連載〈HOME SWEET HOME〉 食のプロのセンスをインテリアから学ぶ。 CASE35 野口真紀

LEARN 2025.07.28

おいしいものを作る人、おいしい場所をプロデュースする人。食に関わるプロフェッショナルのセンスを、プライベート空間のインテリアから学びます。

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新品から育んだ、唯一無二のヴィンテージ感。

20代でフリーになり、新築マンションも購入。キャリアを積みながら子育ても同時進行と、家の話からカラフルな半生の話へ。審美眼に加え、清々しいほどの決断力、行動力がインテリアから伝わる。

ダイニングのチェアも名作「Yチェア」で統一。絵は手前がお母様の18歳のときの作品で、奥が70代の最新作。観葉植物の飾り方にもセンスが光っている。
ダイニングのチェアも名作「Yチェア」で統一。絵は手前がお母様の18歳のときの作品で、奥が70代の最新作。観葉植物の飾り方にもセンスが光っている。

マンションの内装にも、しつらえられた家具にも、美しきヴィンテージ感が漂う。ピカピカの新品よりも、時の重なり、人が大切に使い込んだ跡を求めて、ヴィンテージマンションやアンティーク家具を選ぶのは、センスのよい人たちの、昨今のトレンドだ。野口真紀さんも、きっとそんな風にして今のアトリエ兼住居を作り上げたに違いないと、室内をしみじみ眺めていると……「違うのよ、買ったときは全部新しかったの!」と、ツッコミが入った。

「マンションは新築で買って25年、ソファなんてもっと長い付き合いなんだから」

オーダーメイドの家具がインテリアの基調に。

ダイニングと並ぶ洋室を一つの空間に。7年前に〈ザ・コンランショップ〉で購入したソファも、よきヴィンテージ感。
ダイニングと並ぶ洋室を一つの空間に。7年前に〈ザ・コンランショップ〉で購入したソファも、よきヴィンテージ感。

東京とその近郊で育った野口さんが実家を離れたのは、結婚のタイミングだ。同時期に友人の紹介でたまたま見たのが今の物件。都心に好アクセスで静かな世田谷区の住宅街、低層の新築マンションは魅力的だった。

「まさか25歳で都内に新築のマンションを買うなんて自分でも思っていなかったけど、若いから、勢いだけはあったのかも」

ほかの物件を見ることもなく、審査が通ると購入を決めた。キッチンカウンターの外装を兼ねた収納と、ダイニングに造り付けの収納は、その際にオーダーメイドしたもの。雑誌で見た家具に一目ぼれして「この家具はどこで買えるのでしょうか」と、編集部に電話で問い合わせると、職人さんに連絡を取ってくれて、依頼にこぎつけた。

「SNSどころかネットもまだまだという時代、デザイナーや職人さんの情報も少なくて」

打ち合わせに現れた家具職人は、当時で70歳は超えていただろうというベテラン。

「サイズや材質はもちろん、細かな注文にすべて応えてくれて。場所を取る開き戸より引き戸がよく、取っ手は埋め込みで丸形。思った通りのものが、ぴったりハマッたときは感動しましたね」

どこまでもシンプルでモダン、経年の艶やかさをまとった大型の収納家具が、インテリアの要になっている。
ブランドより自分の「好き」に従った家造り。かと思えば、ル・コルビュジエの名作家具も。

「20代前半、コルビュジエを所有してみたくって。まだ結婚する前の夫の部屋に置こうとせがんで、折半で、実際には言いだした私が多く負担して(笑)」

一生モノとはよく言ったもの。「若いときにいいものを」スピリッツは器にも通じる。膨大なコレクションの多くは、やはり20代から使い続けるものだ。

「服やバッグと違って、本当にいいものは飽きがこないでしょう? だから若い人たちにも〝いいものを〟と言うんです」

家族にまつわるものが温かなアクセントに。

キッチン、リビングダイニングは10年前にリノベーション。大判のタイル、木の天井が、造り付けの収納家具にもよく合っている。料理教室は、カウンターを囲んでのデモンストレーションスタイル。
キッチン、リビングダイニングは10年前にリノベーション。大判のタイル、木の天井が、造り付けの収納家具にもよく合っている。料理教室は、カウンターを囲んでのデモンストレーションスタイル。

大きな家具選びが、いかに室内の印象を左右するかを教えてくれるような野口さんの部屋だが、ディテールにも〝らしさ〟が光る。例えば、室内を彩る絵画は、10代の頃から70代の今に至るまで絵を描き続けるお母様の作品が中心。「料理好きで、生活全般においてクリエイティブな人」と話すお母様から受け継いだものは、少なくなさそう。クールに決まった空間の中で、一瞬目を引くも不思議と景色になじむ子供のおもちゃは、料理教室の生徒さんが連れてくるお子さん用。今は成長した野口さんのお子さん二人が使っていたこれまた年代物だが「いいものは長持ち」の法則で、今の子供たちにも喜ばれるのだとか。

20代前半で「料理家になる!」と一念発起し、25歳で結婚、28歳と36歳での出産と、バリバリにキャリアを築きながら、並行して子育てもしてきた。原動力を尋ねると「若気の至り? 恐いもの知らずね」と笑うが、揺るぎない自分の軸と清々しい決断力が、部屋のしつらえにもしっかり、表れている。

自宅での時間の大半を過ごす16畳のダイニングとキッチンを中心とした89平米の3LDK。南向きで日当たり良好。造り付けの収納を生かし、大型家具を置かずすっきりとした空間に。
自宅での時間の大半を過ごす16畳のダイニングとキッチンを中心とした89平米の3LDK。南向きで日当たり良好。造り付けの収納を生かし、大型家具を置かずすっきりとした空間に。

【TODAY'S SPECIAL 】旬を添えた、ワインに合う味。

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一人で、15歳の長男と一緒にと、変化する食卓。写真は友人を招いた午後の一コマ。大のワイン好きで『家で、通いたくなる店の味 予約のとれないバル編』(主婦の友社)などの著書もある野口さんの料理目当てに集まる友人が後を絶たない。無糖のピーナッツバターを使ったケールサラダ、蒸しハマグリなど。

ESSENTIAL OF -MAKI NOGUCHI-

飽きずに使い続けられるもの。家具も、それ以外も。

( STORAGE )
細部まで希望を反映した収納。
収納力や出し入れのしやすさはもちろん、取っ手の形までリクエストして作ったダイニングの収納。アメリカンアンティークのような雰囲気。


( STOOL )
デザインと機能性のお手本。
切り株型のスツールは、フィリップ・スタルクの「ニョメス」シリーズ。長女の出産祝いにもらって23年「座りやすさも格別」と、野口さんの定位置に。


( TOY )
息子さんのお下がりフィギュア。
ドイツ〈シュライヒ〉社の動物フィギュアは、「銭湯にも、旅にも一緒に」と、息子さんが幼い頃に愛用していたもの。今は生徒さんのお子さん用。


photo_Tetsuya Ito illustration_Yo Ueda text & edit_Kei Sasaki

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