美容系インフルエンサーのコスメ愛を込めた発信が面白くてたまらない今、私にとっての「名品」探し。|松田青子エッセイ

美容系インフルエンサーのコスメ愛を込めた発信が面白くてたまらない今、私にとっての「名品」探し。|松田青子エッセイ
自分の目で、世界を見たい Vol.12
美容系インフルエンサーのコスメ愛を込めた発信が面白くてたまらない今、私にとっての「名品」探し。|松田青子エッセイ
LEARN 2025.11.01
この社会で“当たり前”とされていること。制度や価値観、ブーム、表現にいたるまで、それって本当は“当たり前”なんかじゃなくって、時代や場所、文化…少しでも何かが違えば、きっと存在しなかった。情報が溢れ、強い言葉が支持を集めやすい今だからこそ、少し立ち止まって、それって本当? 誰かの小さな声を押し潰してない? 自分の心の声を無視していない? そんな視点で、世界を見ていきたい。本連載では、作家・翻訳家の松田青子さんが、日常の出来事を掬い上げ、丁寧に分解していきます。第12回は、週替わりでバズる新しい化粧品から考えたことです。

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松田青子
松田青子
作家・翻訳家

まつだ・あおこ/『おばちゃんたちのいるところ』がTIME誌の2020年の小説ベスト10に選出され、世界幻想文学大賞や日伊ことばの架け橋賞などを受賞。その他の著書に、小説『持続可能な魂の利用』『女が死ぬ』『男の子になりたかった女の子になりたかった女の子』(いずれも中央公論新社)、エッセイ『お砂糖ひとさじで』(PHP研究所)『自分で名付ける』(集英社文庫)など。

敏感肌の人間には、かつて想像もできなかったくらい進歩したコスメだけど……。

化粧品が好きだ。

私はアトピーがある敏感肌なので、10代、20代の頃は、基礎化粧品のレベルで自分に合うものが見つからず、選択肢がほぼなかった。可愛いパッケージや色味のコスメブランドは肌の強い人たちのもので、私には夢のまた夢でしかなかった。

それから十年、二十年の間の、化粧品業界の進歩は凄まじかった。私は大前提として、「エタノールフリー」の商品じゃないと駄目なのだが、今では「エタノールフリー」の商品はドラッグストアでも当たり前のように買うことができるし、肌に刺激のある成分の数々が無配合の商品がたくさん開発されているのでありがたい限りだ。

昔の私は、敏感肌用やヴィーガンコスメがサンリオや様々なキャラクターとコラボする未来を想像することができなかった。敏感肌用は、一般的ではない、日陰の存在だったからだ。だから今、私はコスメが最高に楽しいし、十代、二十代の頃の私のためにも、四十代の私が、サンリオコラボアイテムなどをがしがし買って使う日々である。肌も荒れないし、すごいことだとしみじみ感動する。

SNSのおかげで、良くも悪くも、コスメや美容の情報はネットに溢れている。私も参考にしているのだけど、敏感肌の人間からすると、特に成分に言及することなく、ただただ「いい」「名品」だと絶賛されているアイテムも多い。肌の強い人にとっては、仕上がりの良さだけで判断できるのでそれは間違いではないのだけど、他にも、色味やテクスチャーが自分の肌質に合わない、などもあるだろうし、万人にとっての「いい」「名品」ではもちろんない。つまり、私たち個人個人がネットに溢れる無数の「これいいよ」が自分にとってはどうなのかを、一つ一つ吟味しないといけない。週ごとにSNSで新しいコスメがバズるような状況では、それをわかった上で楽しまないと、経済的にも、心身の健康にとってもリスクがある。

