角野栄子さんが語る、ムーミンの世界。

角野栄子さんが語る、ムーミンの世界。
角野栄子さんが語る、ムーミンの世界。
LEARN 2025.09.03
子どもに媚びず、大人が読んでも深いムーミンの物語。ムーミン谷の豊かな世界に魅了されたという、児童文学作家の角野栄子さんに、ムーミンの魅力についてお話を伺った。
photo_Eriko Matsumoto text_Keiko Kamijo text & edit_Kana Umehara
profile
角野栄子

かどの・えいこ/1935年東京生まれ。大学卒業後、紀伊國屋書店出版部勤務を経てブラジルに2年滞在。1970年に『ルイジンニョ少年』(ポプラ社)で作家デビュー。代表作『魔女の宅急便』(福音館書店)は舞台化、映画化された。2018年3月に国際アンデルセン賞作家賞受賞。2023年に児童文学館〈魔法の文学館〉(江戸川区)が開館した。

角野栄子さんがムーミンの物語を最初に読んだのは、自身も作家として活動しはじめた頃。登場するキャラクターの多様さ、物語の不思議な展開に驚いたという。

作家角野栄子

「普通のファンタジーじゃない、という印象でしたね。まずはキャラクターが本当に魅力的。子どもに一切媚びてなくて、押しつけがましくない。教訓のない物語がいい。私は学者のように切手や植物を蒐集(しゅうしゅう)するヘムレンさんや、ヘソまがりでいつも怒っているミイが好き。あとは、ニョロニョロ!あのヴィジュアルは絵を描く人の発想よね」

ムーミンママのように優しくておおらかな存在がいたかと思えば、ムーミンパパのように少年の心を持ち合わせ放浪癖があるキャラクターもいて、ニョロニョロのようになんだかわからない不思議なキャラクターも存在する。ムーミン谷は、自分と違う変な人がいても誰も否定しない、自由で寛容な社会だ。

キャラクターの多様さ、自然の情景、不思議な出来事……ムーミン小説の素晴らしさはたくさんあるが、一番の魅力は「絵」を描く人の目線だと角野さん。

「ムーミンの物語を読んでいると、ムーミン谷の自然の風景や彼らの気配がそこにあるかのように浮かんできます。ヤンソンさんはお母さんが画家でお父さんが彫刻家。芸術一家で、幼い頃から豊かな自然や多様な人々を、絵を描く人の深いまなざしで見て育ったのでしょう。まるで絵が言葉のように、言葉が絵のように感じられるんですよね」

作家角野栄子

角野さんはトーベ・ヤンソンと過去に2回対面している。その時の印象を教えてもらった。

「初めてお会いしたのはフィンランドを訪れた時。現地の友人に『ムーミンに会いたい!』と冗談で言ったら、アトリエに連れて行ってもらえることに。細身で小柄、だけど強いまなざしが印象的で、タバコを吸いお酒を飲みながら話をする、不良な感じがカッコよくてお洒落な方でした。その後日本にいらした時に、雑誌で対談をしました。私の勝手な想像なんだけど、ヤンソンさんは小さな頃、芸術家の両親のもと、ある種の孤独を抱えていたのではと。私もそうだったけど、一人で過ごす時間に想像力を広げたんじゃないかしら。自分が本当に好きなものを、楽しみながら描いているのが伝わってくる。ムーミンの物語に触れると新しい想像力の扉が開く、そんな感じがします」

Videos

Pick Up