まちをつなげるパン屋さん by Hanako1176 湘南の日常に馴染む、無添加・自家培養天然酵母のパン作り。神奈川県・鎌倉市にあるベーカリー〈Lumière du b〉へ。
パンラボ・池田浩明さんによる、Hanako本誌連載「まちをつなげるパン屋さん」を掲載。今回は、神奈川県・鎌倉市にある〈Lumière du b(リュミエール ドゥ べー)〉をご紹介します。
湘南の日常に馴染むいつものパンに隠れたたゆまぬ探求心。
夏、海辺の町はうきうきしている。豪邸が立ち並ぶ通りには、自宅前でガレージセールをしている人がいたり、サーフボードを抱えて歩く人がいたり。それぞれの夏を楽しんでいる。
バカンス気分の町にあって、〈リュミエール・ドゥ・ベー〉の仕事は実直そのもの。添加物不使用は当たり前、乳製品や動物性の食材さえ使わず、食パン、カレーパン、クリームパンまで作る。なぜそんな高いハードルを、無量井健太郎シェフは己に課すのか。
パン屋をはじめる前に見たテレビ番組。アレルギーに苦しむ子供たちが映しだされていた。体にやさしい、誰もが食べられる食材でパンを作りたい…無量井さんを駆り立てる思いだ。小麦、野菜、果物、ヨーグルトなど多種多様なものから種を起こし、パンにする。生地に混ぜればふくらむパン酵母(イースト)と比べて、発酵具合は複雑怪奇。無量井さんの仕事をそばで見ている、妻の幸子さんはこう言う。
「終わりがなく、ゴールがない。ある日『いいバゲット焼けた!』と思っても、野菜のロットが変われば、発酵が変わり、また思うようにできなくなる。できあがったと思ったらまた突き落とされて、ずっとその繰り返しですね」だが、発酵種のパンに特有の素朴さはむしろない。パン酵母(イースト)と同様に軽やかなパンを作り上げる手腕。苦労のあとさえ見せないから、このうきうきする街に似つかわしいのだ。
気取らず楽しむ本場イタリアの様式。
この街に、食への情熱を燃やす人がもう一人。〈オルトレヴィーノ〉の古澤一記シェフだ。日本でも、イタリアと同様、ワインと料理とパンの三位一体を手軽に楽しんでもらいたいと、エノガストロノミア(ワインも買えるレストラン兼デリカテッセン)を作った。
古澤さんが焼くスキャッチャータ(トスカーナの薄焼きパン)は旨味の塊。皮付きの豚を塊で焼いたポルケッタ、鎌倉野菜をはさんでパニーノにする。ワインで流し込む極上の時間。この2軒とビーチがあるから、長谷は天国だ。
〈OLTREVINO〉
■神奈川県鎌倉市長谷2-5-40
■0467-33-4872
■12:00~19:00(L.O.18:30)水休
■12席/禁煙
〈Lumière du b(リュミエール ドゥ べー)〉
すべてのパンを、パン酵母(イースト)を使用せず、野菜や果物、麦から起こした発酵種で作る。オーガニック小麦などを店内で製粉。体にいい素材にこだわり抜く。
■神奈川県鎌倉市長谷2-7-11
■0467-81-3672(長谷)
■11:00~18:00 月、隔週火休
池田浩明 いけだ・ひろあき/パンラボ主宰。パンについてのエッセイ、イベントなどを柱に活動する「パンギーク」。著書に『食パンをもっとおいしくする99の魔法』『日本全国 このパンがすごい!』など。 パンラボblog
(Hanako1176号掲載/photo : Kenya Abe)
☆前回のパン屋さん〈Toshi Au Coeur du Pain〉はこちらから。