予約困難店のシェフに教えてもらったスイーツ×梅酒の楽しみ方

予約困難店のシェフに教えてもらったスイーツ×梅酒の楽しみ方
クラフト梅酒がこれからくる!?
予約困難店のシェフに教えてもらったスイーツ×梅酒の楽しみ方
FOOD 2025.03.04
“甘くてまったりしたお酒”のイメージが強い「梅酒」にも、素材や味わいに変化の兆しが! 梅酒の新しい楽しみ方を知るべく今回訪れたのは、日本茶と発酵フルーツを使ったデザートのペアリングコースが楽しめる神楽坂〈VERT〉。世界初のクラフトジン梅酒など、自由な発想で梅酒のカルチャーを伝える〈みなべクラフト梅酒〉を使った、スイーツペアリングを体験してきました。
教えてくれた人
田中俊大さん
田中俊大さん
〈VERT〉オーナーシェフ

たなか・としひろ/カウンターデザートの名店〈ジャニス・ウォン〉や、パフェを中心としたグラスデザートの人気店〈ラトリエ・ア・マ・ファソン〉などで研鑽を積み、2022年に日本茶をテーマにしたカウンターデセール専門店〈VERT〉をオープン。

クラフトジンに続き、次に来るのはクラフト梅酒!

原料や製法にこだわったクラフトジンが人気を博し、蒸留酒ブームが続くいま、じわじわ盛り上がりを見せているのがクラフト梅酒。そんな中、注目を浴びているブランドが、国内随一の梅の産地としても知られる和歌山県みなべ町で生まれた〈みなべクラフト梅酒〉です。

発起人は、祖父から受け継いだ農園で紀州南高梅を栽培している、高田遼さん。日本の伝統ある梅酒の文化を継承しながら、レシピや製法など自由な発想で新しい価値観を発信していきたい、と2021年にブランドをスタートさせました。

都内のポップアップやペアリングイベントなど、クラフト梅酒の普及を積極的に行う高田さん。この日も〈VERT〉に訪れ、ペアリング体験の冒頭、その想いを熱く語ってくれた。

「和歌山県みなべ町は、南高梅発祥の地。どの農家さんも自分の畑で獲れた梅を使って梅酒を作るのは定番で、家庭で楽しむ文化が自然と根付いてきました。

一方で、獲れたての完熟梅を使って作る梅酒のおいしさを、もっと多くの人に知ってもらいたいもどかしさも感じていました。オーセンティックかつ梅の味わいや香りが高い梅酒に付加価値をつけて、僕たちの、そしてみなべ町のシグネチャーになるような存在を作りたかったんです」

こうして生まれたのは、ベースとなるお酒・ホワイトリカーの代わりにジンウイスキー泡盛などを使ったユニークなクラフト梅酒

自分たちの手で栽培、収穫、レシピ考案、ボトリングまでを一貫する“Farm to Table”をモットーに、世界に進出してもインパクトを与えられるようなボトルデザインやパッケージで個性的で際立つクリエイティビティを掛け合わせた、新しい世界観の商品となっています。

世界初のジンベースの梅酒「Yii(No.9)」や、素材や製法、度数の違う10種類のミニボトル「CRAFT UMESHU No.1-10 SELECTION」など。ボトルのデザインから目を引く。

「梅酒というと、甘くてまったりしたお酒というイメージが強いですが、スピリッツやウイスキーなど、複雑な味で甘くないお酒を好む人にも刺さるようなアプローチをしていきたかったんです。

普段梅酒をあまり選ばない人も、まずは飲み比べてもらって、梅酒にもこんなに味の幅広さや選択肢があるんだ! と感じてもらえると嬉しいですね」

ナンバリングは度数順。写真を撮りながら「ボトルがシンプルでおしゃれ!」「それぞれどんな味がするんだろう」と期待を膨らませるハナコラボメンバーたち。

鬼才、田中俊大シェフが提案する梅酒とスイーツの贅沢ペアリング

今回は10種類ある〈みなべクラフト梅酒〉の中から4種類をセレクトし、普段は日本茶とのペアリングを提供している〈VERT〉の田中シェフに、今回は特別に梅酒とスイーツペアリングコースを提供してもらいました。

今回訪れたのは…
VERT
VERT

神楽坂の路地裏に佇む、日本茶とデザートのペアリングコース専門店。10品9杯(変動あり)で構成された、日本茶と発酵フルーツを織り交ぜた「茶湊流水」をはじめ、ここでしか味わえない特別なペアリングコースが楽しめる。

日本茶も梅酒も同じ日本生まれなので、自然と通ずる部分がありました」と田中シェフ。

田中シェフも、発酵のスターターとして梅酒にフルーツを漬けているそう。

「お茶と同様に、梅酒にもテイストの違いが幅広くて出ていて純粋に面白いなと思いました。今回は《CRAFT UMESHU SELECTION》の中でも、本来の梅酒との想像とかけ離れているような一番特徴の出ているものを選びました。

お客さんがシンプルに“この組み合わせ、合うね!”“香りが膨らむね!”とストレスなく発見できるよう、梅酒が主役というのをぶらさず、その良さを引き出したコースになっています」

初めはそのまま梅酒を一口飲んで、味わいを確認。それからペアリングのデザートを食べてみて、と田中シェフ。ライブキッチンでカウンター越しに作る様子も見ることができる。

①No.2×シルバーベルのブラン・マンジェ

熟成した泡盛古酒をベースに黒糖、荒ごしの果肉を使った「No.2」は、泡盛の特徴的な香りの厚みが特徴的。そこに合わせるのは、酸味のあるシルバーベル(洋梨)と、辛みのあるオリーブオイルでアクセントをつけたブラン・マンジェです。

本来は砂糖や洋酒などで風味づけした牛乳をゼラチンで固めるフランスの冷菓。田中シェフが作るブラン・マンジェとは…?

