「簡単!手作りスイーツ非常食」/ぼる塾・田辺智加のスイーツ”推しエントリー”特別編

停電でダメになった“あれ”がおいしいスイーツに!
寒川せつこさん(以下、せつこさん) まずは、こちらをどうぞ。
──出してくれたのは、温かなおしるこ。甘〜い香りが漂います。

田辺智加さん(以下、田辺さん) ありがとうございます、いただきます。おいしい〜。温かいのがいいですね〜。小豆のおいしさがきちんと感じられて、お餅もすごく柔らかい。やばっ、うまいです!

せつこさん このおしるこ、どうやって作っているか分かりますか?
田辺さん どうやってもなにも普通に小豆を炊いて砂糖を入れて作っているか、あずき缶を使ってもできますよね……。
──答えはこちらです。

せつこさん 人気の定番アイス『あずきバー』(井村屋)を材料にしているんです。
田辺さん !!!
──よく見ると、どろりと溶けてしまっていますね。
せつこさん 災害などで停電になると、冷凍庫に入っているアイスなどは溶けてしまって残念ですよね。でも、どうせならこのアイスを利用しておいしく楽しんでしまいましょう。
作り方はとても簡単。すでに溶けてしまっているので、これを鍋に入れて温めればいいんです。このあずきバーは小豆と砂糖、食塩、水あめだけでできていて、添加物が入っていないのもいいところ。温めるだけでシンプルにおいしいおしるこになるんです。もちろん夏場など冷たいおしるこが食べたければ、温めずにそのままでも大丈夫。
田辺さん えー、最高じゃないですか!
せつこさん ここに切り餅を加えてもおいしいです。そのままだと火が入るのに時間がかかるので、ピーラーなどで薄く削ってあげると、温めたおしるこの熱だけで柔らかくなってすぐに食べることができますよ。



田辺さん なるほど……面白いな。アイスが溶けちゃうととても悲しくなりますけど、ちょっと視点を変えるというか、楽しむ工夫を覚えておくと、ただ残念ってだけで終わらなくなる。これってとても大切なことのような気がします。

──食べている途中で、せつこさんはバターを取り出して、おしるこの中にポトリ。
せつこさん 味変です(笑)
田辺さん うわー!なんて贅沢な。いただきます。あ〜、うまっ!バターのコクとちょっとした塩味で甘じょっぱくなって、いいですね。
〝パンの耳+プリン〟で絶品フレンチトースト!
──さらに、せつこさんはもう一品つくってくれました。材料はこちら。

田辺さん ん?……これは何ですか……?
せつこさん パンの耳を市販のカッププリンに浸けたものです。これでとびきりおいしいフレンチトーストができるんですよ。
田辺さん えええー!
──またまたびっくりの田辺さん。
せつこさん カスタードプリンには卵と牛乳、砂糖が使われているでしょう。フレンチトーストをつくるときに必要な材料がすでに入っているんです。なんならバニラの香りなどが加えられていたりして、より上質な味わいを楽しむことができる。これを密閉袋などに入れてパンの耳を浸しておくと、それだけでフレンチトーストの素ができあがるというわけです。
田辺さん おお〜、すごいアイデアですね。
せつこさん もちろんパンの耳じゃなくて、パンでもいいですよ。我が家の場合は、夫が「焚き火カフェ」※で提供するサンドイッチを作るとき、パンの耳を落とすので、冷凍庫にたくさんストックがあって……(笑)。今回は8枚切りを使いましたけど、4枚5枚6枚とお好みの厚さでいいです。
では作ってみましょう。バターを塗ったホットサンドメーカーに、プリンに浸けたパンの耳を並べます。挟んで焼きます。以上です(笑)
※焚き火の伝道師と呼ばれる寒川一さんが主宰するワークショップ。海辺で火を焚き、コーヒーやサンドイッチなどを提供してくれる。

──フレンチトーストならではのい〜い匂いが漂います。焼き上がりに5分もかからなかったでしょうか。
せつこさん 開けてみましょうか。
田辺さん うわ〜!すごいすごい、ちゃんとフレンチトーストだ(笑)。めちゃくちゃおいしそうです。
せつこさん このままでもおいしいんですけど、冷蔵庫に余りがちなジャムを添えて、お好みでココアパウダーをふりかけて……。


田辺さん めちゃくちゃお洒落!いただきます。わ、柔らかいです。端っこの部分はサクッとしていて、中はプリンが染み込んでしっとり。パンの耳なのにふんわりしています。自分で一から作ると甘くなりすぎたりするんですけど、プリンで作られているからか、甘さもちょうどいいし、なにより香りがすごくいいです。これはびっくりだ〜!
スイーツは心を癒してくれる
田辺さん 災害にあったり、避難生活を余儀なくされてしまうときって、どうしても不安になったり、気分が落ち込んだりすると思うんですけど、甘いものがあると、そうした気持ちが少しだけ和らぐような気がします。
せつこさん そうですよね。スイーツって、気持ちを柔らかくしてくれますよね。甘い香りで心が癒されたり、落ち着いた気分になったり。もちろん温かいものなら体も温まるし、気持ちだって温まって心が穏やかになる。スイーツにはそうした力があると思うんです。とくに避難所などでは、おにぎりや豚汁などの食事はある程度提供されるかもしれませんが、甘いものまではなかなか……難しいですよね。なので、スイーツくらいは非常食を自分で用意しておくとか、少しの工夫で簡単に作ることのできるものを覚えておくと、いいのかなと思います。
ドリッパーもフィルターも不要の煮出しコーヒー
──さて、甘いものを食べた後にはコーヒーが飲みたい。でも避難時にはドリッパーやフィルターがないことも……。そんなときどうすれば? アウトドアライフアドバイザーの寒川一さんに教えてもらいました。

