伝えたかった、言葉たち。 山崎怜奈の「言葉のおすそわけ」第32回

LEARN 2022.12.02

乃木坂46を卒業し、ラジオパーソナリティ、タレント、そして、ひとりの大人として新たな一歩を踏み出した山崎怜奈さんが、心にあたためていた小さな気づきや、覚えておきたいこと、ラジオでは伝えきれなかったエピソードなどを自由に綴ります。

(photo : Chihiro Tagata styling : Chie Hosonuma hair&make : Ayumi Nakaitsu)

「新幹線」

日々の中で感じたモヤモヤは、ポイント制にしている。それが貯まると好きなものを買って、ワクワクしながら家に帰ってくる。そうすると、不快なことがあっても最後は「ポイントありがとう!」というポジティブな気持ちになれる。ポイントと換金するお金を「心の防衛費」と呼び、5〜6ポイントで満点判定、不快レベルによっては即ご褒美を買っている。

そろそろ貯まってきたかなと思ったところで私がよく買うのは、新幹線のチケット。どこに行くかではなく、あの速い乗り物で、東京から物理的に離れるのが大事。それに、新幹線に乗ってどんどん景色が変わっていくのを眺めていると、東京で感じていたストレスや圧みたいなものが弱まる気がする。新幹線の中だと異様に原稿が進む。出演する番組のアンケートに回答する手も、仕事用に読んでいる本のページをめくる手も進むので、遠征で家を空ける時には必ずパソコンか本を持ったか確認している。最近は名古屋や大阪での仕事が増え、毎週末いろんな県を訪れているのだが、今のところ東京〜名古屋間の1時間半が一番ちょうどいい。ちょっと頭の回転が鈍くなってくると、私は新幹線の窓からいろんな町を見て「もしもここに住んだらごっこ」をよくやる。有意義かは別として、想像がふくらんで楽しい。車窓から雨にけむる景色を眺めながら、車内販売で買ったスジャータの硬すぎるアイスをつっつく。

車内では、ほかの人がどう過ごしているのか丸見えなのに、誰も人目を気にせず、まるで個室にいるかのように気ままに過ごしている。パタリと倒した薄い小さなテーブルのひとつひとつにそれぞれの世界が広がっているのを見るとワクワクする。おじさんが食べているマックのポテトの強烈な匂いも気にはなるけれど、ジャンクな食べ物でしか癒せない心理状態ってあるよなあと共鳴してしまう。通路を挟んで反対側の席のお姉さんが缶ビールのプルタブをプシュッと鳴らしているところに遭遇できた日には、「ああ、いいもの見たな」とうれしくなる。マックのポテトでしか埋められない心の穴が空いてしまったり、飲まないとやってられないほどの疲労感が押し寄せてきたりするのは、分からなくもない。私も551の肉まんを買って帰る時は、心の中で謝りつつも、「同じ車両に乗る人たちに怒られても構わないぞ!」という強者モードのメンタルになっている。

ところで、新幹線の乗車中に仕事や読書がめちゃくちゃはかどるのと、車内Wi-Fiを含む通信環境がポンコツなのは、因果関係があるのだろうか。トンネルに入るとめっぽう弱い。決して文句を言っているつもりはないし、因果関係があったとしても新幹線好きとして認めたくない。そもそも、2,000kmの距離を10分おきに時間通り走る電車がある国なんて、世界中で日本だけなのだ。時間通りに電車が来る、ほとんど停電がない、みんな改札を並んで通る。これらがもたらす経済効果は凄まじい。お金をかければ駅や車両は整備できるかもしれないが、それを支え、上手く動かせる人が育つには時間がかかる。鉄道関係に携わるすべての皆様に心から感謝しております。いつも本当にありがとうございます。

などと考えていたら目的地に着きました。さて、今日もお仕事頑張ります。

山崎怜奈の「言葉のおすそわけ」
ダウンコート 143,000円(ライト|ブライト ライト■03-5486-0070)/タートルネック7,700円、スカート 18,700円(共にヘリンドットサイ|バロックジャパンリミテッド■03-6730-9191)/黒ブーツ 49,500円(セレナテラ|ホールバイセレナテラ■03-6419-7732)/ハートネックレス 12,000円(ヨア http://yoaa-official.com )

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