夏子の大冒険 〜美術館をめぐる旅〜 魂を感じる朝倉彫塑館へ。「窓と庭と畳と猫」編

LEARN 2022.05.04

今回の大冒険の舞台は〈朝倉彫塑(ちょうそ)館〉。彫刻家である朝倉文夫さんの自宅兼アトリエだった建物が、美術館として公開されています。閑静な住宅街にある立派な邸宅と館内にあるたくさんの作品からは、朝倉さんの生活を垣間見ることが出来ました。

得体の知れない気配。

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彫刻を見るのが好きです。ひとりで彫刻や作品に囲まれていると、必ず気配を感じます。私に霊感はありませんが、それでも“見られている”と感じるのです。作品が発する得体の知れないその気配は、きっと作者が彫りながら、削りながら、込めた「魂」なんだと思います。こんなたくさんの魂を生み出すのはどんな人なんだろう。想像するだけでワクワクします。

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「窓と庭と畳と猫」

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5月に入ると私は少しホッとする。みんなが「五月病が…」と言い出す頃、不思議と私は元気になり始めるのである。梅雨に入って鬱々とした天気が始まる頃には、私はひとり、ケロッとしている。

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代わりに、3月・4月はダメなのだ。出会いと別れの季節、変化の高揚感に包まれたみんなを尻目に、ひとり世界に置いていかれるような気分になる。占い的にもそういうタチらしいので、仕方がないと諦めることにした。桜は優雅よりも狂気に見えている。

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まず大抵、食欲が落ち始める。お腹が空いてるはずなのに、スーパーに入っても何も買わずに出てきてしまう。さらに、いつもは本を5冊くらい併読しているんだけど、これもまるで読めなくなってしまう。私にとって、春というのは気力を奪っていく季節なのだ。

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そんな危機が訪れたら、私は決まってピアノの演奏会へと行くことにしている。ピアノというのが肝心。活字はもちろん、映画も音楽も響かなくなった心にでも、ピアノの音だけは沁みてくるのだ。そこで大号泣をする。客席でひとり、マスクの中に水溜りを作りながらおろおろ泣いている成人女性は、ちょっと怖い。

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毎年、こんなことをしながら、どうにかこうにか春を乗り越えている。ひとり上手になりすぎるのは良くない気もするけど自分の機嫌を取れるのは自分しかいない。

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朝倉彫塑館に入った時、“先輩” を見つけた! と思った。そこで仕事をし、生活していた家主が必要とした窓があって、庭があって、畳があった。きっと猫もいた。そのひとつひとつが切実で、アトリエに並ぶ作品を創ることの苦労を知った。朝倉さんは、自分に必要なものがちゃんと分かっている方だったんだと思う。

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きっと誰もが何かを擦り減らして、それを何かで埋めながら生きている。今のところ春の私は、すべてピアノが埋めてくれているんだけど。

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今回訪れたのは…〈朝倉彫塑館〉

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たくさんの作品を鑑賞できるのはもちろんのこと、朝倉さんご自身が設計し、国の有形文化財に登録されている邸宅の中をめぐれるのも、醍醐味のひとつ。館の中央に位置する「五典の池」がなんとも美しく、錦鯉が泳ぐ清らかな水を眺めていると、心身が浄化されていくようでした。平日の朝、来館者の少ない時間帯に訪れるのがおすすめです。

〈朝倉彫塑館〉

■東京都台東区谷中7-18-10
■03-3821-4549
■9:30~16:30(受付締切16:00)
■月木休(祝の場合は翌日)
■500円

※ 入館時は靴下を着用ください。

photo : Yumi Hosomi

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