寒川一さん(以下、寒川さん) 北欧には〝コカフェ〟というコーヒーの淹れ方があるんです。コーヒー大国であるスウェーデンやフィンランドなどではポピュラーな淹れ方で、日本茶と同じようなやり方でコーヒーを淹れます。
田辺さん 日本茶と同じように……?

寒川さん 日本茶はお湯の中で茶葉の旨味や甘味を引き出すでしょう? それと同じように、お湯の中に粗挽きの豆を淹れてコーヒーのエキスを抽出するんです。とりあえずやってみますか。まずやかんに水を入れ、沸騰の少し手前で火を止めます。ここにコーヒー豆をザバーッと入れて、蓋をしてそのまま待ちます。何分くらい待つのか、ですか? コーヒーからサインが出るまでゆっくりと待つんです。
田辺さん コーヒーからサインが出るって、めっちゃいい言葉ですね(笑)。
寒川さん ですよね(笑)。でも本当にコーヒーが飲み頃を教えてくれるんです。
田辺さん 一体どんなサインが出るんでしょうか……。
寒川さん 泡が出はじめます。このまま置いておくと豆が湯を吸うんですね。すると豆が膨らんで中の空気が外に出てくる。それが気泡となって浮かび上がり、同時に豆のエキスも一緒に出てくるんです。泡はいわば抽出ができたサイン。このとき豆を急かしてはいけません。泡が出る前に振ったり混ぜたりして、せっかちに淹れてしまうと決しておいしくはならないから。僕らは森の中でよくキャンプをするんですが、雲の流れを見たり、木々のざわめきを聞いたりしながら、ゆっくりとそのときを待つんです。
田辺さん 素敵ですね。

──そんな話をしている間に……「コーヒーからサインが出ましたよ」と寒川さん。やかんの蓋を開けると表面にきれいな泡が出ていました。
寒川さん 屋外ならやかんをぶんまわすんですが(笑)、室内なので、最後にコーヒー豆を下に沈めるため上下に軽く振って……こうすることでクリアなコーヒーになります。


──はじめての煮出しコーヒーの味わいはいかがですか?
田辺さん 香りがいいですね。ガツンと濃厚なんですけど、クリアですっきりとしているからか、とても飲みやすくておいしいです。
普段から心がけたい〝身近な〟こと
──最後に、アウトドアの知識を防災に生かすスペシャリストでもある寒川さんに、私たちが日頃から心がけておくべきことを聞いてみました。
寒川さん 防災において大切なことはいろいろありますが、誰でもできる身近なことの一つに〝自分の住んでいる地域を知る〟ことがあります。日本は東西に長い国だし、高低差もすごくある。海の近くに暮らしている人もいれば、山の中、町の中に住んでいる方もいる。とすると、起こりうることも千差万別で、ひとくくりに考えること自体に無理があるし、遠くのことを考えても仕方がないわけで。大事なのは自分がどんな環境に居るのかを把握することです。まず自分の家が東西南北どちらに向いて建っているのか、太陽はどちらから出てどちらに沈むのか。あたりまえ過ぎて見過ごしがちなことを見直しておきたい。そのうえで海はどちら側にあって、山は、川はどこにあるのか。海が近い方なら津波がきたら真っ先にどの方向に逃げるべきなのか、その判断が条件反射的にできるくらいに、地域の地図や環境を頭の中に入れておく。それができたら自分たちに必要なことが見えるし、災害に対して準備もしやすくなると思うんです。準備ができていれば不安も少しは和らげることができます。散歩をしながらでもいいんです。ここに大きな木があるな、ここには広い空き地があるなっていうように、日常的に身の周りに意識をもつような感覚を養うことが何より大切だと思います。
photo_Keizo Iwamoto text_Akane Katsuyama
さんがわ・せつこ。北欧ソト料理家。スカンジナビアに息づくアウトドア文化や料理を得意とし、その魅力を伝えるべくワークショップを多彩に開催。『趣味どきっ!』(NHK出版)、『メスティンレシピ』(山と渓谷社)など多くのメディアにレシピを提供。また一さんとともにアウトドアのスキルを生かした防災における食事にも力を入れる。
さんがわ・はじめ。アウトドアライフアドバイザー。焚き火カフェ主宰。「キャンプのスキルや道具は災害時にそのまま応用できる」と、アウトドアの経験や知識を生かした新しい防災の在り方を教えてくれる。テレビやラジオ、雑誌などで幅広く活躍し、著書多数。せつこさんとの共著に『「サボる」防災で、生きる』(主婦と生活社)がある。