みんなが暮らすムーミンやしきってどんなところ?
かとう・まさき/一級建築士、デザイナー。2012年、建築事務所〈Puddle〉設立。カフェ建築の第一人者であり、編著書に『カフェの設計学 計画とディテール』( 学芸出版社)などがある。
灯台のように立つ、アイコニックな外観。

丸い筒のような形はフィンランドのタイルストーブや灯台がモチーフ。「灯台は海の道しるべ。ムーミンやしきもここに集えば安心というみんなの憩いの場。この形がぴったりだと思いました。外壁の青も素敵です。青は海や空の色。際限のない無形のものを象徴していると感じます」(加藤さん、以下同)
一家以外の部屋もある間取り図。

「建物が丸いので、部屋として仕切っていくと、中心にある2階の踊り場以外はすべて外部に面した曲線の形状に。各室に窓があって、そこから出入りもできそう。巣籠りする個室だったとしても、外との接点があるところがいいですね」
ムーミンたちも家具も丸い!?

「キャラクターも丸いですし、家具は柔らかな曲線でアール・ヌーヴォー的ですね。トーベがムーミンを描いた頃は建築家アルヴァ・アアルトの全盛期だったと思うのですが、それよりも前の伝統を大切にしている感じがします」

自由を手にした若き日のムーミンパパは素晴らしい空間を見つけ、ここに自分だけの家を建てたいと地面に描き始める。「表現したいことが降ってきて、突き動かされている様子が伝わってきます」

カフェやホテル、店舗など、居心地のいい空間デザインに定評のある〈Puddle〉の加藤さん。建築家の目にムーミンやしきはどのように映るのだろうか。
「図面を見て、いいなと思ったのは、玄関を入るとまず居間、みんなで集う場所があるんです。僕は住宅やホテルなどを設計するとき、入口の近くに共用スペースを作りたいと常に思います。そこを通れば干渉せずとも、いるね、帰ってきたね、とわかる。具合が悪かったり、話したくなかったりするときも、お互いにその状況を知っておくことができる。コミュニティのありかたとして、すごく共感しました」
扉に鍵をかけず、来るもの拒まず去るもの追わず、自由に出入りできるムーミンやしき。スニフが冬眠していることもあれば、リトルミイが養女として生活を共にしているエピソードもあり、コミックスではムーミントロールのガールフレンドのスノークのおじょうさんがゲストルームで暮らしている。
「うちの事務所は、手前が植物ブランドのショップなんです。あえて境界線は引かず、領域も決めていません。現実的には鍵のないシェアハウス的なあり方はなかなか難しいですが、生活を豊かにしたいという共通する気持ちを持つ仲間たちと集まることができて、とても幸せだなと思っています」
ムーミンやしきはムーミンパパが若い頃から思い描き、のちに家族と友人たちのために自ら造り上げた理想の家。当初は二階建てだったが、物語が進むにつれ、いつの間にか三階建てとして描かれるようになった。
「建物もひとりのキャラクターのようなものなのかもしれませんね。生物が成長するように、建築物だって広がったり、伸び縮みしたりしていい。本来、建築とはそんな柔軟な思考であるべきではないでしょうか。現実で考えると、すでに建っている二階建ての家を三階に引き伸ばすのは大変ですけど、物語のなかではムーミンパパが増築したよ、で済みますし(笑)。自分たちの暮らす家を自分の手で建てる。とても素敵で、憧れますね」



















