関西編 それぞれの形でスピリットを受け継ぐ、新顔喫茶へ、ようこそ。関西編
昭和を感じる佇まいや前店主の精神を大切に継承し、次世代が新たに発信する喫茶店が増えている。コーヒーの味や喫茶メニューも密かに進化。“新解釈”の喫茶店が今、最高に居心地がいい。
ぱるふぁん[神戸]
唯一無二の雰囲気に魅せられた姉妹が引き継ぐ円の空間。
外観、アーチを描く壁と天井、鏡、照明。全てが円で構成された空間は、1976年創業当時の姿を今に残す。
「丸のモチーフが大好きだった先代のオーナーが、建築家の天藤久雄さんに依頼して作ったもの。ほかにない唯一無二の雰囲気に感動して、たちまち虜になりました」と店主の増田比呂さんは振り返る。
ところが姉の宮山友里さんと共に通い始めて6年が過ぎた頃、残念ながら店は閉店してしまう。
「テナントを募集しているのを知ったものの借り手は決まった後。とはいえ、この空間を愛する想いを伝えたくて、オーナーに取り次いでもらったところ、私たちに貸してもらえることになったのです」。そのエピソードからも姉妹の熱量が伝わってくる。宮山さんは当時、別に営んでいたカフェを畳む決断をし、〈ぱるふあん〉は閉店の2週間後に新たなスタートを切ることになったのだ。空間を構成するものは当時のまま。メニューはシンプルにし、“おしゃべりは控えめに”の文字が加わった。
「私が喫茶店で好きなのは、自分と向き合う時間が手に入れられるところ。大好きな空間で、そんな時間を過ごしてもらえたら」と増田さん。2代にわたる店主の想いが凝縮する、オンリーワンの場所がここにある。
受け継いだもの
新たなエッセンス
DORSIA(ドーシア)[神戸]
偶然が重なり受け継がれたチェアと絨毯のブルーに感じる港町のノスタルジー。
建物の取り壊しで惜しまれつつ45年の歴史に幕を閉じた、神戸・花隈の喫茶〈セリナ〉。アールを描いた天井の装飾と鮮やかなブルーが印象的だった空間の、エッセンスを受け継ぐ形で継承したのが〈ドーシア〉だ。
「ちょうど喫茶店を開きたいと考えていたときに、理髪店だった今の物件を紹介されて。〈セリナ〉では同じタイミングで閉店を決めたと言われ、それならと家具を譲り受けることに」と店主は振り返る。望んでもなかなかないタイミングで、ブルーの椅子セットのほか、照明やゲーム機のテーブル、シュガー入れ、コーヒーグラインダーまでを譲り受けることになる。新しい空間に〈セリナ〉時代の一式がすっとなじむのは、かつてと同じブルーの絨毯が敷かれているから。経年によって存在感を増した椅子やテーブルが、たちまち店の雰囲気を作りあげたという。
「ブルーのクリームソーダは〈セリナ〉のメニュー。フルーツサンドはコーヒー・喫茶店研究家の柄沢和雄さんによる昭和のレシピ本をもとにしたもの」と福田さん。もともと70年代80年代が好きというだけに〈セリナ〉が放っていた空気感は大切にしつつ、アーティストによるロゴやイラストで今っぽさを加えた。懐かしさと新鮮さの入り交じる加減が絶妙。