学芸員ラジオDJ・DJAIKO62さんがおすすめする、今見ておくべきアートとは? 〜今度はどの美術館へ?アートのいろは〜「ギュスターヴ・モロー展 サロメと宿命の女たち」
ラジオ番組で美術展を紹介するうちに美術館巡りの面白さに目覚めたというDJAIKO62さん。コラム連載第14回は〈パナソニック汐留美術館〉で開催中の「ギュスターヴ・モロー展 サロメと宿命の女たち」をご紹介します。女性たちが背負った宿命を描き出したフランスの画家ギュスターヴ・モロー、身近な女性とのエピソードも交えその素顔にもせまる特別展です。
フランス・パリの〈ギュスターヴ・モロー美術館〉から約70点が来日!
〈ギュスターヴ・モロー美術館〉からまとまった点数が来日するのは約14年ぶりのこと。今回は特に印象に残った作品と見どころをご紹介します。
今回の目玉は何といってもこちら、1876年のサロンのためにに描かれたとされる《出現》(1876年頃)です。踊りの褒美として洗礼者ヨハネの首をリクエストしたというサロメ。指さす先にはヨハネの首が光を放ち対峙、目をカッと見開き、サロメを凝視していますね。このヨハネの首はサロメにだけ見える幻影で、所望したものが手に入るという未来を暗示しています。描きこまれた建築や装飾は時代や地域も様々で、その解釈や世界観はモロー独特のもの。第2章では《出現》をメインに、サロメというキャラクターに魅了され43歳ごろからじっくりと取り組んだ制作背景が中心となります。
こちらの絵は古代ローマの抒情詩「変身物語」からの一場面を描いた《エウロペの誘拐》(1868年)。エウロペに恋したユピテルは牡牛の姿になって近づき、隙を見てさらってしまいます。しかしエウロペの視線はどこか余裕があり誘拐された身でありながらユピテルを翻弄しているようにも見えます。この絵が展示されている第3章のテーマは「宿命の女たち」。男性を誘惑、翻弄し、人生を破滅させることもあるファム・ファタルをはじめ、その美しさゆえに運命が意図しない方向へ転がっていく女性たちも主人公です。物語を想像せずにはいられません。ちなみにこのピンク色の壁はギュスターヴ・モロー美術館の3、4階のアトリエの壁の色にならったものだそうです。
古代ローマ皇帝クラウディウスの3番目の皇妃メッサリーナ。ところがその私生活は奔放という一言では済まされないほど酒や色に溺れていたのだと言います。この《メッサリーナ》は水彩で描かれており、巡回の予定もない作品です。
友人を殺してしまった罰で奴隷として売られた英雄ヘラクレスと、主人となる王女オンファレの姿を描いた《ヘラクレスとオンファレ》(1856-57年)。女性による男性の支配は描かれている持ち物が交換されていることや、かしずいているのがヘラクレスなことからもうかがい知れます。
フランスで1883年に一般公開された6枚連作のタピスリー《貴婦人と一角獣》に刺激を受けたというモローは、主題として一角獣にも夢中になりました。キリスト教においては純潔の乙女のみが捕獲できる一角獣と、聖母マリアの処女性が関連付けられています。宗教的な意味合いもありつつ、ユニコーンと美しい登場人物や自然で構成される一枚にはシンプルにわくわくさせられます。サインがありながらも未完成というところすら神秘的に思えます。
特別展のテーマが「サロメと宿命の女たち」なのもあり、少々穏やかではない女性ばかりが出てくるのかと思いきや、入り口でまず迎えてくれるのは世界で一番大切な存在であったという母への思いがうかがい知れる手紙や肖像画(下段2枚)、また、30年近くも寄り添った恋人との素敵な日々をほうふつとさせるものが並びます。モローが探求した主題に登場する人物とは全く違うタイプの女性たちに信頼を寄せ、創作活動を支えてもらっていたというのも素顔が垣間見えるようで興味深かったです。
※写真は内覧会時に申請・許可を受けて撮影したものです。転用・転載はできません。
開催概要「ギュスターヴ・モロー展 サロメと宿命の女たち」
■会場:〈パナソニック汐留美術館〉東京都港区東新橋1-5-1パナソニック東京汐留ビル4階
■会期:2019年4月6日(土)~6月23日(日)
■休館日:水曜日(但し5月1日、6月5日、12日、19日は開館)
■開館時間:午前10時~午後6時(ご入館は午後5時30分まで)
※5月10日と6月7日は午後8時まで(ご入館は午後7時30分まで)
■展覧会公式サイト:チケット情報やアクセス他、詳細は公式サイトをご確認ください。