“おいしい”のその先を求めて。Meet the Chef 和牛の寿司でコースがスタート!? 名古屋の隠れ家フレンチレストラン〈ルボ飯〉
ジュワッと体の隅々に広がる幸せ。本当においしい料理を口にした時にだけ味わえるこの感覚は、けっして価格や食材の良し悪しだけではなく、作り手が歩んできたヒストリーや、その中で醸成されてきた料理への想いが生み出しうるもの。様々な視点から“おいしいをデザインする”星子莉奈さんが、“おいしい”の先を求めて、極上の料理と作り手の素顔に迫ります。今回は名古屋のフレンチレストラン〈ルボ飯〉にお邪魔しました。
路地裏に佇む、フレンチレストランで過ごす贅沢な時間
今回は連載初の名古屋取材へ。桜の名所としてよく知られている鶴舞駅から徒歩7分、路地裏にひっそりと佇む〈ルボ飯〉はご夫婦で営まれている小さなフレンチレストラン。お話を伺ったオーナーの伊藤シェフは料理だけでなくサービスも経験した稀有な経歴をお持ちで、その歩みを感じさせるプレゼンとお料理でゲストをもてなしています。
元々現在のお店から徒歩3分の場所で〈ビストロルボル〉というフレンチビストロのお店を営んでいたという伊藤シェフ。「前身のお店はフレンチビストロで、本場を思わせる豪快な料理をプリフィックスで愉しんでいただくスタイルでした。僕自身よく食べる方なので、ポーションが少なめだと残念な気持ちになってしまうことが多くて。だから大食いな自分でも納得のいくボリュームある一皿を良心的な価格で提供したかったんです」。
ビストロブームも追い風となり、お店は毎日満席状態。ビブグルマンも獲得し、まさに順風満帆だった頃に閉店を決めたと言います。
「お店と共に歳を重ねてくれた常連さんが、昔のように量を食べられなくなってしまい、このままだと大切なお客さま達が離れていってしまう気がしたんです。それで場所を移転して、多彩な料理を少しづつ食べられるおまかせコースに挑戦することにしました」。
クラシックなフランス料理とは一線を画す、予測不可能な料理の数々
和食やイタリアンから連想し、フレンチ風に落とし込むのが得意な伊藤シェフ。例えば、コースのはじめに必ず登場する和牛のお寿司。フレンチ寿司と名付けるにふさわしいこちらの一品は、黒毛和牛の内もも肉の下に自家製のシャリアピンソースが敷かれ、その下に黒米を混ぜこんだ酢飯が潜んでいます。
細かくきれいなサシが入ったとろける食感のお肉と甘酸っぱく存在感のあるシャリアピンソースがベストマッチ。食べ終わった瞬間、美味しい喜びと一口で終わってしまう名残惜しさが同時に押し寄せる憎い逸品です。
二品目はホテルイカ×菜の花×酢味噌という和のキーワードを組み合わせながらも、ミルクプリンを主体に洋風に仕立てた冷菜。
プリンには菜の花と牛乳の仲人としてカブのピューレが潜んでおり、その上には旬のスナップエンドウやウドのギリシャ風マリネが盛り付けられています。春爛漫な一品の主役のように見えるホタルイカは、じつはプリンのソースのような役割を果たし、カブの甘みや菜の花の苦味とバランスよく調和します。
メインは三重県産黒毛和牛のイチボ。添えられているのはズッキーニを器にしたグラタン、
カブのバターソテー、椎茸の日本酒蒸しなど、完全に付け合わせのレベルを超越しています。
食材は岐阜のビタミン大根や愛知県のカラー人参、そして赤ワインベースの特製ソースには愛知県の赤味噌が用いられ、シェフの説明を伺いながら食すことで、東海食材の魅力を体感することができるのです。
シェフ×サービスマンの二刀流で築いたキャリア
幼い頃から料理が好きで、小学校の卒業文集には“料理人になる”と綴っていた伊藤シェフ。フランス文化への強い憧れを持ち続け、大学ではフランス文学を専攻。好きを突き詰めて必然とフランス料理の道へ。
3年間東京のビストロで経験を積んだ後はついに単身フランスへ。飛び込みで様々な地方のレストランを周って経験を積んだと言います。その後、元々勤めていたお店に戻り2年間料理人として働きながらも、休日は知り合いのツテを使って色んなレストランでサービスの研修をさせてもらっていたんだとか。
「当時ものすごくカッコいいサービスマンに出会ってしまい、陶酔してしまったんです。それがきっかけとなってサービスのお仕事にも興味を持つようになりました」
その後は名古屋に戻り、サービスマンとして仕事を続け、ソムリエ資格を取得。その多彩な経験が、ルボ飯での食体験にも大きく反映されています。
「うちではコースを提供するのに4時間ほどいただいています。コロナ禍が明けた頃、久しぶりの外食で気の知れた知人や大切な人と食事を楽しむお客さまの姿を見て、改めて僕たちは料理ではなく“外で美味しいご飯を楽しむ”という時間を買ってもらっているんだと感じたんです。
だから料理については手間暇かけたものを、それをひとつひとつ丁寧に説明し、ゆっくりとお食事を楽しんでいって欲しいと思います。そしてその時間が、お客さまにとって豊かな時間になるようにと願っています」
食べ手を深く想う伊藤シェフのお料理は温かみがあって、なんだかとても優しくて、抜群においしい。そう感じさせるのは料理の味だけではなく、おいしい体験を生み出すための見えない努力が積み重なっているから。名古屋でとっておきのレストランをお探しの方、ぜひ伊藤ワールドを体感しにお店へ訪れてみてくださいね。
INFORMATION
今回うかがったお店:ルボ飯
場所:〒460-0012 名古屋市中区千代田2-8-17グリーンハイツ鶴舞公園A号室
営業時間:【ランチ】12:00〜15:30(1日1組限定の貸切営業のみ。内容はディナーコースと同じ)【ディナー】18:00-23:00(最大5組までの入店で、おまかせコースのみ)
定休日:毎週月曜日、火曜日のランチ
TEL:052-253-5243
公式HP:https://lebomeshi.com