デリケートゾーン、どうケアしてる? 森田敦子さんに、今改めて聞きたい「フェムテック・フェミニンケア」のこと。

LEARN 2023.03.08

ここ数年よく聞くようになった「フェムテック」という言葉。吸水ショーツや月経カップなど、フェムテックアイテムは私たちの生活にも身近になってきました。その一方、実際に使っているという人は、まだまだ少数派のようです。そこで、改めて「フェムテック」とは何なのか、まずはどういうケアをしていけばいいのか、フェムテックコスメのパイオニア「アンティーム オーガニック」や「Waphyto」の代表兼開発者で、植物療法士の森田敦子さんに話を聞きました。

そもそも「フェムテック」とはどういう意味?

ーー最近聞くようになったフェムテックという言葉ですが、改めて意味を教えていただけますか?

森田 元々はデンマーク人の実業家イダ・ティンさんという方が、2013年ごろに、女性のホルモンや性器のことなどに関連したテクノロジーをカテゴライズして使ったのが始まりと言われています。意味としては、女性の体や心のことをより深く知ることができたり、あるいは不調をケアできるようなテクノロジーということですね。日本にもそのまま「フェムテック」という言葉として、ここ5〜6年で入ってきました。ちょうど、日本で女性の健康を整えていくということが産業においても重要だと注目され始めていた流れもあったと思います。そのため、フェムテックは食品産業や電子機器産業、アパレル産業の中でも重要とされ、現在のように大きくクローズアップされるようになりました。

私がヨーロッパで勉強してきたフェミニンケアやセクソロジーの考え方からすると、女性は小学生頃から月経が始まり、排卵することで妊娠できる体へと変化していきます。それらは意識されることなく代謝やホルモンによって行われていきます。つまり、そもそも私たち女性の体の中にテクノロジーがあるんですよね。月経や排卵、妊娠出産、更年期など、自分の身体に起こることについて、仕組みをきちんと知り、理解しようという考え方が、フェムテックの根底にあると個人的には思っています。

ーーフェミニンケアという言葉がありましたが、これもフェムテックと同じような意味なのでしょうか?

森田 フェミニンケアというのは、女性の不調に対してしてあげるケアのことです。今まで女性がなかなか言いづらかった生理のことや、更年期・プレ更年期、それからホルモンの状態が変わってくることでホットフラッシュが起きたり、鬱になってしまったり。女性の体には心身に影響が出る様々な不調がありますよね。そういう不調には、なんといっても膣周りのケアが欠かせません。

ーー膣周りのケアは抵抗がある人もいそうです。どのようなケアをしていったらいいのでしょうか。

森田 特に日本人は、子供の頃に親に教えてもらうことも少なく、学校でも習わないですよね。セックスに関しても、体の仕組みや自分の体がどう感じるかが分からず、見様見真似でなんとなく満足も得られないままフェイクをしてしまう…という方も多いのではないでしょうか。
腟まわり(外陰部)は、排泄やおりもの、生理などで毎日お世話になる場所です。皮膚もとても薄いので、トイレットペーパーでゴシゴシ擦ったり、きちんと保湿ができていないと肌トラブルが起きて痒くなったり、黒ずんでしまったりする。
さらに、膣口や陰核付近には尿やおりものによる、恥垢という特別な垢が溜まっています。そもそも体の汚れって、部位によって違うんです。頭はシャンプーで洗い、顔はフェイスソープで洗い、ボディはボディソープで洗いますよね。膣周りや外陰部はとてもセンシティブにできていますから、専用のソープで洗い、きちんと恥垢をオフして、保湿ケアまでするのがおすすめです。

ーーデリケートゾーン専用のソープは、まだあまり一般的ではないような気がしますね。

森田 そうなんです。勘違いされる方もいるのですが、膣の中をゴシゴシ洗うためのものではありません。腟の中は粘液の自浄作用があるので洗う必要はなく、たっぷりの泡で大陰唇や小陰唇のひだのまわりをやさしく洗ってください。タオルでゴシゴシ洗ったりせず、爪を立てずに手でやさしく洗うのがポイントです。

ーーソープ以外におすすめのフェミニンケアはありますか?