「梅酒の甘さがしっかりある分、ブラン・マンジェには砂糖を使わず、食べて飲んでひとつのデザートになるイメージにしました。

使用するのは、冷凍させた十勝産オーガニック牛乳。凍眠の急速液体冷凍技術により、牧場で飲むような搾りたてのおいしさのまま長期保存を可能にしたもので、冷凍庫で熟成させると、その期間によって味わいの変化が楽しめるんです。その甘みが梅酒の良さを出すポイントになっています。上からかけたオリーブオイルのトロッとした口当たりも、梅酒とのマリアージュとして楽しめるはず」

果肉感のある「No.2」はしっかり目の甘さで、濃厚!
甘みが増すよう少しだけ加えた塩は、十勝〈井上牧場〉で実際に牛に食べさせているものと同じ(!)
運ばれてきた瞬間から「No.2」の香りとデザートの美しさにうっとり。ブラン・マンジェの濃い味わいにオリーブオイルとの組み合わせ、塩のしゃりしゃり感も面白い!と感想が止まらない様子。

②No.5×いちごと柑橘の羊羹

〈VERT〉のシグネチャーでもある、旬の果物を使った羊羹。この日は東京産いちご〈ほしうらら〉と柑橘〈阿波すず香〉を使った一皿です。

ゆずの皮で香りを加えた、京都〈御室和菓子 いと達〉特注の白あんをベースに、阿波すず香の果汁と皮、ほしうららを重ねた羊羹。
断面の美しさもさることながら、「食べるところによって色々な味の層が楽しめそう」とワクワク感も募る。

羊羹の甘みを穏やかに切ってくれるのは、砂糖の代わりにはちみつで梅のエッセンスを抽出した「No.5」。梅酒に使う何百kgという梅を、全て香りを嗅いで選別しているというこだわり抜かれた原料で作られたクラフト梅酒です。

「さらに、本来梅酒は半年漬けるのですが、「No.5」はわずか3週間のみ。漬け込む期間が短い分、キリッとフレッシュな仕上がりになっています」(高田さん)

醸造アルコール×はちみつの梅酒「No.5」。クリアな味わいとはちみつのマイルドな甘さは、優しくてバランスが良い。

③No.9×紅八朔とサンルージュのアイスクリーム

高田さん自身が「こんな梅酒があったら…」を体現するために2年半かけて作ったという「No.9」《Yii》は、世界初のジンベースに甜菜糖を組み合わせた〈みなべクラフト梅酒〉の代表格。

甜菜糖は砂糖の1/4の量で糖度を抑え、代わりに南高梅を倍近く入れているそう。ジンならではのスパイシーさやハーブっぽさに梅の香りと味わいが複雑に絡み合い、最後はスッと抜けるようなまとまり方が楽しめます。

「飲み口が良いのですが、アルコール度数は26度と高いので注意してください!」と高田さん。その言葉通り、少し飲んだだけで前の2種類とは違う度数の高さに驚き!

個性が際立つジンベースの梅酒からインスピレーションを受けた田中シェフは、苦味を楽しむデザートとしてアイスクリームに落とし込むことに。

アフォガードのように梅酒をアイスクリームにかけて食べるとおいしいのでは、と考案した一皿です。僕にとっては、ジンは苦味にあたります。

もったりとしたアイスクリームには、お茶が穫れる最南端・徳之島の緑茶「サンルージュ」を茶葉ごと使用。赤紫色の新芽が特徴的で、苦味をしっかり感じられる。器は福村龍太さんの作品。

《Yii》は、その苦味の香りが混ざり合って育った清涼感のある印象でした。一番下に仕込ませた紅八朔(※1)と、アイスに使用したサンルージュ(※2)、そして梅酒のジン、3つの苦味を感じてみてください」

※1:べにはっさく。通常の八朔に比べて果皮の赤みが強い。
※2:新芽中のアントシアニン含量が高いお茶の品種。

④No.10×クリーミー抹茶ラテ

ペアリングコース最後のメニューは、ウイスキーベースの「No.10」を使った、温かくて濃厚な抹茶ラテ。ウイスキー好きにも虜になるようなスモーキー感がある梅酒には、同じく火の香りを纏う抹茶を贅沢に合わせます。

「高田さんにも協力いただいて、試飲を重ねながら梅酒と抹茶ラテの良い塩梅を模索しました。最後に自家製の梅酵素シロップで甘さを調整して、口当たりが良く最後まで楽しめるバランスを整えています」(田中さん)

口菓子には、苺のヘタをりんごのビネガーに漬け込んだシロップに月桃を使った琥珀糖を。

「他の梅酒も気になる…」というリクエストに応えて、コースの合間にはペアリングの4種以外もいただけることに。泡盛ベースに南高梅、露茜、すももうめをブレンドしたフルーティーな味わいの「No.4」や、梅リキュールのようなドライな酸味が癖になる「No.8」などの飲み比べも楽しみました。

「皆さんお気に入りの梅酒は見つけられたでしょうか? ご自宅で楽しむときは、まず香りとバランスが一番良い常温かつストレートで飲んでいただくのがおすすめ。炭酸などで割る場合は、なるべく原酒に近いまま梅の香りが飛ばない1:1が理想です。是非試してみてください」(高田さん)

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photo_Hikari Koki text_Ami Hanashima

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