きゃりーぱみゅぱみゅの大人なLADYになるわよコラム ~第74回 裁判に行ってきたわよ~
第74回 裁判に行ってきたわよ
皆さま、ごきげんよう。先日、人生初となる裁判に行ってきた、きゃりーぱみゅぱみゅです。いやはや大人になりました。

ま、訴える側でも訴えられる側でもなく、見守る側ですけどね。
要するに、裁判の“傍聴”に生まれて初めて行ってきたというわけです。
キッカケは、夫のしょーのさんが出演作品の勉強のために、スタッフさんたちと裁判の傍聴に行ったことでした。
家に帰ってきたしょーのさんが興奮気味に「裁判すごかった! あんな世界はなかなか見れない!」って言ってきたんですね。
「きりちゃんは普段から未解決事件とかめっちゃ調べて、裁判記録とかも読んだりしてるし、絶対に行ったほうがいいと思う!」
めっちゃ食い気味に勧められました。
もちろん行ってはみたいけど、でも赤ちゃんとワンコを預けたりしないといけないし、それにそもそも裁判なんて、そんじょそこらのただの素人が見に行っていいのかな…?
私が戸惑いを見せていると「いや、刑事裁判ってね、憲法で誰でも見ていいという決まりになってるんだよ」と、しょーのさん。
そこで、思い切って行ってみることにしてみました。
めちゃめちゃ久しぶりのデートとして。

というわけで、霞が関にある東京高等裁判所に電車で向かったんですが、目的地が近づくにつれて妙な緊張感が湧いてきました。
人生初の裁判。
法廷画家のイラストでしか知らない世界。
そんな未知の世界にこれから足を踏み入れるんだと思うと、やっぱりゾクゾクしてしまいますし、それに裁判って被害者にせよ加害者にせよ、人生にとってすごく大切な日でもあります。
そんな日に同席させてもらうことに対して「恐縮です🙏」と、身が引き締まる思いがしたんですよね。
東京高等裁判所はすごく立派な建物でした。
中に入ると、飛行機に乗るときの保安検査のようなところがあって、危険物を持っていないか手荷物と身体をチェックされます。
そこを通過すると、テーブルくらいの高さにタッチパネルが6個くらい並んでる台が出現。
それで本日の裁判のタイムテーブル一覧が見れるようになっているんですけど、テプラみたいなやつで「絶対にカメラ撮影しないようにお願いします」と書いてあったのが印象的でした。
とりあえずタイムテーブルから傍聴したい裁判を見つけて、始まる時間と場所(部屋番号)をメモします。
そしてその部屋まで行くと、ドアにはのぞき穴があって、まず外から中の傍聴席の混み具合をチェック。
裁判はもう始まっていたんですけど、席がガラ空きだったのでひとまず入ってみることにしました。
正面に向かって左側は、被告人と弁護士がいます。
真ん中は裁判官で、右側は検察官という配置です。
なので傍聴席は右のほうの席に座らないと、左側にいる被告人の顔が見えません。
それがまだわかっていなかった、裁判傍聴初心者の私。
一発目の裁判は何も考えずに、入口に近い左のほうに座ってしまったせいで、被告の後頭部しか見えない状況になってしまいました。
被告は70~80歳くらいのめっちゃ高齢なおじいちゃん3人で、どうも詐欺の常習犯っぽいです。
ただ、おじい3人は高齢のせいなのか、それとも裁判慣れしてるせいなのか、頭がグラグラ動いていて明らかに寝ている様子。
裁判長も面倒くさそうに弁護士に「早くしゃべってください」と言って、弁護士は誰も聞き取れないくらいの超高速でしゃべり始めます。
…え? 裁判ってそんな感じ?
なんか全員のやる気が感じられません。
傍聴は途中の入退室がOKとのことなので、私はメモを取る手を止め、ここはいったん離脱して他を見に行くことにしました。

次に入った部屋では、映画みたいなシーンが繰り広げられてました。
証言台のようなところにリクルートスーツっぽい服を着た女性がいて、何かをしゃべっています。
話の内容から察するに、無免許運転で接触事故を起こしてしまった人のお母さんのようです。
「女手一つで育ててきましたが、こういう風になってしまって本当に反省しております。でも今は息子の家の近くに住んでいるので、更生させたいと思っていますし、定期的に会って母と子の絆を深めていきたいです…」
息子が犯してしまった過ちに対して、反省の態度を精一杯見せているお母さん。
ところが検察は容赦ありません。
「近くに住んでるからといって、更生のために具体的に何ができるんですか?」
鋭いツッコミが入って、お母さんは困惑しながら答えます。
「あ…あの、1週間に1回、いや、3日に1回くらい息子と会って、あの、更生を…」
「いやだから、口では簡単に言えると思うんですけど、本当にできるんですか?」
思った以上に検察が無慈悲に詰めまくってて、マジで映画みたいなワンシーンでした。
いや、映画はあくまでフィクションだけど、こっちはガチのノンフィクションですからね。重みがぜんぜん違います。
それでいうと、“闇バイト”の裁判の傍聴もガツンと重たい衝撃を受けました。
開始5分前くらいに席について待っていると、警備の人に連れられて闇バイトをした被告が登場したんですけど、手首には手錠がされたまま。
その姿が、私的にはけっこうショックだったんですよね。
人間として生まれたら、自由に好きなものを食べて、好きな人と会って、好きな話をするのが当たり前です。
なのに、この被告のように監視されて、手錠されて、自由が奪われてる人間がリアルに存在するんだ…と。
罪の内容は、闇バイトでお年寄りの自宅に入って強盗をしたというものでした。
奪った金額は10万円くらい。
それを奪い取るために、80代のおばあさんの手足と口をガムテープで固定して、その後、頭を2発殴り、それから腹部を蹴った…と、検察の人がやたら細かく状況を説明します。
裁判って過程をすべて明らかにしないといけないから、描写が本当に生々しい。
あまりにきついシーンでは「うっ」って思わず声が出そうになったりもしたんですけど、「ま、でもこれがリアルだよな」と思いながら、私はとにかくメモメモメモ。

