箭内道彦さんに聞いた、今訪れたい震災復興の現場
やない・みちひこ/1964年郡山市生まれ。2003年「風とロック」を設立。福島県クリエイティブディレクターも務める。毎秋行うフェス『風とロック芋煮会』は、「アーティストと観客の距離が世界一近い」と人気。
箭内道彦さんに聞いた、今訪れたい震災復興の現場。
「福島のファンが増えたらなって思うんです。福島の今を知って足を運んでもらえたら、絶対に福島を好きになってもらえると僕は信じています」。タワーレコードの「NO MUSIC, NO LIFE.」や東京メトロの「Find my Tokyo.」などの広告で知られる郡山市出身のクリエイティブディレクター、箭内道彦さんがそう語る。
「福島はとても広いので、地域ごとに人の気質も気候も違うし、復興の進捗もさまざま。ひとくくりにはできません」
まず訪れたいのは、双葉町の〈東日本大震災・原子力災害伝承館〉。

原子力発電所が作られた原点まで遡り、復興への歩みを伝える施設だ。最初に流れるのは箭内さんが携わったプロローグ映像で、語りは郡山市出身の俳優、故・西田敏行さん。
「賛成とか反対とかじゃなく、みんなで考える時間を持つ場所だと思うんです。映像のナレーションには『私が生きているうちに見届けられっかどうか』という一文を入れました。廃炉作業は今日も続いているし、ここで働き暮らす人々の日々も大切だと伝えたかったからです」
そして歴史に触れた後はぜひ地元の人と話してほしい、とも。「隣に立つ〈双葉町産業交流センター〉には、ハンバーガーが名物の〈ペンギン〉など、立ち寄りやすいお店もあります。福島の人って、最初はとっつきにくく感じることもあるけど、話せばすぐ越えて来る。優しくてあったかくて、福島の名産は人だなっていつも思います」
そんな箭内さんがつい最近驚いたのが、いわきで水揚げされる〝常磐もの〞を出す〈寿司おのざき〉。創業百年を超える老舗魚屋の直営店だ。

「メヒカリの握りがまあおいしくて。僕が行ったのは、4代目が〝旨い魚を気軽に食べてほしい〞と始めたカジュアルな店舗。若い世代の挑戦を頼もしく感じるし、これまで店を背負ってきた3代目が、その姿を優しく見守っているのも素敵です」
リレーのようにバトンをつなぎながら助け合う関係は、福島の復興の形とも重なって見える。「〝先発ピッチャー〞が肩を壊すまで投げ続けるのではなく、中継ぎや抑えなど、その時々で動ける人がバトンを持つことが大切。たまに〝震災当時に何もできなかったのに、今ごろ何かするのは遅いのかな〞という声も聞きますが、福島のことを知ったり訪れたりするのに、遅すぎることは何もないんです」
美しく復旧した名所や威風堂々たる祭りを観る。
「風が気持ちいい5月には、平安時代中期に起源をもつ祭礼『相馬野馬追』が行われます。

甲冑を身に着けた数百もの騎馬武者が、旗をなびかせながら駆け抜けていく。あの勇ましい姿をぜひ観てほしいですね」
箭内さんはその力強い名を借りて、2011年秋のイベントを『LIVE福島風とロックSUPER野馬追』と名付けた。
「奥会津からいわきへと1日ずつ移動しながら野外コンサートを続けたのですが、相馬の日のオープニングには、ご自身たちも大きな被害にあった相馬野馬追の方々が駆けつけてくれたんです。向こうに瓦礫がたくさん見える会場で、馬上から述べてくださった〝自分たちもしっかりと復興を進めます〞という口上に、涙が止まらなかったです」
また、町の歴史と復興の軌跡に触れられるのが、白河市の〈小峰城跡〉。

NHK大河ドラマ『八重の桜』や『べらぼう〜蔦重栄華乃夢噺〜』に登場した城跡は、散策にも最適だ。
「震災で崩れてしまった石垣が、約8年かけてきれいに復旧されたんです。これも復興の象徴の一つですし、そのノウハウが熊本城の石垣修復に役立っているという話も聞きました。全国に支えてもらった福島が、今度は恩返しをしているんですね」
スポーツやイベントで福島のファンになる。
スポーツ観戦やイベントを楽しむことが支援につながることもある。例えば、県内59市町村を巡る公開ラジオ番組『風とロックCARAVAN福島』。

福島ゆかりのミュージシャンのライブも楽しいし、地元の首長や高校生とのトークは新鮮で、福島の今を身近に感じられる。
「県の中から世界に出ていくような才能を応援したいんです」
震災後に結成されたプロバスケットボールチーム「福島ファイヤーボンズ」もその一つだ。

