食べることで心も温める。 ごはんを食べるだけじゃない食堂が話題。東京から広がる、食育の現場「こども食堂」とは?
全国の家庭や施設で開かれている「こども食堂」。はじまりは、一軒の八百屋さん。ごはんを食べるだけじゃない、「食堂」のあり方が、そこにはあります。
優しさが伝播する〝ごはん〞が結ぶ場
「こども食堂」とは、地域の人たちや自治体が低価格または無料で食事を提供する取り組み。その先駆けとなったのが、〈気まぐれ八百屋だんだん こども食堂〉の店主・近藤博子さんがはじめた週に1度の食堂だ。写真は近藤さん(中央)と今日集まったメンバー。
きっかけは2012年、知り合いだった小学校の副校長から「お母さんの具合が悪く、給食以外はバナナ1本で過ごす子がいる」という話を聞いたこと。「廃棄される食べ物が問題になるほど食べ物にあふれている日本で、そんなことが起きているのだと信じられませんでした。食べることくらい地域で支えられないか?とはじまったのがこの食堂」と近藤さん。その結果、同じ思いを持つ人たちを後押しした。いまやこども食堂は全国で2000軒以上におよぶ。切り盛りするのはボランティアの人たち。
そうして開店した〈気まぐれ八百屋だんだん こども食堂〉は、子供から大人まで誰でも食事できる。大人は500円、子供はワンコインで。「子供が有料なのは反発もありました。でも無料にすればそれが当たり前になってしまう。ここは子供も気軽に来られる〝町の食堂〞。お金を払って食事をする体験は必要だなと」。本日のお膳には、フルーツポンチも!
夕方、店からは〝トントントン〞と野菜を切る音に、ふんわりとおいしそうな匂いが。やがて子供たちがやってきて、「こんにちは」と暖簾をくぐっていく。地元の大人も加わり、大家族の家で団らんしているような光景に。「6年間続けるうちに、こども食堂は〝ごはん〞をツールとしたミニ社会になった」と話す。
「健康のベースは食ですからね」と近藤さん。元居酒屋だった店舗は昨年末にリフォーム。0歳から80歳近い人までが集まるので、宿題や子育ての相談などお互いに頼れて、悩みを話せる環境ができたのだと思います。子供にとって関わる人や食べるものはすごく大事だから、温かな空気をいっぱい吸ってほしい。〝ごはん〞が心をほぐして、ぽろっと本音が出ることも。
八百屋や食堂で使う野菜は宮崎県の農家から。ほっとするダシの香りや、温かいごはんと頼れる大人に囲まれる安心感。そんな家庭の心地よさをここで伝えようとしているのだ。「理想は隣のおばちゃんが近くの子にごはんを食べさせる地域」と言う。
毎週木曜に開店。ほかの日は場所を貸し、寄席やワンコイン塾などを開催。「昔は当たり前でしたが、いまはそうして育つ子が減りました。だから、この時代に合った人との交わりの場を作っていけたらいいな」〈気まぐれ八百屋だんだん こども食堂〉は、〝ごはん〞が結ぶ温かな空気を、五感で伝えゆく場所。その温もりはきっと、受け継がれていく。
■近藤博子
こんどう・ひろこ/島根県出身。2008年に歯科衛生士として勤める傍ら、知人の紹介で不定期の八百屋を開始。12年からスタートしたこども食堂が全国に広まり、第47回「社会貢献者表彰」を受ける。
(Hanako1156号掲載:photo : Kenya Abe text : Wako Kanashiro)