「ムーミン」に見る孤独と自由。
なこし・やすふみ/相愛大学、高野山大学、龍谷大学客員教授。テレビコメンテーター、映画評論など多方面で活躍中。近著に『とげとげしい言葉の正体はさびしさ』(夜間飛行)。
「小学生の頃、岸田今日子さんがムーミンの声を演じていたアニメが何より好きで、原作も図書館で借りて何冊か読みました」と、楽しそうに語り始めた名越さん。夢中になった理由はなんだったのだろうか。

「ひと言で表すと〝孤独との付き合い方〞です。ムーミンにはスニフやスナフキンといった仲の良い友だちがいますが、ひとりひとりまったく別のことを考えていて、それぞれの性格が際立っているんですね。ムーミンは楽しく遊んでいても、意識がふっと別のところにいってしまいがち。ムーミンパパとムーミンママも愛し合っているけれど、お互いに触れられない何かを持っている。ムーミン谷のみんなは相手のことを尊重して、いたわりあいながら生きている。それが素敵だなと思いました」
登場人物のなかで、特に印象的だったのはモランだそう。
「触ったものがすべて凍ってしまう。そのシンプルな設定を考えつくところに、作家の深遠な力量を感じます。みんなが恐れ常に敏感なんですね。ひとりひとりの心は違うのに、孤独同士が響きあって、結びついて、勇気までわいてくる。子ども心に、すごいなと思いました」

ムーミントロールが持つカンテラの光に惹かれて、浜辺に現れるようになったモラン。言葉を交わさずとも、両者の距離は少しずつ近くなっていった。
小説『ムーミンパパ海へいく』で、ムーミントロールとの交流を経てモランは温もりを知る。また、絵本『さびしがりやのクニット』も、怯えて生きてきた小さなものたちが出会いを通じて強くなり、いっしょに幸せに暮らすという物語だ。一方、他者と関わりを持たない孤高の存在といえばニョロニョロ。その自由気ままさに憧れたムーミンパパは彼らを追って旅に出るが、意思の疎通ができないニョロニョロたちに囲まれているうちに自分を見失い、家族の待つ家に帰りたいと願うに至る。

明るい場所になじめず、暗やみに隠れてひっそりと暮らす名もなき生きものたち。冬の大かがり火に照らされてシルエットだけが見えている。
©MOOMIN CHARACTERSTM
「自由であろうとすれば孤独になる。孤独を受け入れれば自由が得られる。孤独と自由はまさに裏表なんですね。なんとなく感じていたことを結実化してくれたのがムーミンの物語だったんじゃないかと思います」



















