全仕事人感涙の映画『ハケンアニメ!』に、原作者・辻村深月が感じたドラマ。

LEARN 2022.05.10

雑誌『anan』での連載を経て2014年に単行本化した小説『ハケンアニメ!』。監督、プロデューサー、アニメーターなど、アニメ業界で働く人々を描くこの群像劇が、発売から約8年の時を経てスクリーンに登場。新人とスランプに陥った天才、2人のアニメ監督のどちらの作品がその期の〝覇権〟を取るのか…という物語。この映画のために〝覇権レベル〟の劇中アニメが2作も作られるなど、異例の熱量が注がれた。原作者の小説家・辻村深月さんに、今の思いを語ってもらった。

「 熱意と繊細さを持ったチームに物語を託せて、幸せです 」

単行本発売の翌年くらいに、「実写化の話がいくつか来ている」と編集者から聞いたのが最初だったと思います。その中のひとつに、「このシーンはこうしたい」などとても詳細に書かれた熱い企画書があった。それでそのプロデューサーさんにお会いしたところ、「アニメがテーマだが、実写映画を作る自分にも当てはまる感情や状況がたくさん描かれていて、これは自分ごととして絶対に実写化したい」とおっしゃって。そこまで思っていただけるなら…と、原作を託すことに決めました。

実写化は原作をそのまま映像化するわけではなく、オリジナル要素を加えることも多い。私もデビューまもない頃は、原作そのままのほうが〝物語に込めた芯〟が伝わるはず、と思っていたのですが、今は逆に、芯を伝えるためにこそ脚色がある、ということもよくわかります。今回のチームはまず脚本を書く前に、「斎藤瞳を主人公にしてもいいか」と聞いてくださったんです。小説版は群像劇ですから、誰を主人公に据えてもよいはずなのに、主人公の視点についてから相談してきてくれた。ここまで繊細な点にこだわれるチームなら、大胆な脚色をしたとしても〝原作通り〟に大事に作ってくれるはず、と確信しました。

完成した映画は、私が小説で言葉にして書いていたことを、セリフを使わず、俳優さんの表情や仕草などですべて表現されていたのが本当にお見事で。特にそれを強く感じさせられたのが、映画のエンディング近く、吉岡里帆さん演じる斎藤瞳の、ある状況を観て感情を噛みしめるシーン。言葉に頼らない描き方をすることで、逆に大事な想いが際立つようになっていて。そのうえで原作の中の、私が〝これが鍵になる〟と思ったセリフはほぼ全て残してくれた。監督と脚本家、それから吉岡さんは、どれだけ原作を読み込んでくれたのだろう、と原作者冥利に尽きます。

もともとは、私がアニメが好きで、制作現場が知りたいという気持ちで書き始めたのですが、原作を愛してくださった読者の皆さんにも満足していただける映画だと思います。単行本から8年後の映画化ということは、この物語の中には、8年経っても古びない何かがあると思ってもらえたのかもしれない。映画になることで、さらに長く愛してもらえる作品になってほしいと願っています。

辻村さんが語る、4キャストの魅力。

新人アニメ監督 斎藤 瞳( 演・吉岡里帆 )

〈Tsujimura's Comment〉
見た目も感情表現も、瞳以外の何者でもない
〈Tsujimura's Comment〉
見た目も感情表現も、瞳以外の何者でもない

「吉岡さんが、瞳の怒り方や喜び方を寸分の狂いもなく表現してくれ、本当にうれしかった。特に物語後半の瞳が怒るシーンはすごい。吉岡さんの役と物語への理解の深さを実感する、名場面です」

伝説のアニメ監督 王子千晴( 演・中村倫也 )

〈Tsujimura's Comment〉王子が初登場する場面の爆発力に注目してほしい
〈Tsujimura's Comment〉王子が初登場する場面の爆発力に注目してほしい

「王子は、カッコつけているように見えて実は泥臭くて、だけどそれがたまらなく魅力的という、難しい役。中村さんの王子が本当に素晴らしくて、スクリーンに釘付けになりました」

アニメプロデューサー 行城 理( 演・柄本 佑 )

〈Tsujimura's Comment〉敵なのか味方なのかわからない空気感、すごい!
〈Tsujimura's Comment〉敵なのか味方なのかわからない空気感、すごい!

「嫌味ったらしいけど茶目っ気があるという、この行城の性質を、真顔でこんなふうに演じられるのはきっと柄本さんだけだ!と、最初の登場シーンの存在感からもう感動していました」

アニメプロデューサー 有科香屋子( 演・尾野真千子 )

〈Tsujimura's Comment〉作品を守る覚悟と愛を存分に表現してくださった
〈Tsujimura's Comment〉作品を守る覚悟と愛を存分に表現してくださった

「プロデューサーだからこその包容力と凛々しさは、尾野さんだから醸し出せたと思っています。ちょっとした視線や表情の変化で彼女の覚悟が伝わってきた。香屋子と王子の並んだ立ち姿が大好きです」

『ハケンアニメ!』

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公務員から転身した新人監督・斎藤瞳と、崖っぷち状態の天才監督・王子千晴。同じ時間に放送される2人の作品、今期の“覇権”を取るのは!? アニメに熱く向き合う人々を描いた物語。監督:吉野耕平 脚本:政池洋佑 原作:辻村深月著『ハケンアニメ!』(小社刊) 

辻村深月

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つじむら・みづき/1980年山梨県出身。2004年『冷たい校舎の時は止まる』で第31回メフィスト賞を受賞しデビュー。最新刊は『ハケンアニメ!』のスピンオフ小説集『レジェンドアニメ!』(小社刊)。斎藤瞳のその後や、若き日の王子千晴の物語が描かれる。

photo : Maki Ogasawara (Tsujimura) text : Yuki Kono

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