古民家をリノベ中 寿木けいの 「一から家具を作ってもらうということ」#3
「自分のために家具を作ってもらうことは自分の物語を描くこと。それには自分はどう生きるのかを決める力が必要でした」。
エッセイストの寿木けいさんはテーブルやキッチン、照明を家具職人やアーティストの方に一から依頼して作ってもらった。大変だけど、豊かで、おもしろくて、楽しい。その制作と思考の過程を聞きました。寿木さん書き下ろしのエッセイも。
#1はこちら
それから、こんな出会いもありました。
さまざまなキッチンのショールームに出かけましたが、既製品にはなかなか気に入ったものがありませんでした。私がキッチンに合わせるのではなく、キッチンが私に合わせてほしい。こんな簡単なことがなぜ叶わないのだろうと、行き詰まっていたそのとき、
「作っては?いい職人さん知ってますよ」
建築家の坂野さんが教えてくれました。こうして、鈴木岳さんを紹介してもらい、私のキッチン計画が動き出したのでした。結局、キッチンカウンター、作業台、そして、直径百五十センチのテーブルを作ってもらいました。
なかでも、幅約二メートルの作業台は、私が最初にリクエストしたものでした。この台で調理をする私の前で、子供が座っておやつを食べたり、宿題をするイメージが、私のなかにはっきりあったのです。
ある打ち合わせで、機能や使い勝手に意識が向いていた私に対し、鈴木さんはバランスという視点で改良を加えてくれました。なぜそこに手を加えるのかと聞いた私に、「このほうが家具として美しいです」
こんなまっとうな言葉、従うしかありませんでしたし、これを聞けてうれしかった。
職人はすべて、美しさの追究のために技術を磨き、経験を積むのでしょう。
家具や作品をオーダーするということは、自分の一部を職人に委ね、跳ね返された光、つまり打ち返された作品を、家に迎え入れるということだと思います。それは、生活をおもしろくしてくれる、心強い存在なのです。