありました」
木村「なんて可愛いお父さん!素敵なご家族ですね。お父様はネタに対してアドバイスしてくれたりもするんですか?」
光永「たまにありますね。ちょうどこの間、父が私の単独ライブを初めて見に来てくれたんですよ」
木村「え、それってなんか感動エピソード!お父様は嬉しかったでしょうね。ネタへのアドバイスとかくれたんですか?」
光永「アドバイスとかはなかったんですが、父もベテランなので、どうやらここ最近、若手のライブを見る機会がなかったみたいで。その日は一日、一人で”お笑い熱”を上げていました(笑)「 ちょっと俺も新ネタ書こうかな?」とか言って、なんだか上機嫌でしたね」

木村さんが処方した本は…『ほのぼの劇場(さくらももこ)』

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木村「お父様との掛け合いを聞いていて思い浮かんだのがこの本です」
光永「この絵は、さくらももこさんですね!」
木村「正解です!『ほのぼの劇場』は、さくらももこさんのエッセイ漫画です。『ちびまる子ちゃん』も、もともと彼女の経験を漫画にしている作品ですが、この本はもっと本人色が強い内容で、幼少期の思い出や、漫画家を志していた学生時代、もちろん家族の風景も、さくらももこが“さくらももこ足り得る理由”が詰まった一冊です」
光永「実は私、活字の本が苦手なんですけど、エッセイ漫画ってジャンルは本を読む入り口としてもいいですね!」
木村「活字の本並みに読み応えがありますよ。一人の女性であり、一人の表現者である、観察眼に優れた人間が、自分や家族や世の中をどう見ていたかに触れられるのも贅沢です。彼女はふとした瞬間のことを、それこそ数分で読めるドラマに仕立て上げるのが本当に上手ですよね」
光永「さくらももこさんの作品って、ありふれた日常生活の一コマを切り取ってるものが多いのに、新しい発見をくれますよね。「そうそう、そういう経験、私にもあった!」って。“あるある”ネタで勝負している私の、忘れてた記憶を呼び覚ませてくれそうです」

エピソードその3「目が覚めたんです。このままじゃダメだって」

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木村「デビューから12年ということですが、光永さんの中で順調な歩みはできていますか?」
光永「いや、もう全然プランと違うんですよ。…私、舐めてました!それなりにやっていれば、何とかなるだろう、順番が回ってくるだろうって、最近まで思っていたんですよね」
木村「いまメインになってるお仕事はどういうものなんですか?」
光永「やっぱり劇場の仕事が多いですね。劇場にいると、自分と芸歴が近い人たちと競い合うことになるので、長くやればやるほど、そこで戦うことだけで満足しちゃうようになっていた気がします。「もっと売れたい!」って口では言ってても、そのための努力を具体的にせずに、心のどこかでは全国区のテレビ番組に出ることなんて、それこそラッキーパンチくらいに思っていたなーって」
木村「現状に焦りながらも、もっと上に行くための戦い方が分からなくなってしまっていたんですね」
光永「そうなんです。このお仕事をやっていると、この間まで隣にいた人が一気にブレイクして一躍時の人に…、なんてことはよくあって。それで目が覚めたんです。このままじゃダメだって」

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木村「光永さんの中でこの先、こう売れていきたい!って戦略はありますか?」
光永「私、お笑いの他にも、歌とかダンス、お芝居なんかも好きなんですよ。他にも中学生の時に器械体操をやっていたので、アクロバットができたり、今ではファッションも武器にできるんじゃないかなって思っています。少しずるい方法かもしれないですけど、まずはそういうたくさんの得意分野があることを知ってもらって、何か一つでも引っかかればいいなとは思っていますね」
木村「その考え方、私も賛成です。まずは自分の存在を一人でも多くの人に知ってもらうことは大事ですもんね」
光永「吉本って、所属している芸人がめちゃくちゃ多いので、社員さんにも知ってもらえてないってことがよくあるんですよ。マネージャーさんも一人で何百人とかを見られているので、「オーディションがあります。受ける人ー?!」って連絡が一斉メールで回ってきたりするんです。だからまずは、そのラインナップに入らなきゃチャンスすらもらえないんです」
木村「本当にシビアな世界…」
光永「会社の皆に一斉に知ってもらえたという意味では、「吉本坂46」に出れたことは私にとってラッキーでした。私はキラーフレーズみたいなものがあるタイプではないですし、ピンなのでコンビ名もないじゃないですか。肩書きがなかったんですよね。「吉本坂46」のおかげで、ちょっとずつですが、自分の居場所を作れ始めた気がします」
木村「「吉本坂46」という看板で、いろんなことができそうですね。光永さんと話してて、すごくポジティブな可能性に満ちた印象を受けるので、これからどんどん輝いていきそうな気がします」

木村さんが処方した本は…『天才たちの日課 女性編(メイソン・カリー著)』

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木村「この本は、女性アーティストが、いかにして日々「創作」に向かい、「生活」と「仕事」の折り合いをつけていたのかを紹介した一冊です。作家や画家、女優、デザイナー、詩人など、143人のクリエイティブな日課や毎日のスケジュールが本当にユニークで、ぶっ飛んでて(笑)、でもきちんと自分の人生と向き合って戦ってもいて…。どの人の生きざまにも、ヒントをもらえるんです」
光永「すごくたくさんの方が載っていますね。あ、草間彌生さんの名前も!」
木村「「女性芸人」という言葉もそうですが、未だに”女性”ってくくられるじゃないですか。「男性芸人」とは言わないのに。芸人さんの世界でも、女性であることを受け入れて戦わなければならない現場はあると思います。創作の苦悩だけじゃなくて、偏見や差別や切実な状況を彼女たちがどう乗り越えたか。きっと、それぞれの女性から個性際立つ杖言葉をもらえると思いますよ」

今回、ご購入いただいたのは…

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対談後、なんと、木村さんが処方した本すべてをご購入いただいた光永さん。「今まで本なんて買う機会なかったですし、ぴったりな本をこんなにも選んでいただいて、全部欲しいに決まってるじゃないですか!」と笑いながら話してくれました。今月からYouTube『光永公式チャンネル』も新たにスタート。彼女の更なる活躍に、乞うご期待!

■光永さんの〈instagram〉アカウントはこちら

☆前回の「北澤宏美さんのために選んだ一冊とは?」はこちらから

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