森田 IラインとOラインの脱毛はお勧めしています。今は自分で脱毛ができる脱毛器が出ていますよね。剃刀で剃ったりせずに、そういうものを利用して脱毛をしておくと、自分が介護される側になった時にもケアがずっと楽になります。脱毛後は乾燥しやすくなるので、保湿ケアも必ずしてくださいね。

ーーフェミニンケアをすることで得られるメリットは大きいものなんですね。

森田 はい。腟まわりのケアを続けていけば、肌トラブルも起こりづらく、いつまでもプリンと弾力のある状態を保つことができます。陰部を「臭くて汚いグロテスクなもの」と捉えるのではなく、きちんとお手当をして、綺麗にしておくと、触れることも抵抗がなくなり愛らしく思えるはずです。おりもののように自分の内側から出てくるものは体のバロメーターでもありますから、匂いや色を確認したりすることも大切なんですよ。

女性の体の部位の名前さえタブーだった日本。

ーー森田さんは日本でフェムテックが話題になるずっと以前から、フィトテラピーと共にフェミニンケアを提唱されてきました。当時はどのような反応だったのでしょうか?

森田 私がパリ13大学の医薬学部自然療法学科で学び、日本に帰ってきたのは25年ほど前のことです。パリではフィトテラピー、いわゆる植物療法学を修める際に、性科学という教科も学ばなくてはならなかったので、必然的にいわゆる外陰部のことや子宮のこと、膣のこと、セックスのことを学問として学びました。帰国後、フィトテラピーやアロマテラピーということと同時に、性科学やフェミニンケアの話をしたら、方々でとても怒られましたね。

ーー25年前は、今よりずっと抵抗感を感じる人が多そうです。

森田 当時は、外陰部とか膣という言葉だけでそれは大批判でした。「森田はなにを言ってるんだ」「恥じらいを知れ」といった具合です(笑)。もちろんデリケートゾーンのケアや脱毛なんていうのは、「卑猥な話だ」と言われ、全く受け入れられませんでした。10年前でも怒られましたし、本当にここ4、5年ですね、ようやく世間でも受け入れられるようになってきて、一般の女性が悩んでいることを打ち明けてくれるようになったのは。

ーーそういう強い反発であったり、心ない言葉を受けて、それでもなおこの活動を続けようと思った理由を伺えますか?

森田 私は20代で客室乗務員の仕事に就き、1980年代後半ごろは、男女雇用機会均等法が施行されてから10年以上経っていましたが、女性が退職する理由もなんとなく寿退社しか認められていないような時代でした。そんな中で、私は病気をしたことをきっかけに自分の健康に向き合おうと思い、植物療法を学ぶため、退職してヨーロッパへ留学することを決めたんです。
先程もお話しましたが、フランスにおいて、性科学(セクソロジー)は医学のど真ん中にあるんです。食欲、睡眠欲と同じように、性欲まで全てを理解してこそ植物療法を生かせるということを学びました。当時の私は、性に対してタブーなことと思っていましたし、「マスタベーション」なんてとんでもなく卑猥なことだと思い込んでいました。けれど、そこを科学的に勉強した時に「これこそが、日本で伝えていかないといけないことだ」と感じ、帰国後に活動を始めてからは、叩かれたとしても、活動を辞めたりすることは考えませんでした。
「そうだよね、日本は恥じらいの国だからびっくりするよね」と、私自身が20代で性科学を知りショックを受けたからこそ、丁寧に、言葉もちゃんと選んで伝えていかなければいけないなと思いました。

「自慰」は慰めることではない。自分なりのフェムテックを見つけて。

ーー最近ようやく日本でもフェムテック市場が活況になってきました。パイオニアである森田さんの目から見ると、今の状況はどのように映っていらっしゃいますか?

森田 喜ばしいことですよね。でも、フェムテックは、テクノロジーを売ろう売ろうするんじゃなくて、やっぱり啓蒙と知識がセットになっていなければならないと思います。ただ産業が潤うようにするだけでは、盛り上がった分、すぐに下がってしまうのではないでしょうか。フェムテックがただのお祭り騒ぎになって終わってしまわないようにすることがこれから大切になってくると思います。

人生100年時代の今、心と体をしっかり整えるためには、知識を持って、お手当をして、この体であることって幸せだよねという気持ちを持つことが大切だと思います。例えば、マスターベーションはオーガズムに達すると脳内物質であるオキシトシンやβエンドルフィン、アナンダミドなどの至福物質が出るんです。そうするとその時感じていたストレスも「まあ、いっか」と思えたりする。これは科学的なことなんですよ。そういう快感を得る臓器というのが、女性の体の中に標準装備されているんです。マスターベーションのことを日本語では「自慰」と言いますが、決して慰めることではありません。パートナーがいようがいまいが、そんなことも関係ありません。ちゃんと自分の体を触って、快感を得ることができるんだということを知っておけば、例えフェムテック産業が終わったように見えても、自分に必要なケアは続けられると思います。それから、例えばママになって、子供が3歳〜5歳になった時に、自分の体の大切さについて伝えてあげられるようにもなりますよね。だから全ての女性に「自愛」すること、フェミニンケアすることは人生において大切にしていってほしいですね。

photo:田ノ岡哲哉/アフロ

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