古民家をリノベ中 寿木けいの 「一から家具を作ってもらうということ」#2

LEARN 2023.08.07

「自分のために家具を作ってもらうことは自分の物語を描くこと。それには自分はどう生きるのかを決める力が必要でした」。
エッセイストの寿木けいさんはテーブルやキッチン、照明を家具職人やアーティストの方に一から依頼して作ってもらった。大変だけど、豊かで、おもしろくて、楽しい。その制作と思考の過程を聞きました。寿木さん書き下ろしのエッセイも。

#1はこちら

こうした思いの濃さは、家具やインテリアなどの細部にも表れるようになりました。
 
私はあるときから、SNSや雑誌で家の情報を集めることを一切しなくなりました。素敵な家や家具はたくさん載っているけれど、それは誰かの物語であって、私の物語ではありません。他人の物語によって発想の器がいっぱいになってしまい、何も決められなくなった時期があったのです。
 
これは非常にまずいことです。なぜなら、古い家を継ぎ、直し、自分の場所に作り替えていくには、物語を描く胆力−どう生きるかを決める力が絶対に必要だから。
 
こう納得してからは、好きなものをとことん掘り下げることへ、関心が移りました。
 
まず訪れたのは、京都の河井寛次郎記念館でした。十代で初めて訪れたとき、私は寛次郎作の器がデザインされたハガキを一枚買い、勉強机の脇に大切に飾っていました。以来、大好きな場所です。
 
寛次郎の家にあるものは、ほとんど彼が作ったり書いたりしたものでした。一作家として手を動かし続けたこと。権力から距離を保つ、泰然としたあり方……寛次郎の生き方に憧れ、彼が生きた時間の蓄積としての家を全身で感じることが、私はただ、うれしいんです。家に包まれて力をもらっているんです。この発見は、大きなヒントになりました。

こんな風に、家との向き合いかたが変わると、出会いを引き寄せるのかもしれません。
 
富山の実家に帰省したときのことです。実家の近くに、井波という町があります。木彫刻で有名なこの町で、高校の同級生で木彫刻家の前川大地さんが工房を開いていると知り、ふと、寄ってみようと思い立ちました。
 
十年以上会っていなかったのに、同級生が職人であるというその一点に、予感らしきものがあったことが本当に不思議です。

工房には、ちょっとおもしろい球体がぶら下げられていました。「これなに?すごく素敵!」
 
聞けば、照明の試作だと言うではないですか。値段も聞かず、ただ私はこれが好きだという確信だけがあり、完成したら買うと約束して別れました。それから約一年後に届いたのが、写真(上)の照明です。
 
包みを開いた瞬間、クスノキの鮮烈な芳香が溢れ出しました。同じ時代を生きている職人の、まさにその手から彫り出された作品が私の家にある。その懐かしさと美しい姿で、目にするたびに心を揺らし、故郷と私を結びつけてくれます。

photo : Koichi Tanoue

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