花井悠希の朝パン日誌 吉祥寺で体験する「死者の日」。ベーカリー〈A.K Labo〉でメキシコのパン「パン・デ・ムエルト」をいただく。

LEARN 2020.11.19

「死者のパン(パン・デ・ムエルト)」を知っていますか?11月1日と2日、メキシコでは「死者の日」という祭日があり、亡くなったご先祖様や家族を楽しく弔う日があります。そこで祭壇にお供えしていただくのが「死者のパン」。それがなんと吉祥寺の〈A.K Labo〉さんでいただけると知り、早速行ってきました!

メキシコ版・お盆で食べるパン。

「A.K Labo presents DIA DE MUERTOS(死者の日)」
「A.K Labo presents DIA DE MUERTOS(死者の日)」

吉祥寺と三鷹の間辺りに位置する〈A.K Labo〉さん。この日は、死者の日に因んだお祭りイベントが開催されていて、店内は色鮮やかなお祭りムード。オアハカの死者の日をイメージしたマリーゴールド色に彩られた祭壇が作られて、ドレスや民族衣装に着飾ったガイコツの人形たちが並べられています。

実際に死者の日に何度も足を運んだ方が飾り付けを担当していらっしゃるとのことだったので、これがあの死者の日の祭壇なのか!と喜びもひとしお。というのも、私の長年の夢の一つは「いつかメキシコで死者の日に参加したい」。ずっとずっと「死者の日」に憧れを抱いていたのです。昔から可愛いガイコツ(not怖いの)にどうしても惹かれる節があり、毎年ハロウィンの飾り付けにもウキウキするし、キャラクター化されたガイコツとは友達になれそうな気もするし(病気)、もちろん『ナイトメアー・ビフォア・クリスマス』は大好きだし、色鮮やかなお洋服を着たガイコツが並びマリーゴールド色に包まれる死者の日は、夢にまで見るほど憧れの世界。ディズニー映画『リメンバー・ミー』を観てからというもの、さらに思いは強くなっていました。その死者の日に食べられる「死者のパン」が日本でもいただけるなんて感無量です。

小麦粉で作られた顔に砂糖細工で色鮮やかに彩られ、一緒に焼きこまれたパンはどの角度から撮ってもフォトジェニックで、ひとしきり撮影大会が終わるとうーんと悩んでしまいました。一体、一口目をどこからいったらいいものか。半分にカットしてみたら少し勇気が湧いて、お腹からいかせていただきました(躊躇いはどこへ?)。そのまま食べるか温めるかも悩みどころでしたが、軽くトーストしてみることに。さっくりと歯切れのよい表面の生地は、トーストするとさらにサックサクさが増して、脳へと軽快に香ばしい音が響きます。対する内側は繊細でふかふかのクッション。

吉祥寺 A.K Labo

きっと子供も好きなほのかな甘さを感じるブリオッシュっぽい生地は、とても実直でまっすぐな味わいです。そんなシンプルなおいしさに、文字となっている飾り付けの砂糖装飾やゴマなどはこちらの予想以上に味に変化をつけていて、一口一口違う味が広がりワクワクしてしまいます。特にごまの威力なんかはすごい!ごまパンかと思うほど高らかにごまらしい香り高さを主張します。シンプルなパンならバターとかいるかなーなんて思っていたけれどこのトッピングたちのおかげで全く必要ありません!と言っておきながらバター有りは有りでおいしかったです(裏切り者)。

ちなみにお顔まで小麦粉で作られていました!ガリっと硬めのドライさと、ふっと香る小麦の香ばしさはグリッシーニに似ています。

お話によると、メキシコ全土で食べられているのはこちらのような丸型のタイプなのだそう。調べてみると、もっとシンプルで骨型の装飾がのったものがメジャーなようです。丸い方はさらに中がふっかふか。シフォンケーキにも負けないキメの細かい生地は、口へと運ぶ前に、唇に当てているだけでも気持ちがいいので、しばらくそうしておきたいくらいです(怪しい光景)。

吉祥寺 A.K Labo

そんな身を委ねたくなる包容力と全幅の信頼を寄せられる柔らかさと優しさ、それに細やかさがこんなに可愛い見た目に詰まっています。甘さもヴェールをかけたように上品な立ち上がりでおしとやか。隅々まで穏やかな甘さがゆっくりと満ちていくよう。

吉祥寺 A.K Labo

夢がありますよね。ご先祖様や家族などの故人が帰ってきて思い出に浸る祭日に、こんな優しいパンを食べたら泣けちゃうな。ちなみにお話を聞いた方曰く、こんなにおいしい「死者のパン」は現地にはないそうですが…。祭壇に飾られているからカッチカチなんだとか。

そのほかのパンたちもご紹介。

「死者のパン」がお店に並ぶのはこのイベントのときだけなので、せっかくだから〈A.K Labo〉さんで普段買えるパンなどもご紹介します。

一口かじればその軽快な音に心躍ります。ザックザクで、バターがしみしみです。たっぷりの空気と一緒に何層にも折り重なった「クロワッサン」は、ザックザク食感で軽くって、最後の最後にやっと少しだけねちっと残ります。だけどその味わいは軽さの真反対。齧り付くその唇の脇からバターのエキスが滴るのではと錯覚するほど、ジューシー。どっしりとコクと油分が腰を据えているのに、この軽い食感だからヘビーになりすぎずあくまでもライトに味わわせてくれます。軽やかにリッチ、いいとこ取りな子です。

生ケーキから焼菓子までお菓子も充実しているお店なので、朝パンにもなりそうなタルトをチョイス。季節に合わせて変わるタルトはむらさきいも。下のタルトと同じ速度で、ほこっとほどけるむらさき芋部分。さつま芋のネットリ感とは異なるむらさき芋独特のあっさりした口あたりから、奥ゆかしい深みと甘さが引き出されています。表面のヒヤリとしたゼリー部分が酸味と甘みでこのほっこりとしたテイストをフランス菓子らしく昇華させているのも見事です。そしてタルトの角っこ部分がごちそうすぎる!サラサラサラと繊細に口の中で解けて、解けるほどにバターがふんだんに花開き、その余韻の中で溶けていきます。最後にこの部分を残したから、いつまで経っても口にキミの甘やかな残り香がいて、いつまでも忘れられないよ(重症)。

死者の日が近づくと、メキシコ中のパン屋さんで売られる「パン・デ・ムエルト」。いつかメキシコで死者のパン巡りをしてみたいなぁと夢が膨らみます。また来年も死者の日イベントは開催されるかもしれないので皆様もチェックしてみてくださいね。ディズニー映画『リメンバー・ミー』は結構忠実にオアハカでの死者の日が再現されているとのこと。日本人のお盆の感覚とは彩りも雰囲気も異なりますが、故人に想いを馳せるその習慣はどこか近い気がした死者の日のお話。涙なしには見られない映画です。とりあえず今日はもう一度『リメンバー・ミー』を観直そうっと。

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