おひとり様推奨!もしパワハラ上司と無人島に漂流したら…サム・ライミ節全開の下克上エンターテイメント『HELP/復讐島』の見どころ
今作がおひとり様映画におすすめな理由
予測不能な展開に翻弄される極上のサバイバル・エンターテイメント。サム・ライミ監督に期待する要素がてんこ盛りなので、血や暴力が苦手な人と行かないよう注意が必要。存分に堪能するためにも、まずは一人で身を委ねてみてはいかがだろうか。
以前に務めていた会社でのこと。部下を休ませまいと圧力をかけてくる上司がいた。有給を使って旅行に行くといえば、休み前日の夕方に次の出社日に使う会議資料を作れと命じたり(結果、資料が使われないことがほとんど)、「残業は許さない」と言いながら仕事を増やして”自発的な作業”を求めたり。一度人事に訴えたが、翌日にその上司に呼び出され「お前の考えは甘え」と言われることもあった。その度に「いつか天誅を下してやる…」と空想していたが、その頃の自分や、同じくハラスメント上司に苦しめられた経験のあるすべての人々に贈りたい映画がある。
それが1月30日(金)公開の『HELP/復讐島』だ。監督は『死霊のはらわた』(81)や『スパイダーマン』(02)シリーズなどで知られるホラー映画の巨匠、サム・ライミ。脚本は『フレディVSジェイソン』(03)などで知られるダミアン・シャノン&マーク・スウィフトのコンビによるものだが、不条理に耐える普通の人間を極限の状況に追い込み、血飛沫と笑いが盛大に吹き出すまで追い込む“ライミ節”が全開なファン待望の一作である。
コンサル企業の戦略チームで働くリンダ(レイチェル・マクアダムス)は、優秀だが人付き合いが下手でなかなかその成果を認めてもらえない。手柄はずる賢い同僚のものとなり、亡くなった前社長と約束していた昇進は、パワハラ気質な新上司ブラッドリー(ディラン・オブライエン)によって反故にされてしまう。ブラッドリーに目をつけられたリンダは皆の前で辱めを受けるが、家に帰っても彼女の癒しとなるのはペットのインコと大好きなサバイバル番組だけ。
それでも昇進を諦めないリンダに対し、ブラッドリーは彼女の左遷を密かに決定。その前に大型プロジェクトを成功させるため、2人は一緒に海外出張へと向かう。だがその道中、海の上を飛んでいた飛行機がトラブルにより墜落!唯一生き延びたリンダとブラッドリーは近くの無人島に打ち上げられる。会社では絶対的だった上司が足を怪我して無力化する一方、リンダはサバイバル番組で得た知識を活用してみるみる無人島に順応していく。極限の状況下でいつしか上司と部下の力関係は逆転していき……。

無人島を舞台にした権力闘争といえば想起するのが2022年公開のリューベン・オストルンド監督の『逆転のトライアングル』だが、本作の企画が動き出したのはそれよりも前のこと。制作段階で「『ミザリー』(90)と『キャスト・アウェイ』(00)の融合と呼ばれていた通り、社会風刺色の強い『逆転のトライアングル』よりもジャンル的、かつアクロバティックに突き抜けた純エンターテイメントな作品となっている。パワハラ上司と無人島に漂着…というシンプルなあらすじながら、目まぐるしい展開と怒涛のツイストでシーソーのように力関係が入れ替わる2人の関係は最終的にどこに向かうのかまったく予想がつかない。サバイバル・スリラーでありつつ、ロマコメの香りが漂うジャンルの綱渡りも「殴り合うのか、恋に落ちるのか——どっちだ!?」とさらに観る者の心をかき乱すことだろう。さらに言えばアクション的な要素も満載である。

不憫な主人公リンダを演じるのは『アバウト・タイム〜愛おしい時間について〜』(13)などで知られるレイチェル・マクアダムス。多彩な役を演じながらもとりわけ恋愛映画の煌びやかな印象が強い彼女だが、本作では地味で人から避けられがちな中年会社員を全身で体現する。かつて『ミーン・ガールズ』(04)で学園の女王を演じたとは思えない冴えなさに驚愕する一方、社会のしがらみから解放された無人島生活で、徐々にアマゾネスのように強く美しく変貌していく姿は実に魅力的。名コメディエンヌらしく次々と笑いを生み出しつつも、特別映像で「役者が一皮むけるのは、監督に血を浴びせられたとき」と語る通り、ライミ印の血液に塗れながらのぶっ飛んだ演技で新境地を開拓することに成功している。
そんなリンダと対峙する上司役には『メイズ・ランナー』(14)シリーズで主人公を演じたディラン・オブライエン。傲慢で冷徹で下劣な最低野郎ながら、ときに見せる可愛げのある表情と色気で年上のリンダ——ちなみにオブライエンとマクアダムスは13歳差——を翻弄するブラッドリーを好演。この俳優2人のケミストリーと演技の触れ幅が実に愉快で、舞台と人物が極端に限られる作品ながら、画的にもまったく飽きさせることなく最後まで牽引する。ノーガードで殴り合うような彼らの攻防はそれだけで十分すぎるほどに面白いが、それがライミの誇張された演出でさらに加速していくのだ。

「復讐島」というタイトルだが、本作は単なる復讐譚にとどまらない。理不尽に耐え、怒りを飲み込み、感情を押し殺してきた“普通の人間”が、社会の秩序から切り離された極限で何を解放するのかを、笑いと恐怖の境界線上で描き切るのだ。その感情むき出しのパワーゲームに巻き込まれ、観客はいつしか溜め込んでいたストレスを笑いと興奮とともに発散していることだろう。そういう意味で『HELP/復讐島』はサバイバル・スリラーの皮を被った劇薬セラピー・エンターテイメントとも言えるかもしれない。
サム・ライミ監督のフィルモグラフィの中でも屈指の娯楽性を誇る一作だが、PG12の映画としてはかなり派手めな血と暴力&嘔吐物などが盛り込まれているので、それらが苦手な人と観に行かないように注意が必要。存分に堪能するためにも、まずは一人で身を委ねてみてはいかがだろうか。
1988年、奈良県生まれのライター。主に映画の批評記事やインタビューを執筆しており、劇場プログラムやCINRA、月刊MOEなど様々な媒体に寄稿。旅行や音楽コラムも執筆するほか、トークイベントやJ-WAVE「PEOPLE’S ROASTERY」に出演するなど活動は多岐にわたる。
公開情報
2026年1月30日(金)より劇場公開
https://www.20thcenturystudios.jp/movies/fukushu-jima
© 2026 20th Century Studios. All Rights Reserved.
配給:ウォルト・ディズニー・ジャパン
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