今のあなたにピッタリなのは? 芸人・小川暖奈さんのために選んだ一冊とは/木村綾子の『あなたに効く本、処方します。』

LEARN 2020.10.07

さまざまな業界で活躍する「働く女性」に、今のその人に寄り添う一冊を処方していくこちらの連載。今回は、芸人らしからぬ端正な顔立ちとミステリアスなオーラを纏う小川暖奈(おがわ・はるな)さんをゲストに招き、お仕事のことから知られざるプライベートまで、根掘り葉掘りと伺いました。

今回のゲストは、「スパイク」の小川暖奈さん。

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お笑いコンビ「スパイク」のボケ担当で、アイドルユニット「吉本坂46」のメンバー。川と月、そして黄昏時の空が好き。趣味は散歩で、特技は笑顔で風船を噛み割ること。先日公開された又吉直樹さんの公式YouTubeチャンネル『渦』の「ストリートビュー妄想旅行」では、ひとり距離を貯めまくっての大活躍を披露した。

YouTubeで活躍中の小川さん。芸人を目指し始めたきっかけは?

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木村綾子(以下、木村)「お久しぶりです!小川さんとは又吉直樹さんが主宰する「太宰治ナイト」でご一緒したのが出会いでしたね。でも考えてみたら、ふたりでゆっくり話すのは初めてです」
小川暖奈さん(以下、小川)「そうなんですよね!いつも大人数のところでばかりお会いしていたので、お仕事の話とかプライベートのお話ってしたことなかったです」
木村「しばらくお会いしていない間に、小川さん、YouTubeで大活躍されていて!見てますよ〜『渦』。今日は、「歩きだしたら止まらない小川」って新情報を握りしめて来ました(笑)」
小川「わ、 又吉さんの公式YouTubeチャンネル、見てくれてたんですか!Google マップ上で目的地を決めて、実際みんなが歩いた距離だけ目的地に近づける、っていうイチ企画なんですけど、私だけ毎回桁違いの数字をたたき出してしまって。又吉さんからは「中学生のサッカーに、ペレが混じってるみたいや」ってお褒めの言葉をいただきました」
木村「引いちゃうくらい極端なのにキュート!ってところに小川さんらしさが出てますよね。今の時期、旅の疑似体験ができるのも嬉しいです」

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木村「小川さんが芸人さんを目指し始めたのは、いつ頃からだったんですか?」
小川「5歳くらいの時に、テレビで『吉本新喜劇』を家族で観ていたら、祖母と母に「将来、暖奈は吉本だね~!」って言われて。なんだか私、それがすごく嬉しかったんです。「分かった!」って言って、そこから自然と意識するようになりました」
木村「なんて素直な子…!小川さんはその言葉を愚直に受け入れて、今日まで猛進されてきたんですね。今の相方さんとはどう出会ったんですか?」
小川「NSC に入って2日目くらいに「お笑いライブ見学」みたいなのがあって、同期の女子がみんなで集まって一緒に行こうって話してたんですよ。当時の私はちょっとだけ尖ってて「いや私はそういうのいいです。遊びに来てるわけじゃないし」みたいな態度を取ってたんです」
木村「今の朗らかなイメージとは真逆で、ちょっとイメージ付かないです!」
小川「まぁ、そもそも誘われてもいなかったっていう悲しい現実もあるんですけどね(笑)。で、そんな風にひとりでツンツンした態度でいたら、同じようにその輪に入れていなかったのが相方の松浦で…!彼女は前の年に歌のコースに通っていたので、初日からちょっと慣れてる感じを醸し出してて。同期より事務所の人と親しげにしてるとことかも、なんか面白かったんです」
木村「二人がバチッと目が合った瞬間が浮かびました。はぐれものの新学期“あるある”ですね(笑)」