私はどちらかといえば疑い深い四十代だし、敏感肌なので、コスメや美容に対する絶賛の言葉をそのまま受け取ることはしたくてもできないのだけど、もっと若かったら、その流れに乗ってみるのも楽しかっただろうし、逆に危険なこともあっただろうと思う。新しい美容整形が次々と、数年後、十年後の「AFTER」の経過を安全確認されることなく世に出ては、カジュアルに人気を博しているのも心配だ。有名な美容系インフルエンサーさんで、過去にそういった美容整形に手を出して、後悔していると発信してくれている人もいるけれど、いい情報と実は怪しい情報がとにかくごった煮状態なので、その中で本当にいい情報を見極めて、自分のバランスを取るのは大変だろう。

松田青子さんエッセイイラスト

美容系インフルエンサーの、さまざまな愛の形。

コスメや美容の世界はとにかくミリ単位で「美」を追求していく世界だ。最近だと「人中」をとにかく短く見せようとする流行りになり、人中を短くする美容外科手術さえあるぐらいだけれど、私、こうなるまで、人中という言葉を聞いたことがなかったよ。これまで人中の長さを気にせずに生きてきた人たちが、人中を気にして生きていかなくてはいけないのはなぜなの。あともう「毛穴が目立たない」ことがとにかく善として語られるけれど、ちょっと離れて見たら気にならないです、みたいな”抜け”がそろそろあってもいいのではないかとは思う。

とはいえ、今のこの美容系インフルエンサーさんたちがしのぎを削って、コスメや美容について発信してくれている現代が、私は面白くてたまらない。オタクの全力の知識と愛がこんなにも気軽に楽しめるなんていいのだろうか。YouTubeでは、大好きな美容系インフルエンサーさんたちが週末になると新しい動画をアップしてくれるので、見るのに忙しい。夜中に一人仕事をしていて孤独なときは、パソコンの画面の半分にメモアプリを出してそこで執筆をし、もう半分にはYouTubeの画面を小さくして、美容系インフルエンサーさんたちがわいわいと雑談している動画を流している。現在人気のある美容系インフルエンサーさんたちの中には、メイクや美容の力でそれぞれの困難を乗り越えてきた人も多く、この人たちの才能が出てくる場としてYouTubeがあったことに感謝しかない。

松田青子さんエッセイイラスト

そしてコスメ情報過多の時代、「全成分探偵」になった。

SNSでのコスメや美容人気の影響もあってコラボ商品や新しいコスメブランドもどんどん出てくる。Qoo10などのおかげで韓国のコスメなども手軽に注文することができる。すごく楽しいし、知識も増える。敏感肌向けの情報もたくさんシェアされているので、自分の肌に合わない成分を特定したり、避けたりしやすくなった。

 ただ敏感肌の人間から言わせると、現在の飽和状態では、敏感肌が化粧品を選ぶ上での命綱である「全成分」が、ネット上でものすごく見つかりにくい。ブランドの公式サイトだとさすがに掲載されているのだけど、時には公式サイトでさえ見つからないことさえある。また、大きなネット通販サイトに公式で出店している場合にも全成分が掲載されていないことが多いのだが、公式なのだからさすがに載せてほしい。有名なコスメブランドがコンビニ版の商品を発売した際は、コンビニのサイトにもコスメブランドのサイトにも全成分が掲載されておらず、ネット上に一切全成分の情報がない、と確信を持てるまで検索してからコンビニに出向き、現地で確認した。

 私は気になるコスメの全成分を突き止めるためにあらゆるサイトや個人ブログを徘徊し、「このブランドのクッションファンデは、マットタイプには酸化亜鉛は入ってないけど、ツヤタイプには酸化亜鉛が入ってるよ」「このアイシャドウパレットのこの色とこの色にはカルミンが入っていないけど、この色とこの色には入っているので紛らわしい」と友人に伝えることができる、全成分探偵と化している。また、苦手なはずの成分でも、なぜかこの商品だと大丈夫、といったこともあるので、とりあえず自分の肌を実験台にして使いたいものは使ってしまう。

 情報過多でカオスといえばカオスだけれど、今のこのコスメと美容のSNSでの盛り上がりを、それぞれが自分に合ったかたちで楽しんでほしい。

text_Aoko Matsuda illustration_Hashimotochan

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