『恋とも呼べない恋』| 「山崎怜奈の『言葉のおすそわけ』」第77回

『恋とも呼べない恋』| 「山崎怜奈の『言葉のおすそわけ』」第77回
『恋とも呼べない恋』| 「山崎怜奈の『言葉のおすそわけ』」第77回
LEARN 2026.02.27
乃木坂46を卒業し、ラジオパーソナリティ、タレント、そして、ひとりの大人として新たな一歩を踏み出した山崎怜奈さんが、心にあたためていた小さな気づきや、覚えておきたいこと、ラジオでは伝えきれなかったエピソードなどを自由に綴ります。
photo : Chihiro Tagata styling : Chie Hosonuma hair&make : Karen Suzuki

「最近、恋してますか?」というテーマメールを募集していた、ある日のラジオにて。中学3年生からこんなメールが届いた。

「去年、同じクラスだった子から『かわいい』とよく言われていて、クラスが離れた今もずっと気になっています。ただ、共通の話題もあるのに、どうしても話す勇気が出ません。僕は中高一貫校に通っているので、来年以降も同じ校舎にはいます。どうやって一歩踏み出せば良いでしょうか?」

ラジオパーソナリティとしても、文筆家としても、過去の豊富な恋愛経験をあけすけに話せる人のことを、私は心底羨ましく思う。私は真逆の人間なので、求められた時には主語を変えたり時間軸を大幅にずらしたりと、創作の域に達するほどこねくり回してから提供してきた。だが今回は、生放送中のたった今初めて読んだかわいすぎる青春メールに、この場で返さなければならない。創作している場合ではないし、そう多くはない人生経験を切り崩してでも、リスナーの背中を押さなければならない。いや私に押させてほしい。

ということで、私が中学1年生の頃、クラスメイトに一瞬うっすらとした恋心を抱きかけたが結局何もありませんでした、という話を、短めに引用してエールを送った。前向きかつ現実的で、我ながら良いアドバイスだったと思う。しかし引用元のエピソードに関しては本当に不毛で墓場まで持っていく程の話ではないので、思い出したついでに記憶の断片を掻き集め、ノーカット版をここでお焚き上げしたい。

まず、なぜ何もなかったのか。端的に言うと、好きな人が女友達と被ったからだ。その子がどんな人間かをひとことで表すなら、「無邪気な人たらし」。明るく活発で運動神経抜群。一人称に下の名前を用い、喋り方も甘めで、ころころとよく笑いよく泣く。何かを決める際の優柔不断さすら愛らしく、人間らしさにあふれている様子が見ていて面白いので、同級生や先生からもよくいじられていた。小柄な体型と艶のある漆黒の天然パーマも相まって、トイプードルを擬人化したら彼女のような人間が出来上がりそうだなあと勝手に想像していた。

私はというと、すでに強烈な自意識を持ち、人に甘えるのも苦手で、思うことがあっても自問自答してから喜怒哀楽を表現する慎重な性格。勉強をコツコツやり続けるのは得意だったが、体育だけは打っても投げても蹴っても走っても鈍臭い。食も細く、筋肉も脂肪もつかず縦にスルスル伸び続け、常に学年のほとんどの男子よりも背が高い。加えて「先生に怒られるような行動をするのは校内で生きていくのにコスパが悪い」という理由で校則を遵守しているクソ真面目。スクールバッグに明治のストロベリーチョコレートを忍ばせ、時折こっそり配ってくれるような茶目っ気まで持ち合わせた彼女とは、好きな人以外ほぼ全てが真逆だった。

しかも地元の小学校では同級生となじめず、不登校期間を経て電車で1時間かかる中高一貫校を受験し、やっとの思いでコミュニティをリセットした私である。これからは何としてでも良好で円満な人間関係を築かなければならない。好きとか嫌いとか信じるとか、そういう身勝手な感情の押し付けで誰かとの仲がこじれるなら、そしてその状況に耐え、関係の修復に尽力する覚悟もないのなら、恋愛感情なんて安易に持つべきではないと思っていた。

程なくして彼らは付き合い、3カ月も経たないうちに別れた。潔く撤退し、挙げ句の果てには双方から悩みを聴くようになっていた私としては、撤退し甲斐がないのでもう少しくらい続いてほしかった気もするが、女子側が天然というか手練れというか、とにかく序盤から振り回されて大変そうではあった。

私はその後も彼女と行動を共にする機会が多く、恋多き女の苦悩を近くで見ているだけでお腹いっぱいだった。彼は高校からクラスが離れ、今は全く別の人と結婚している。私をメディアで見かけると時々連絡をくれるが、それ以上でも以下でもない。風の噂で当時のことを耳にしているのかどうかは知る由もないし、答え合わせをする必要もない。ただ、社会人になってからも頻繁に会う同級生が何人もいるのは、青春時代に誰の恋敵でもなかったということも、少なからず影響していると思う。

とはいえ、もし私がその後9年以上経験することになる職歴を予見できていたら、の話だが——何者でもなく、負わなければならない責任もそれほど多くなかったあの頃、もう少しワガママに生きても良かったような気がする。時に人は、「あれは若気の至りだったわあ」と晩年嘆きたくなるような他者とのいたたまれない関わりを経て、己の力ではどうにもならない不安に振り回されたり、自分が自分でなくなってしまうような恐怖を経験する。その痛みによって「生」を実感したり、他者への共感力が育まれたりしながら感情を耕していくのだとすると、私はかなりの分量を取りこぼしてきた実感がある。

恋に限らず、人間の、誰かのことを深く考える感情は美しい。ということで、先日メールをくれた君へ。中高一貫校は、良くも悪くも狭い世界です。みんな他人の恋愛が気になって仕方ないお年頃なので、もし噂になったらすぐ広まるでしょう。もし恋心が成就しなくて気まずくなったらどうしよう、という懸念もあるかもしれません。されど、だとしても、誰かと好きな人が被らないうちに、早めにアプローチして早めに告白しましょう。伝えないと伝わらない気持ちって絶対あるよ。友情か恋愛か天秤にかける状況になってしまったら地獄です。とっとと動きましょう。

あと、何とも思ってない人に「かわいい」なんて言いません。それが恋かどうかはさておき、人としてプラスであることに違いありません。かわいいって最強の褒め言葉ですよ。中学生にしてそれを照れずに言えてしまうお相手も、きっと素敵な人なのでしょう。応援しています。


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