エピソードその1「“あるある”だと思うことがズレている」

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木村「YouTubeで「スパイク」のコントを拝見しました。ネタは当時から今のシュールな感じだったんですか?」
小川「いえ、結構紆余曲折がありました。「せっかく女同士のコンビなんだから、女性にウケる題材の方がいい!」ってアドバイスを受けてネタをつくり始めるんですけど、いざ披露すると「全然違うじゃん。それ男がやるネタじゃん!」とか言われることも多くて」
木村「例えばどういうネタとかって、聞いちゃってもいいですか?」
小川「友達の彼氏と浮気をしちゃった女が、ずっと軽いテンションで友達に謝り続ける。ってのをやったときは、「なにその設定、超サイコパス!」って引かれちゃって」
木村「ナチュラルに狂ってた、と(笑)」
小川「でも、人から指摘されても、その意味がいまいち分からないんですよね。何がおかしいんだろう…」

処方した本は…『日本のヤバい女の子(はらだ有彩)』

木村「この本は、神話や古典に出てくる女性の"ヤバい"エピソードを集めた本です」
小川「わー、私、表紙からもう好きなんですけど。妖怪とかも好きなので、この「ろくろ首」の感じ、たまんないです」
木村「乙姫、かぐや姫。夫のために自害したおかめ、好きな男が約束を破ったことに怒り狂って大蛇になって襲う清姫まで…。“ヤバさ”をカテゴリーに分けて取り上げていくので、ネタ探しにもなるかもです」
小川「はるか昔からこんなにたくさんのヤバい女の子がいたんだって知れるだけでも、なんか勇気出ます!(笑)」
木村「対象を見つめるまなざしも素敵なんです。今の感覚ではちょっと信じられないような思考や行動を観察して、「ありえない」と否定的にではなく、「背景にはどんな事情があったんだろう」とか、「現代ならこういう感覚に近いのかな」とポジティブに解釈していくその姿勢は、現代の偏りや歪みを正すきっかけにもなればいいなぁなんてことも感じます」

エピソードその2「散歩が好き、黄昏れるのが好き」

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木村「ウォーキングの話に戻しますが、毎日どれくらい歩いてるんですか?」
小川「どんどん歩く距離が増えてきていて、最近は「最低10 km!」って決めて歩いています」
木村「「最低」に設定する距離じゃないですよそれ!(笑)昔から体を動かすことは好きだったんですか?」
小川「いえ、運動は一切してなくて。部活も小学校が「合唱部」、中学が「リコーダー部」で、高校が「軽音楽部」でした」
木村「リコーダー部…それまたピンポイントな部活ですね(笑) 小川さんは、外から与えられたきっかけを自分に取り込んで楽しむのが上手な方なんでしょうね。素直で柔軟で、いい意味で過剰なイメージです」
小川「自分でもびっくりしてるんです。散歩は昔から好きだったんですけど、どちらかと言うとそれも、黄昏れるのが好きだった感じですし…」
木村「黄昏…かわいい(笑)」
小川「いつも夜に歩いてるので、月を見たり川を眺めたりできるのも楽しいんです。あとは、前を歩くお婆ちゃんの後をついて行って「こんな道あるんだ」なんて発見したり」
木村「最後のはちょっとだけアウトかもしないです(笑)」

処方した本は…『東京右半分(都築響一)』

木村「この本は、足立区や荒川区、台東区、江東区、江戸川区といった東京の東の地域、いわゆる下町を舞台に、ガイド本などには絶対載らないようなディープな街の姿を紹介した一冊です。小川さんは歩きながら、その街の生きた風景や人と親しんでる印象を覚えたので、こういうリアルな生活が覗ける本でも十分、街歩きの疑似体験ができるんじゃないかなと思って」
小川「私、下町とかも好きなのでめっちゃ興味あります。わざわざ行って歩いたりすることも…!」
木村「葛西のインド人街、錦糸町のリトルバンコク、湯島の手話スナック。それから、ふんどしパブ、女装図書館、昭和キャバレー、極道ジャージにラブドール…。ぜーんぶ、著者の都築響一さんが自分の足で稼いだ情報なんですよ」
小川「好奇心も凄いし、“おもしろ”を嗅ぎつける嗅覚たるやですね」
木村「本の中で都築さんは「東京右半分」のことを、「カネがないけど、面白いことをやりたい人」に開かれた場所だとも書いていて。都心から近いけど物価も家賃も安いっていうギャップが、面白い人を呼び込んで欲望のまま好き勝手実験することを容認して、結果カオスを生んでいるんでしょうね」

