まちをつなげるパン屋さん by Hanako1166 人気店が支持する小麦「キタノカオリ」を使っているパン屋さん3軒
パンラボ・池田浩明さんによる、Hanako本誌連載「まちをつなげるパン屋さん」を掲載。ますます続くパンブーム。その中で、この1、2年でパンの世界は大きな変革が。今回は、日本のパンをさらなる高みへと導くべく、国産小麦の存在をお伝えします。
独特な味わいのパンが実現できた理由は小麦に。
一流シェフを夢中にしている小麦がある。北海道で生産される「キタノカオリ」。人呼んで「奇跡の小麦」。その幸福な味は、誰が食べてもちがいがわかるはずだ。バターに似た甘い香りで、後味はご飯のよう。水をたくさん吸う性質があり、しっとりもちもちに仕上がるのが特徴だ。
このいいことずくめの小麦、実は農家さん泣かせだ。実りの時季に、ひと雨、ふた雨くれば、もう商品価値がなくなるほど、栽培がむずかしい。徐々に栽培面積が減っていて、このままいくと、いつか作られなくなるかも、とパン屋さんたちは心配している。
気鋭のパン職人たちはこぞって使っている。生産者の苦労、自然の恵みに感謝しながら。上のパンはぜんぶ「キタノカオリ」によるものだ。「#キタノカオリに恋してる」。この小麦がなくなるかもしれないことを知ってもらおうと、〈ヒヨリブロート〉の塚本久美さんが立てたハッシュタグは、大きな反響を呼んだ。塚本さんはこうコメントを綴る。「農家さんに『最高の小麦をありがとう』の気持ちを伝えたいのです。そして、皆さんにこのおいしさを知ってもらいたい」
「キタノカオリ」を80%使用した、〈ヒヨリブロート〉の食パン。お米に似た和の麦のフレーバーと酵母が織りなす香りは、日本酒を思わせる。もちもち感に、空気をはらませ、ふにっと、しっとり。新しい軽やかさ。
5年前、〈365日〉がオープン独特な味わいのパンが実現できた理由は小麦に。したことは、象徴的な出来事だった。それまで一般的だった外国の小麦に代えて、国産小麦の特徴を生かしたパン作りを行い、一つのムーブメントを起こした。杉窪章匡シェフが「キタノカオリ」と出会わなかったら、そんな展開もなかったかもしれない。「『キタノカオリ』は日本の宝。ほかに代わるものがない味と香り。これがなければ〈365日〉のパンは作れない」
続々オープンする新進気鋭のベーカリーで「キタノカオリ」は必須。横浜に今年誕生した〈GORGE〉もそんな一軒。「キタノカオリ」をお湯でこねた「湯種」で作る「キタノカオリのプチパン」。ぷにっ、むちーと弾み、口どけは感動的に甘い。この弾力、このおいしさ。「キタノカオリ」なくして日本のパンの未来は、語れない。
今回紹介したパン屋さん
〈ヒヨリブロート〉
月の暦に従い、月齢0から月齢20はパンを焼き、月齢21から月齢28までは、素材を探して人と出会うために旅をする。その瞬間もっともおいしいと思う材料をもとに、店主・塚本久美は「焼きたいパン」だけを焼く。ホームページかイベントのみでの販売。テレビで大反響となり、5年先まで予約でいっぱいのため、現在、通販停止中
■兵庫県丹波市氷上町
■非公開
■http://hiyoribrot.com/
〈365日と日本〉
9月25日、代々木の人気店が日本橋に進出。国内から選び抜いた良質な素材で作るパンと食のセレクトショップ。国産小麦の特徴を最大限活かす、新しいパンを提案。パンに使うベーコン、クリーム、カレーなどまで自家製。
■東京都中央区日本橋2-5-1 日本橋髙島屋S.C.新館1F
■03-5542-1178
■7:30(土日祝10:30)~20:00 不定休
■10席
■禁煙
〈GORGE〉
祖父が営んでいたレトロなパン屋の外観を生かしつつ、中に入れば最新型ベーカリー。キタノカオリや湘南小麦など日本のおいしい小麦を使った食事パンを提供。近所の市場で仕入れた素材で具材も手作り。コーヒーとパンをイートイン可。
■神奈川県横浜市神奈川区反町3-23-1
■045-321-3550
■8:00~20:00 日月休
■6席
■禁煙
池田浩明 いけだ・ひろあき/パンラボ主宰。パンについてのエッセイ、イベントなどを柱に活動する「パンギーク」。著書に『食パンをもっとおいしくする99の魔法』『日本全国 このパンがすごい!』など。 パンラボblog
(Hanako1166号掲載/photo:Kenya Abe)