気をつけたい食材とは? 乳児ボツリヌス症はハチミツだけが原因じゃない?
2017年、ハチミツの摂取が原因とされる乳児ボツリヌス症による死亡事例があったことはご存じですか?
このニュースをきっかけに、改めて1歳未満の乳児にハチミツを与えてはいけないことが周知されることとなりました。今では育児中の母親だけでなく、その家族や周りの人々にも認識が広まっているようです。
一方で、乳児ボツリヌス症の原因となる食品はハチミツ以外にもあるということは以外と知られていないようです。
そこで今回は、改めて乳児ボツリヌス症とは何かを確認し、そしてハチミツ以外にも気をつけたい食品についてのお話しをします。
「乳児ボツリヌス症」と「ボツリヌス食中毒」は違う!
ボツリヌス症は「ボツリヌス食中毒」と「乳児ボツリヌス症」などに分類されます。
「ボツリヌス食中毒」は、食品中でボツリヌス菌が増えたときに作られた毒素を食品とともに摂取したことにより発症する食中毒です。
食品を食べた後、8~36時間で嘔吐や下痢、視力障害や言語障害などの神経麻痺症状が出るのが特徴で、重篤な場合は死に至ることがあります。
一方、「乳児ボツリヌス症」は1歳未満の乳児に特有の疾病で、食品などを介して口から体内に入ったボツリヌス菌の芽胞(がほう)が乳児の腸管内で発芽・増殖し、その時に作られる毒素により発症します。
芽胞とは、生存に適さない環境になったときに形成する耐久性の高い特殊な細胞構造のことで、分かりやすく言うと、熱やアルコールなどに強い固い殻に閉じこもった種子のようなものです。増殖に適した環境になると再び増え始めて毒素を出してしまうやっかいものです。
大人の場合はボツリヌス菌の芽胞が体内に入っても他の腸内細菌との競争に負けて毒素を作るには至りませんが、乳児の場合は腸内細菌の環境が整っておらず、ボツリヌス菌が増えて毒素を作ってしまうことがあります。
症状は、便秘が数日間続き、全身の筋力低下、脱力状態、ほ乳力の低下、泣き声が小さくなる、顔面が無表情で首のすわりが悪くなるといった症状を引き起こします。
つまり、原因菌は同じでも、「ボツリヌス食中毒」は毒素のある食品を食べた場合に起こる食中毒なのに対して、「乳児ボツリヌス症」は乳児特有の疾病で、体内に入ったボツリヌス菌の芽胞が腸管内で増殖し毒素を出すことにより発症する異なる疾病なのです。
乳児ボツリヌス症の原因食品
乳児ボツリヌス症の原因食品として最も知られているのは、ハチミツです。
ボツリヌス菌は土壌や河川などに広く存在する菌で、ハチミツは土壌に生えている植物の花粉を運ぶミツバチが採取するので、芽胞が混入している危険性が非常に高いのです。
しかし、原因となりうる食品はハチミツだけではありません。
国立感染症研究所(※1)によると、ボツリヌス菌の芽胞に汚染されている可能性のある食品としてハチミツ以外に、「コーンシロップ、野菜ジュースなど」と明記されています。
また、食品安全委員会(※2)によると、「自家製野菜スープ、井戸水、ベビーフード、コーンシロップ、缶詰、ハウスダストなど」もボツリヌス菌の芽胞に汚染されている可能性のある媒介物としてあげています。
どちらも、「など」と記載しているのは、ボツリヌス菌は土壌や河川などの自然界に広く分布している細菌で、野菜や果物を始め様々な食品がボツリヌス菌に汚染されている可能性があり、他の食品でもリスクはありうるからだと思われます。
様々な食品にリスクがあるとは言え、リスクの高い食品を避けて予防をすることが大切です。
乳児ボツリヌス症の予防策
まず大切なことは、乳児ボツリヌス症の予防のためには、ボツリヌス菌の芽胞に汚染されている可能性の高い以下の食品を1歳未満のうちは与えないことです。
・ハチミツ、及びハチミツを含む飲料やお菓子類
・黒糖、コーンシロップ、水あめなどの完全に殺菌の施されていない天然甘味料
・井戸水
また、離乳食に使用する野菜や果物は新鮮なものを使用し、使用前によく洗浄して十分に加熱することも大切です。
まとめ
乳児にハチミツを与えてはいけないということは周知されてきましたが、ハチミツ以外にも原因となる食品はあり、またハウスダストなどの環境が原因となることもありうるため、リスクをゼロにすることはできません。
だからこそ、リスクの高い食品を与えない事や、野菜や果物の洗浄や加熱といった予防をしっかりと行う事が大切です。
また、赤ちゃんの様子を日頃からよく観察して、少しでも気になる症状がある場合には早めに病院を受診しましょう。
※1 国立感染症研究所「乳児ボツリヌス症のお話し」
http://idsc.nih.go.jp/idwr/kanja/idwr/99-47widwr.pdf
※2 食品安全委員会ファクトシート「ボツリヌス症」
https://www.fsc.go.jp/sonota/factsheets/10botulism.pdf