シリーズ「大銀座老舗手帖」 秘伝だしの玉子焼が人気。人形町・老舗鶏肉専門店〈鳥忠〉の惣菜を普段使いに。
戦前より、東京随一の高級繁華街として国外でも名高い、大銀座エリア。近年は新しい商業施設が増え、街の景色や訪れる人にも変化がありますが、昔から愛され続けている老舗が、いまもなお、数多く軒を連ねています。今回は、100年以上続く老舗鶏肉専門店〈鳥忠〉が守り続ける伝統と新しい挑戦を感じさせる魅力的な品をご紹介。
普段づかいしたい店にこだわり続ける“鶏肉屋さん”のお惣菜。
江戸時代は歌舞伎小屋やお茶屋などでにぎわっていた、日本橋人形町。鶏肉専門店〈鳥忠〉が創業したのは、日本橋川に架かる現在の〝日本橋〟が完成した年。最初に店を構えたのは、現在の甘酒横丁沿いではなく明治座の近くだった。
看板商品の「玉子焼」が誕生したきっかけも、この立地と関係している。当時は卵を配達する際、もみ殻を敷いた木箱に入れていたため、どうしても割れやすかった。洋食のコックの経験があった初代が、割れた卵を使って玉子焼を作り、役者に差し入れたところ、いつしか評判に。関東の玉子焼は甘みが強く、関西はだしがきいてしょっぱいのが主流といえるが、〈鳥忠〉の玉子焼は甘じょっぱくて、だしもたっぷりな、いいとこ取り。焼きたてのふわふわとした食感は格別だけれども、一晩おいてしっとりと落ち着いた味わいも捨てがたい。この玉子焼から派生したのが、昔から変わらない秘伝だしを使った、鶏ひき肉入りの「親子焼」だ。
現在のれんを守る木き越ごし近ちか治はるさんは、板前の修業を経て5代目に。チャーシュー風の「焼鶏」や「ゆで鶏」、金曜限定販売の「レバ煮」、そして「鴨レバーペースト」などは、食べ歩きが好きで探究心旺盛な木越さんが「自分が食べたいもので、なおかつ町の人たちが喜ぶものを」と考案。あくまでも〝鶏肉屋さんが作るハイカラすぎないお惣菜〟にこだわり、普段づかいしてほしいという思いから、価格も良心的。小銭を握りしめて焼き鳥を買いに来る子どもから、定期的に玉子焼や親子焼を買い求めるお年寄りまで。町の鶏肉屋さんというスタンスを崩さないのが、愛され続ける理由なのだろう。
変わらないもの 親子焼(右)
新鮮な卵と秘伝のだしで焼くプレーンの玉子焼に、鶏ひき肉と刻んだ三つ葉を入れた、1日限定30本のスペシャルな玉子焼。“ジューシー”と“ふんわり”のバランスが絶妙。ごはんのおかずにもおつまみにもなる、しっかりめの味。1,112円
新しいもの 鴨レバーペースト(左)
鶏よりもややクセのある鴨レバーを、食べやすく仕上げたペースト。レストランで食べるような濃厚な味わいとは少々異なる、軽やかな上品さ。白ワインに合うのはもちろん、隠し味に醤油を使っているので、日本酒にもぴったり。510円
〈鳥忠〉
甘酒横丁は食べ歩きの人気スポット。ハーフサイズの玉子焼(平日のみ販売)や焼き鳥を外のベンチで食べる人も。
■東京都中央区日本橋人形町2-10-12
■03-3666-0025
■9:00~19:00(土~18:30) 日祝休
(Hanako1177号掲載/photo : Nao Shimizu text :Akane Watanuki edit : Seika Yajima)
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