「ファイヤーボンズには、福島の広島カープになってほしい。カープの存在がどれだけ広島の復興の支えになったことか。今はB2リーグですが、2026年秋からのBリーグプレミア参入条件となる〝平均入場者数4000人・売り上げ12億円以上〞に挑むべく、彼らはすごく頑張っています。前シーズンは地区最下位でしたが、新聞で『どん底から、這い上がるのだ』と宣言し、2025年12月には破竹の18連勝も決めました」
その姿に箭内さんは、県のスローガン「ひとつ、ひとつ、実現するふくしま」を感じている。
「復興が実現するのは、〝復興はまだだ〞っていう人が一人もいなくなる日。その日に向かって活動を続けるつもりですし、応援はいつからでも遅くありません。さっき僕は、福島は人が名産、福島の人は優しいって言いました。ちょっと言い方が難しいんだけど、たぶん、人に心配され続けるより、人に優しくすることで元気になれることってあると思うんです。だから、福島に来て、甘えてください。それも支援だと僕は思います」
1. 複合災害の現場で「見て」「聴いて」「感じる」。〈東日本大震災・原子力災害伝承館〉
東京電力福島第一原発から4kmの場所に立つ震災伝承施設。地震、津波、そして原発事故という未曾有の複合災害の記録と記憶を防災や減災の教訓として未来へつないでいくべく、2020年に開館した。来館者は、故・西田敏行さんがナレーターを務めるプロローグ映像を見た後、「災害の始まり」「原子力発電所事故直後の対応」「県民の想い」「長期化する原子力災害の影響」「復興への挑戦」と題した展示を時系列に沿って体験していく。またワークショップスペースでは、被災した地域住民が自らの経験を語る「語り部講話」を1日4回開催。震災復興を「自分事」として考える機会をぜひ。
住所:福島県双葉郡双葉町大字中野字高田39
TEL:0240-23-4402
開館時間:9:00~17:00
定休日:火休(祝の場合、翌平日休)
入館料:600円
2. 「常磐もの」の普及に努める4代目の挑戦。〈寿司おのざき〉
2023年、いわき駅前の商業施設内にオープン。「唐揚げのイ2メージが強いメヒカリをにぎり寿司、それも生と炙りで食べられることに驚いた」と箭内さんも感心する。おすすめは、旬の七貫が味わえる「常磐もの七浜握り」(水揚げ状況により内容は変更)2,000円。このメヒカリをはじめとする“常磐もの”に脚光を当て、国内外に広める挑戦を始めたのが県内最大の鮮魚店〈おのざき〉の4代目、小野崎雄一さんだ。時代性やターゲット層に応じて、旗艦店や寿司店をリニューアル。常磐ものの煮凝りや、未利用魚を用いたカレーの缶詰といったオリジナル商品の開発にも余念がない。
住所:福島県いわき市平字田町120LATOV1F
TEL:0246-25-1617
営業時間:11:00~14:30LO、16:30~20:30LO
定休日:2月・9月の第2火休
3. 人馬一体となって疾走する時代絵巻に感動! 『相馬野馬追』
その勇壮な光景はまさに天下無比!毎年5月末、南相馬市を中心に行われる祭礼。法螺貝(ほらがい)や陣太鼓の音と共に約400騎の騎馬武者が行進する「お行列」や、白装束の御小人(おこびと)が素手で荒駒を捕らえ奉納する「野馬懸(のまかけ)」、人馬が風を切って疾走する「甲冑競馬」や「神旗争奪戦」などが3日間かけて行われる。
毎年5月の最終土・日・月曜に、相馬市・南相馬市・浪江町の神社や祭場地で執り行われる。国の重要無形民俗文化財。
4. 震災復興が、文化財を後世に伝える力にも。〈小峰城跡〉の石垣復旧
1632年に完成し、戊辰戦争で焼失したものの、平成になり、かつて松平定信が作らせた絵図や発掘調査に基づいて櫓(やぐら)や門が復元された。震災後の石垣復旧では伝統工法を用い、石材の大きさや形、加工の痕跡を記録する「石材カルテ」を作成。その修復手法が熊本城や丸亀城の石垣修復に活かされている。
住所:福島県白河市郭内0248-28-5535(白河市文化財課)
三重櫓:9:30~17:00(冬期~16:00)
定休日:年末年始休
5. 「あなたの町のいいとこ」を聞きたくて。『風とロックCARAVAN福島』
「地元ゲストのコーナーでは、まず僕が“町のいいとこ、教えてください”って言います。それから“町に足りないもの、これから必要なものを教えてください”と聞いて、その土地の魅力や悩みや課題を伝えていくんです」と箭内さん。後半のライブコーナーでは箭内さんが歌ったり演奏したりすることも。
ラジオ福島が2013年末から始めたトーク&ライブ形式の公開生放送番組。広大な福島県にある59もの市町村を巡る。
6. 「誇れる福島をつくる」を使命に躍進中。「福島ファイヤーボンズ」
「ホームアリーナは郡山市の〈宝来屋ボンズアリーナ〉。平均入場者数4,000人というBリーグプレミア参入ライセンス取得に挑むべく、当初4,000に満たなかった席数を増やす改修までしました。覚悟の証ですね」と語る箭内さんは、毎年3月に行われる「BONDSUPDAY」の2024-25期ユニフォームもデザイン。
震災後、「福島に希望を与えるチームを」と発足。2013年bjリーグ参入。2025年末現在、平均入場者数は4,350人を超えた。
