最後は、殺人罪に問われている事件を傍聴しました。
被告は身なりがきちっとしてて、遺族に賠償金を払うことを申し出たみたいなんですけど、遺族から拒否されたと言ってました。
「それはなぜだと思いますか?」と検察。
「お金とかではなく、自分の罪を重く受け止めてほしいということだと思います」と被告。
そして、それを黙って見つめる傍聴席。
やっぱり殺人罪という重たい罪のせいなのか、傍聴席はほぼ満席で注目度の高さを感じます。
他の裁判は、ほとんど人がいませんでしたからね。
最初のおじい3人はほぼ誰もいない感じでしたし、証言台のお母さんのやつは完全に0。
ただ、闇バイトの裁判は、なぜか私立学校に通っているお嬢様風の小学生の子が、品の良いママとペアで来ていて只者ではない雰囲気を放っていました。
被告の関係者なのかな?と思ったりもしたんですけど、雰囲気的に闇バイトとは無縁っぽいし、ひょっとしたら被害者側なのかもしれません。
まあ、私たちみたいに、裁判が好きで来てるという可能性もあるからなんとも言えませんけどね。
ちなみに、この一番最後の裁判には、被告側の家族が来てたようでした。
なぜそれがわかったのかというと、裁判が終わったあとに「先生ありがとうございました!」「すごい手応えあったので次も頑張りましょう!」みたいな会話を弁護士としていたからです。
それを横目で見ながら、なんかめっちゃリアルだなあと思った私。
もちろん被害者の遺族が一番かわいそうだし、決して許されることではないのですが、被告もやっぱり人の子で、こうやって少しでも罪が軽くなることを願っている家族がいるんですね…。
私は今回の貴重な傍聴の体験を通して、とにかく捕まるようなことはしたくないと強く思いました。
生身の人間が手錠をかけられてる姿はすごく悲しく映ったし、自分のそういう姿を大切な家族に見られたくないので、裁判になるようなことは絶対にしない!
たぶん、皆さんも傍聴したらそう思うのではないかと思います。
だからもし傍聴がもっとカジュアルなものになって、みんなが行くようになったら、マジで犯罪率が下がったりするかも?
その日は、しょーのさんと裁判の振り返りをしながら帰宅。
頭を使ってそれぞれの言い分や状況を整理するのは、まるで脳トレみたいで大変でしたけど、いい汗をかいたような爽快感もありました。

それから数日後。
私としょーのさんがなぜか裁判所にいた、というネット記事が出回りました。
しょーのさんいわく、この記事が出るちょっと前に「事件と関係あるんですか?」という記者からの問い合わせが事務所に来てたらしいです。
「いやいや、役作りの勉強のためです」と事務所は答えたそうなんですけど、そりゃいきなり裁判所に現れたら記者の人は「え、なんで?」ってなりますよね。
今後もまた機会があったら、例えば仕事帰りとかにサクッと傍聴しに行きたいなと思ってたんだけどな〜。
人の裁判を通して自分の人生を見つめ直せるから、自分のやりたいことがわからなくなったときとかに行くのもいいかもと思ったし、なんなら裁判員の依頼が来たらやってみたいって思ったんだけどな〜。
でも行くと記者がいっぱいいます。裁判所なので。
その記事には、裁判所から出て家に帰る私たち夫婦の姿をパパラッチした写真と一緒に、こんな見出しがつけられていました。
【「傍聴席にピンク髪に“だる着”姿で現れて⋯」きゃりーぱみゅぱみゅが法廷で見せていた“ファッションモンスター”としての気遣い】
たしかにその日はピンクの髪色に上はトレーナー、下はジャージという格好でマスクをしていました。
そういえば、手錠をつけられた闇バイトの被告も「え、なんで?」みたいな顔をしてこっちをじーっと見てきたんですよね。
あまりにヤンキーっぽい格好だったせいで「仲間の応援きた?」と思われたのかもしれません。

















