連載〈HOME SWEET HOME〉 食のプロのセンスをインテリアから学ぶ。 CASE41 中村裕子

LEARN 2026.01.09

おいしいものを作る人、おいしい場所をプロデュースする人。食に関わるプロフェッショナルのセンスを、プライベート空間のインテリアから学びます。

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緑豊かな環境と愛犬との暮らしを考え選んだ家。

幼い頃から家族の転勤で、自身のライフプランで、都心からローカルまでさまざまな場所に暮らしてきた。「抜け感に一目ぼれした」マンションは、場所ごとの生活を楽しむ中村裕子さんの人生の現在地だ。

すっきり整ったリビングで、12年連れ添う同居人(犬)、はなちゃんと。パッチワーク状のラグは「本意ではないけれど」と、はなちゃんの滑り止め対策。
すっきり整ったリビングで、12年連れ添う同居人(犬)、はなちゃんと。パッチワーク状のラグは「本意ではないけれど」と、はなちゃんの滑り止め対策。

 引っ越して間もなく4年になるマンションは、東京都世田谷区の閑静な住宅街にある。初めて内見に訪れたのは真冬で緑のない季節だったけれど、大きな窓の外に木立が広がる、抜け感抜群の部屋に一目ぼれした。

「生まれ育った兵庫県芦屋市の家は、晴れていれば大阪湾から和歌山県までを見渡せる六甲山麓にあり、都心のマンションで暮らしていた会社員時代も、小さくても庭のある1階の物件を選んで緑に癒されていたので」

都心へのアクセスや買い物などに多少の不便があると知っても「ここしかない」と即決。十余年連れ添う愛犬と暮らせるという条件もクリア。周辺には散歩にうってつけの公園や原っぱがふんだんにある。

こだわりとこだわりのなさ、二律背反が生む美しさ。

モダンなキッチンにも、柿材の古い家具を合わせて。
モダンなキッチンにも、柿材の古い家具を合わせて。

料理雑誌や書籍編集で数々のヒット企画を世に送り出してきたベテラン編集者。守備範囲は「テーブルの上すべて」で、器のスタイリングを含め手掛ける仕事も多い。石垣島に移住し、カレーの店を営んでいた時期もあり、かつては膨大な器を所有していた。が、再び東京での生活を始めるにあたり、多くを知人や懇意の飲食店に譲る形で手放した。残っているのは「それでも手元に置いておきたかった」もの。今や〝大御所〟と呼ばれる作家たちとの付き合いも古く、現在では手に入れることが困難になった作品も多い。キッチンに加え、寝室に置かれた棚にも器がずらりと収められている。収納家具は一般に李朝家具と呼ばれる朝鮮王朝時代の古民具や、松本民芸家具が中心だ。

「時代を経た本物の木の家具は、どんな家にも暮らしにも合う上に、飽きも来ないから、長く使い続けられるんです」

写真家、松本祥孝さんの作品で彩りをプラス。
写真家、松本祥孝さんの作品で彩りをプラス。

 一方、ベッドやソファなどの大型家具や家電は、友人から譲り受けたものだという。
「東京に戻る前、部屋探しをしながら芦屋の知人が所有する家具付きのマンションで暮らした時期があり。必要なものは使って、と言われて遠慮なく」

ベッドルームにも大きな窓があり、外に四季折々の景色が広がる。ペイントは石垣島時代の友人でアーティストの作品。
ベッドルームにも大きな窓があり、外に四季折々の景色が広がる。ペイントは石垣島時代の友人でアーティストの作品。

 落ち着いたら一点ずつ、好みのものを探して買い替えればいい。そんな気持ちでいたものの、上質でシンプルな家具は、趣味的にベストでなくても空間作りに障らず。「そのうち、そのうち、と思いながら」と話すが、明るい光が射す家のしつらえとして、暮らしになじんでいる。

環境を味方につけ、本質を大切にする暮らし。

重厚な棚は李王家時代のもの。器は岡晋吾さん、正木春蔵さん、黒田泰蔵さんなど著名な作家の作品が並ぶ。
重厚な棚は李王家時代のもの。器は岡晋吾さん、正木春蔵さん、黒田泰蔵さんなど著名な作家の作品が並ぶ。

花器に生けられた草花の多くは「道端で見つける自然の〝おすそ分け〟」だと話す。季節ごとの草花が近所のどこで採れるか、界隈の「花マップ」のインプットは大の得意で、これまで暮らした多くの町で、同じように自然の草花で室内を彩ってきた。今の家の近くには農家が庭先に設けた野菜の直売所もいたtるところにあり、値段も驚くほど安い。「ナスならここの農家さん、万願寺唐辛子が上手なのはこの人」と、それぞれが得意とする野菜を買い回るのが楽しいのだそうだ。

加えて、乾物の料理本を作って以来、自身の食生活にも乾物が欠かせなくなったという。軽くて、戻せば量が増えて、滋味深く栄養価も高く、食べるほどに体が整う乾物の普及をライフワークとし、さまざまな形でレシピ紹介や情報発信を続けている。愛犬との散歩を含め、1日1万2000歩がルーティン。お酒も大好きで晩酌は欠かさないけれど、環境も味方につけたヘルシーライフで体調はすこぶるよいのだとか。

猛烈に働き倒した30~40代、料理店の主と編集者、二足のわらじを履いて奮闘した石垣島時代など、カラフルな経験を経ての現在地。自分にとって「本当に必要なもの」を見極めて絞り込んだインテリアと暮らしのスタイルは、真似したくなるポイントが満載だ。

74 m<sup/>2 の1LDK。70 m<sup>2</sup> 以上となると、部屋が分かれたファミリータイプが多い中、広い1LDKの間取りも理想だった。築23年。外周などのパブリックスペースも整備されている。
74 m2 の1LDK。70 m2 以上となると、部屋が分かれたファミリータイプが多い中、広い1LDKの間取りも理想だった。築23年。外周などのパブリックスペースも整備されている。

【TODAY'S SPECIAL】軽くて保存が利く乾物で健康生活。

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「ご飯のおかずも、お酒のつまみも乾物があれば」と話す乾物好き。栄養価が高く、食物繊維も豊富で腸活にもよく、手放せない食材なのだとか。全部和風だしの味にしないよう調理すれば、ワインの相棒にも。ひじきの梅とオリーブオイル和え、きくらげの炒めナムル、割り干し大根のはりはり漬けなど。和洋折衷が家庭料理のいいところ。

ESSENTIAL OF -YUKO NAKAMURA-

変わらず愛せるものを大切にする暮らし。

( WEAVING )
趣味で続ける機織り。
美大で染織を学んだ経験があり、東京に戻ったのを機に、趣味として再開。製作は主に工房で行うが、自宅にも先生から借りている機織り機がある。


( GREEN )
自然の道具、自然の草花。
花器はお母様の形見で、備前の素焼きのもの。骨董屋で手に入れた栗の板に飾っている。生ける草花は自然のもので、ときに驚くほど根を伸ばすことも。


( INCENSE )
香を、敬愛する作家の香炉で。
佐賀県、唐津を拠点とする岡晋吾さんとは30年の付き合いで、香炉も愛用。老舗〈松栄堂〉の高貴な香りがお気に入り。陶仏は福森雅武さん作。


photo_Michi Murakami illustration_Yo Ueda text & edit_Kei Sasaki

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