エピソードその3「すごい考えちゃったりする」

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小川「私、けっこう悩みがちな性格なんです。「あの時こうすればよかった」とか「こう言えばもっとうまく伝わったんじゃないかなぁ」とか、後になってから考え込んじゃうんです。完璧主義って訳ではないんですけど、”気にしい”と言うか」
木村「それはきっと優しいからですね。あと、人が好きだからだと思いますよ。でも確かに小川さん、落ち込みやすそうです」
小川「あ、やっぱにじみ出ちゃってますか(笑)」
木村「だって、最初にお会いしたときのこともいまだに覚えていらして。今日も出会い頭に「あのときはごめんなさい」って言ってました(笑)」
小川「わー、本当にあのときは…! ライブ前の打ち合わせで、「なにか私にできることがあれば…」と思ってお茶を注ごうとしたら、ひとしずくも紙コップに入らず全こぼししてしまって。なんであんなことになったのか…今思い返しても冷や汗です」
木村「全然大丈夫だったのに、ずーっと落ち込んでましたよね。むしろ私はほっこりしましたよ。ライブ前で緊張してたので」
小川「優しい…。こんな自分も、どうにか好きになれたらいいんですけど」

処方した本は…『丸の内魔法少女ミラクリーナ(村田沙耶香)』

木村「優しさゆえに空回ってしまったり、人が好きなのに人からズレてしまったり…。その性質ゆえに、落ち込んだり生きづらさを感じることもあるかもしれないけど、小川さんは自分の人生を楽しい方向に動かすのが上手な人なんだろうなって思いました。それで浮かんだのがこの小説。世の中からかけ離れた少数派の、でも確かに存在する人間と世界の物語が4編入った短編集です」
小川「『丸の内魔法少女ミラクリーナ』って、なんですかこのワクワクするタイトルは!」
木村「このお話の主人公は、30代の丸の内OLリナ。日々降り掛かってくる無理難題やピンチを、魔法のコンパクトでミラクリーナに“変身”することで乗り切っていく物語です。大人になっても自分がヒーローになった暗示をかけたり、イマジネーションフレンドと対話したり…、妄想力を駆使して現実を生き抜く力を得ることって、ちっともおかしなことじゃなくて、そうできる人は幸福で強い人だと思うんです」
小川「ちょっと今鳥肌立ちました…。私、妄想とかもすごいするし、考えて楽しいことって小さい頃から全然変わってないんですよね。これ、私のための本かもしれないです!」
木村「他にも、好きな男性がいかにくだらない男かを知って幻滅するために彼を監禁しちゃう女性の話や、「性別禁止」の高校を舞台にした片思いの話、怒りの感情がなくなった代わりに“なもむ”っていう感情が一般化した世界で「精神のステージをあげていく交流会」に誘われる話とか、きっとどれも小川さんの好きな世界観だと思います」
小川「“なもむ”ってなんですかそれ!感性がヤバい…。今日はこの本抱きしめて帰ります!」

対談を終えて。

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対談後、『丸の内魔法少女ミラクリーナ』を購入してくれた小川さん。「おかげさまで今日ようやく自分が何者なのかが分かりました。私、ミラクリーナです…!」とおどけて笑う姿が印象的でした。そんなチャーミングな小川さんが8月よりコンビでスタートさせたYouTubeはこちらから。ぜひチェックしてみてください~!

YouTube『スパイクチャンネル』

撮影協力:〈二子玉川 蔦屋家電〉

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